<ヨーロッパでは、国境閉鎖や移動制限による搬送手段と人出不足で、農作物の価格が高騰しはじめている> 各国の新型コロナ対応策が一進一退するなか、すでに次の危機が懸念されはじめている。WHOや国連などが先日、来る食糧難を警告した。 生産量が問題なのではない。国境閉鎖や移動制限による搬送手段と人出不足、そしてライフスタイルの変化によるものだ。たとえば、欧州で人気のスナックといえば断然フライドポテトだが、外食産業の営業縮小によりオランダでは何百万トンのじゃがいもが余剰となっている。他方、東欧などからの季節労働者が来られないため、作物収穫の手が足りず、農作物の価格が高騰しはじめている。 穀物の大生産地であるインドやロシアでは、国内での消費量確保のため、すでに輸出を制限し始めている。 地産地消するなら高価格でも仕方ない? 外出制限が出されてそろそろひと月が過ぎようとしているドイツだが、スーパーマーケットでは相変わらず緊張感がない。マスク姿はほぼ見られない。メルケル首相の演説でも買い出しは一人で素早く済ませるよう奨励されているにもかかわらず、店内は家族連れやカップルでいっぱいだ。ぺちゃくちゃしゃべる人たち、すぐそばまで近寄ってくる人たちも多い。レジ前では床の印に合わせてかろうじて距離をとってはいるものの、横入りされないか皆心配でたまらないようだ。ソーシャル・ディスタンシング(社会的・身体的距離の確保)が奨励されるようになるずっと前から、ヨーロッパでは北米のように十分なパーソナルスペースを取る習慣がなかった。在欧16年にして筆者が未だに慣れない点だ。 大手スーパーなどの食糧配達サービスもあるが、注文が殺到して配達不可能、あるいは数ヶ月先と、ほぼ機能していない状態だ。そこで、スタートアップなどの小規模のデリバリーサービスが大量に登場してきている。筆者も、地元のオーガニック野菜のデリバリーサービスを利用してみた。10日後に届いた21ユーロ相当のボックスに入っていたのは、巨大なじゃがいも6個、しなびかけた人参5本、小ぶりのきゅうり2本、根セロリとバターナッツスカッシュ(かぼちゃの一種)各1個、スイートペッパー2個、それにあまり新鮮ではない小さなキャベツ1個。 キャベツ以外の葉野菜が全くないこと、それに価格にまず憤慨した。スーパーならこの3分の1以下の値段で済むだろう。しかし、そこで思い直した。季節の野菜を地産地消するなら、もしかしてこれが適正な価格と内容なのだろうか? 東欧からの季節労働者が不足し、収穫できず ロックダウンされてからの南ドイツは残酷なほどの晴天が続いている。そのわりには人々は外出禁止をよく守っている。イギリスやフランスでは「禁止破りの密告」なども多くギスギスした雰囲気もあるようだが、こちらでは家族の訪問などの違反には目を瞑る人も多いようだ。ただ、フランクフルトでは公園を取り締まっていた警官が逆に襲われるという事件もあった(ドイツの警察はアメリカやカナダと違って高圧的ではない。自分も市民の一員だという意識が高いのだろう)。 ===== そしてこの時期は、ドイツ人が愛してやまない白アスパラガスの季節だ。ところが今年は移動制限により東欧からの季節労働者が来られないため、収穫ができない事態に直面している。不足労働者数は30万人。野菜や果物は痛みを避けるため、やはりどうしても人間の手で行われなければならない。結局、4月、5月で特別許可を得た季節労働者を4万人ずつ東欧から呼び寄せることとなり、10日、第一陣がルーマニアから飛行機で到着した。 政府は収穫作業を手伝える人を市民から募っているが、実は募集をかけていない農家などにも応募が殺到しているという。レストランやバーなどでアルバイトができなくなった学生たちだ。だが、手慣れた季節労働者たちと違い、学生たちには収穫方法を一から教えていかなければならない。そのせいか、スーパーでの価格は例年より高く、また農家の直売りの場合昨年の2倍というところもあるようだ。 なお、先にも触れたじゃがいもだが、白アスパラガスの付け合わせの定番でもあり、保存性もあることから、現在家庭での需要は増えている。しかしながら、フライドポテト加工用のじゃがいもは食卓用として流通させることが難しいという。ドイツのじゃがいも産業は農家たちと一緒に解決策を探しているようだが、隣国オランダでは何百万トンもの余剰のじゃがいもを家畜の餌用に格安で販売しているらしい。同国の農業がパンデミックで受けた損失は60億ユーロにも上るという。 ドイツのスーパーから農産物が消える? これまで、ドイツの野菜・果物は格安とも思われる値段だった。LidlやAldiなど大手ディスカウントストアの売り出しでは、夏ならきゅうり一本30セント、オレンジ1キロ1ユーロなどだ。ReweやEdekaなどのスーパーでは、季節に関係なく一年中同じ野菜や果物が手に入る。 これらのほとんどはスペインとイタリアから届いている。スペイン南部のアルメリア地方には400キロ平方メートルの世界一広大な温室施設が広がる。その最大の顧客はドイツだ。年間約38億ユーロ/1350万トンをドイツに輸出しているが、そこで働く約13万の収穫人のほとんどがアフリカからの不法移民だ。彼らの置かれた苦境は2018 年の独テレビ局ARDのドキュメンタリーに詳しいが、雨が降ったら室内が水浸しになるようなスラムに押し込まれ、各種保障ももちろんなく、時給にして2ユーロ程度で長時間の肉体労働を強いられている。強大なドイツのスーパーマッケットチェーンにより生産者側が低価格を強いられているのも原因だ。ドイツにて地産の農産物を購入するには懐が痛むが、こういった背景を考えると、スーパーの安い農産物を購入するのには胸が痛む。 パンデミック拡大のなか、ドイツからの農産物の需要は増えている。一方、外出制限中のスペインで、収穫作業は「必要な仕事」と認められてはいるものの、制限のため車両の乗り合いができなくなったこと、また取り締まりは警察の恣意的な独断によることも多いようで、これを恐れる不法移民たちが出勤できないことも増えているという。 このような状態が続くと、ドイツのスーパーから農産物が消える日が本当に来るかもしれない。 ===== 「必要不可欠」と認められ、移民の地位が向上 他方、パンデミックのおかげで待遇が多少改善されたのがアメリカの「未登録移民」だ(アメリカやカナダでは久しく「不法移民」という言い方はしない)。アメリカでの収穫作業の大半が未登録移民によるというのは公然の秘密であり、そのほとんどがメキシコ人だ。ニューヨークタイムズ紙のレポートによると、農業省の発表では全米の収穫人の約半数である100万人以上が未登録移民であり、生産者と労働請負業者の推定ではさらに多い約75%といわれる。それでも人手不足は深刻だ。 今回のパンデミックで農産物収穫が国土安全保障省から「必要不可欠」と認められ、未登録移民たちは雇用主から証明書を得た。これは法的な滞在を保障するものではないが、それでも移民たちのあいだで安堵感が広まっているようだ。また3月18日、移民・関税執行局は一般的な未登録移民ではなく犯罪関連にその対象を一時的にシフトすることを宣言している。 滞在許可の有無にかかわらず、これらの移民たちは長いことアメリカ社会の重要な歯車の一部であり、その子供たちのほとんどがアメリカ生まれだ。未登録移民の存在を認め、寛容な政策をとるのが北米の聖域都市の考え方だが、現アメリカ大統領の考えが異なるため一部の移民がメキシコに戻ってしまったことなども人手不足の原因のようだ。 しかし、今回必須と認められても、未登録移民たちは政府による新型コロナ救済パッケージの対象にはならない。英語を解さない労働者も多く、また工場などでは密集した状況になるため、良心的な雇用主たちは独自に労働者を啓蒙したり、病気保障を提供したりしているようだ。 ただ、ワシントン州やニューヨーク州などで今学年度すなわち8月末までの学校閉鎖がすでに決定されており、ランチ用野菜パックなどの需要がなくなったため、労働者たちも時短を強いられている。感染の他にも、生活費確保の問題が残っているようだ。 一方、食肉業界でも、アメリカやカナダのかなりの工場が従業員感染や労働者不足のため現在一時的に閉鎖されている。フードサプライシステムの脆弱さが懸念されている。