4月2日、新型コロナウイルスの感染拡大を受けてTBSは「4月4日から19日までの2週間、ドラマやバラエティにおけるロケとスタジオ収録の中断」を発表しました。その理由に挙げられたのは、「不特定多数の方々と接したり、大人数が集まったりするケースが多い」「一般の方々や出演者の方々、番組スタッフへの感染予防を最優先」の2点。さらに20日以降も状況を見て「再開するかどうか」の判断を下すようです。 TBSは前日にも今春スタートのドラマ3作(『半沢直樹』『私の家政夫ナギサさん』『MIU404』)と、大型特番『オールスター感謝祭』の放送延期を発表していました。ともに4月の重点番組だけに、「これを延期するくらいなら他の番組も厳しいのでは?」と不安視されていましたが、それに続く対応は思いのほか早かったのです。 また、テレビ東京も、「3日から生放送を除く収録を中断し、1週間をめどに社員の出社を2割程度に絞る」ことを発表しました。TBSとテレビ東京の対応は、明らかに他局よりも一歩進んだものであり、ネット上に「妥当」「他局も続くべき」などの好意的な声が寄せられています。 ただ、発表時から批判の声が挙がっていたことも事実。批判の声を挙げた人々には、どんな言い分があり、テレビ局に何を求めているのでしょうか。 テレビ局の対応が遅すぎる理由 否定的な声で最も目立つのは、「世間はとっくに自粛ムードなのに遅すぎる」「今まで社員やタレントの健康をどう考えていたのか」「テレビ局だけ特別だと思っているのだろう」という対応の遅さに関する声。 志村けんさんが亡くなったことが報じられたときから、人々の間に「感染しない、感染させないことを最優先にすべき」という意識がグッと高まっていることをあらためて感じさせられました。それと同時に、「自分たちがそうしているのだから、ほかの人たちも絶対にそうするべき」という大義名分にもとづく同調圧力が高まっているとも言えるでしょう。 では、なぜここまで「危ない」と言われていた収録を中断できなかったのか。部署も職種も異なる3人のテレビマンに匿名を条件に尋ねたところ、「各所への影響の大きさを考えると、なかなか踏み切れない」という同じような言葉が返ってきました。テレビマンたちが言う各所とは、まずスポンサー、次にタレント、制作会社とフリーランス、そして局員。ビジネスである以上、クライアントであるスポンサーの意向を踏まえるのは当然ですし、ある程度の理解が得られたとしても、出入り業者の収入を絶てば生活が危うくなることを危惧したのでしょう。 ===== また、日ごろ他局との熾烈な視聴率争いをしているだけに、「他局も厳しい状況なのにウチだけ収録をやめて、視聴率を下げるわけにはいかない」というチキンレースのような感覚があったようです。しかし一方で、「在宅率が高く、暗い気持ちの人が多い今こそ、テレビが楽しみを与えなければいけない」と使命感を語るテレビマンもいました。 これらさまざまな思いを抱えていたものの、日に日に収録現場は窮状に追い込まれ、さらに志村さん、宮藤官九郎さんなどの芸能人や局内からも感染者が出たことで、「もし特定の番組がクラスターになったら責任を取れない」という危機感が芽生えているのでしょう。テレビ業界は、とかく「古い」「上から目線」などと批判されがちですが、TBSやテレビ東京を見ればわかるように、以前よりは柔軟な対応ができるようになっているのも確かなのです。 「#再放送希望」とテレビマンの意地 批判とともに現在ネット上で盛り上がっているのが、再放送を求める声。「テレビ局は古き良きコンテンツをたくさん抱えている」「各局は志村さんが出演した番組を再放送すべきだ」「重症化リスクの高い高齢者を家にとどめる最善策ではないか」などを理由に挙げ、「#再放送希望」というハッシュタグとともにツイートする人が増えているのです。 とりわけTBSが収録中断を発表した際には、「志村さんの『8時だョ!全員集合』と『カトちゃんケンちゃんごきげんテレビ』が見たい」「名作なら『逃げ恥』『義母ムス』『半沢直樹』!」「高齢者には『水戸黄門』、子どもには『まんが日本昔ばなし』を」「80年代の『風雲!たけし城』や『スクール☆ウォーズ』もぜひ」「『3年B組金八先生』シリーズを通しで見たい」などと、現在までさまざまな番組名が挙がっています。 他局の番組でも、外出できない子どもたちのために「世界名作劇場」「藤子不二雄の作品」「機動戦士ガンダムシリーズ」「ルパン三世シリーズ」などのアニメ、今こそ笑いが必要という理由から『オレたちひょうきん族』『とんねるずのみなさんのおかげです』『ウッチャンナンチャンのやるならやらねば!』『ダウンタウンのごっつええ感じ』『めちゃ×2イケてるッ!』などのお笑い番組、『ザ・ベストテン』『夜のヒットスタジオ』『ポップジャム』などの音楽番組など、それぞれのジャンルで番組名が挙がるなど大盛り上がり。 大人は懐かしく、子どもには新しいものも多いだけに、もし各局が一斉に再放送の番組を増やしたら、「これは面白い」「これは新発見」などの声が飛び交い、ちょっとしたブームになるかもしれません。 ===== ただ、「#再放送希望」のハッシュタグが飛び交う様子は、テレビ業界にとって、痛しかゆしの状況。それは再放送を求める声が、「これまでテレビがいかに多くの名作を生んできたか」の証明であるとともに、「現在の番組に満足していない」という意志表示でもあるからです。 テレビマンたちにとっては、「再放送を求める気持ちはわかるけど、プロとして認めたくないところがある」のが正直なところ。「通常の収録ができなくても、どのように楽しませるか」「工夫を凝らした再編集で、どのように笑わせるか」、腕の見せどころでもあり、気合の入っているテレビマンもいるはずです。特に再放送より再編集を選ぶであろうバラエティの作り手たちが、どんな対策を施して意地を見せるのか、期待していいでしょう。 報道・情報番組へのやまない批判 収録を中断しても撮影済みのストックがいくつかあるため、すぐにそれほどの変化は感じないでしょう。しかしその後、「当たり前のように見ていた番組が見られない」という状態が訪れたとき、人々は思っていた以上の違和感を抱くはずです。 たとえば、「毎朝同じものを食べないと落ち着かない」「枕が変わるだけで寝られない」という人がいるように、人間は日常生活の違和感に異常事態を察知しやすいところがあります。現在は「不要不急の外出自粛を控え、テレワークが進んでいる」など在宅率が高いこともあり、テレビ番組の変化に対する違和感は、より大きいのではないでしょうか。 さらに言えば、そんな日常生活の違和感こそ、「今は誰もが我慢のとき」「みんなでこの苦しい状況を乗り切ろう」という一体感につながりやすい傾向があります。現在、報道・情報番組では、「頑張りましょう」「気をつけましょう」というメッセージを発信し続けていますが、聴覚に訴える言葉は表面的な印象を与えがちなだけに、視覚に訴える形で違和感を抱かせたほうが効果は期待できるでしょう。 その報道・情報番組はTBSやテレビ東京も、「感染防止に最大限の配慮を行いながら取り組む」という方針を変えていません。ここにきて出演者たちが距離を取るなどの視覚に訴える違和感を見せることで、視聴者に事の重大さを実感させているものの、それでもなお批判はやまないのです。 ===== 報道・情報番組への主な批判を挙げると、「スタジオの人数が多すぎるから減らすべき」「ただでさえ不要なコメンテーターはこの機会になくしてほしい」「専門家もテレビ電話の出演で十分」「街頭インタビューはリスクがあっても得るものはない」など、感情的なものではなく、テレビ局にとっては頭の痛い正論ばかりでした。 さらに番組の内容に関しても、「無責任に危機感をあおっているだけ」「毎日ほとんど同じことを言っている」「けっきょくどの局のどの番組も一緒」などの批判に多くの「いいね」が押されている状態。現在の報道・情報番組に求められているのは、「興味深い」「役立つ」よりもシンプルなものであり、横並び放送から抜け出す姿勢のようなのです。実際にNHKのストレートニュースが高視聴率を連発していることが、そんな人々のニーズを物語っているのではないでしょうか。 「やられた」「ホッとした」他局の本音 今回のような危機的状況では、生命や生活を維持していくための食料やライフライン(水道、ガス、電気、通信)以外の産業に自粛が求められるのは当然でしょう。事実、真っ先に酒席、旅行、ライブハウス、カラオケ、ジムなどに自粛が求められましたが、さらなる感染拡大を受けて、いよいよテレビもその流れに逆らえなくなったことは間違いありません。 何よりテレビ局にとって重要な存在である視聴者から、「出演者やスタッフを守ってあげてほしい」「楽しみにしていたドラマもあるけど、今は安全・健康のほうが大事」という声が挙がっている以上、無視するわけにはいかないでしょう。少なくとも、スポンサーやスタッフなどの関係者のことばかり考えてはいられないはずです。 余談ではありますが、私が日ごろやり取りをしているネットメディアや出版社など他のメディアから、「ほぼ完全にリモートワーク化した」という声が次々に届いています。さらにその多くは、「単なる危機的状況とみなすのではなく、仕事の進め方や報じる内容を見直そう」という前向きな姿勢の編集部が少なくありません。 TBSとテレビ東京の発表を知って、他局のテレビ局員たちは「先にやられてしまった」「これでウチも続けるからホっとした」などと、さまざまな感情を抱いているでしょう。もちろん今からでも遅くないだけに、両局の英断に続く勇気ある決断が、すべてのテレビ局に求められているのではないでしょうか。 ※当記事は「東洋経済オンライン」からの転載記事です。