<対話路線の大統領が新型コロナウイルス対応に追われるなか、警察によるパプア独立派への圧迫が強まる> インドネシアの東端、ニューギニア島の西半分を占めるインドネシア領パプア地方で地元治安当局がパプア人武装グループの潜伏先を襲撃。銃撃戦で2人が死亡し、1人が負傷、3人を逮捕し、現場から多数の武器を押収したことをパプア州警察当局が4月10日、一部メディアに明らかにした。 警察によるとこの武装グループは、3月30日にパプア州ミミカ県で「グラスベルグ鉱山」の事務所・居住区画が襲撃され従業員のニュージランド人(57)1人が死亡、インドネシア人2人が負傷した事件と関係した容疑がもたれているという(関連記事「武装組織襲撃で外国人含む3人死傷、独立運動で治安悪化が続くインドネシア・パプア」)。 しかし一方で武装グループ側は警察や軍が今回殺害、逮捕したのは襲撃事件とは無関係の一般のパプア人市民で、警察による人権侵害であると批判を強めている。 パプア地方は武装組織による治安当局との衝突が相次ぎ治安状況が極めて悪いことを理由に、インドネシア政府は外国メディアを含めて自由な現地での取材を原則として認めていない。 さらにインドネシアで感染が拡大している新型コロナウイルスの感染拡大防止策の一環としてパプア州は空路、海路が封鎖状態となっており、治安当局によるインターネット接続などの通信制限もあるなど正確な現地の情報が適宜伝わりにくい状況にもある。 銃撃戦で3人死傷、武器などを押収 そんな現地の状況の中、人権問題に詳しい米政府系放送局「ラジオ・フリー・アジア(RFA)」のネットニュース「ブナ―ル・ニュース」が10日に伝えたところによると、9日にパプア州ミミカ県ティミカで警察と陸軍の合同部隊が寄せられた情報を基に武装グループの潜伏先を急襲した。 この際の銃撃戦で武装グループの2人が死亡し、負傷者1人を含む4人が逮捕された。その後の捜索で潜伏先から手製武器や弾丸162発、多数の弓矢、パプア独立のシンボルである「モーニングスター(明けの明星)旗」などが押収されたとしている。 パプア州警察のアハマッド・カマル報道官はブナール・ニュースに対して、死傷者を含む6人はニュージランド人らを襲撃した武装グループに武器を供給する役割を担っていたとの見方を示し「襲撃事件との関係は明らかである」との立場を示している。 ===== 武装組織側は関係を否定、停戦提案 ところが一方で3月30日に起きたニュージランド人が死亡した襲撃事件で「犯行声明」を出した武装グループ「西パプア民族解放軍(TPNPB)」の関係者は、今回のインドネシア治安当局による潜伏先襲撃、摘発に関して「我々TPNPBとは全く無関係の一般のパプア人市民が襲撃で死傷し、逮捕された」との立場を明らかにし、治安当局によるパプア人への人権侵害事件として批判している。 パプア地方では小規模ながら長く「自由パプア運動(OPM)」による独立を求める武装抵抗運動が続いており、TPNPBはパプア州の中央山間部から南部を主な活動拠点とするOPMの分派とみられており、2019年以来治安部隊との衝突を繰り返している。 特にグラスベルグ鉱山に関しては米資本の会社とインドネシアの会社の共同で開発が進み、「地元パプアの資源を奪い、環境を破壊し、地元パプア人住民の人権を迫害している」として、鉱山関連施設や同社のパプア人以外のインドネシア人、外国人従業員への攻撃を最近続けている。 TPNPBの報道官を名乗るスビー・サンボン氏は、新型コロナウイルスとの戦いに国際社会が集中するために地域紛争や内戦の一時停戦を求めている国連のアントニオ・グテレス事務総長の呼びかけて応える形で「我々も4月に入ってから一時停戦をインドネシア治安当局に提案している」ことを初めて明らかにした。 この停戦提案に関してインドネシア側はこれまで事実の確認を含めて詳細を明らかにしていない。 ところがサンボン報道官によると「インドネシア側からの(停戦に関する提案への)反応はこれまでのところ一切ない」としている。そのうえで「インドネシアが停戦に応じないならそれはそれでいい。我々はフリーポート社関連施設を含めた目標への攻撃を続けるだけだ」との強硬姿勢を改めて示しているという。 大統領はパプア人との対話を模索するが...... インドネシアのジョコ・ウィドド大統領はかねてよりパプアの人権問題には深い関心を寄せて、何度も現地を訪問してはパプア人関係者との協議を通じて「治安問題の改善」「人権問題の解決」の道を模索してきた。 ところが政権内の軍や警察高官出身者を中心とする強硬派との板挟みからこれまでのところなんら有効な解決策を見出せていないのが現状だ。 そこへきて新型コロナウイルスという未曾有の危機への至急かつ全面的対応を現在は求められており、パプア問題は国内でも「忘れられた内紛」となりつつある。こうした状況下で、人権活動家や国際NGOの間では、軍や警察など治安当局による間隙を縫うような形での人権侵害の頻発、激化を心配する声が高まっている。 [執筆者] 大塚智彦(ジャーナリスト) PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など ※画像をクリックするとアマゾンに飛びます2020年4月14日号(4月7日発売)は「ルポ五輪延期」特集。IOC、日本政府、東京都の「権謀術数と打算」を追う。PLUS 陸上サニブラウンの本音/デーブ・スペクター五輪斬り/「五輪特需景気」消滅?