<スペインやイタリアで減少し始めた新型コロナウイルスの新規感染者──経済活動再開の声が高まるが封鎖解除のリスクは大きい> アウトブレイク(感染症の爆発的拡大)の最悪の局面がようやく終わったのではないか──何週間もの間、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による死者数が急激に増加し続け、その後に減少に転じた様子を見守ってきたスペインやイタリアでは、明らかにそんな見方が芽生えていた。 スペインでは今月に入って1日の死者数が4日連続で減少。感染拡大のペースの減速を受け、経済活動再開の可能性が口にされ始めた。 ところが4月7日になって、感染拡大ペースは勢いを取り戻した。翌日には死者数が2日連続で増加し、757人が死亡。累計死者数は1万4555人に達した。 とはいえ、こうした数字はどれも公式のものにすぎない。正確な集計が行われていないため、実際の死者数ははるかに多いとマドリード州政府も認めている。 感染者はどれほどいて、何人が亡くなったのか。本当のところは誰にも分からない。闇の中、先を照らす明かりもない現状では、コロナ禍が峠を越すどころか、峠の位置を見極めることも難しい。 誰も知らない感染者数 だが、それこそが差し迫った問題だ。 感染者数や死者数がいまだピークに遠いとみられるアメリカでは、4月10日に新型コロナウイルス関連の1日当たりの死者数が最多を更新。それでも、早期の経済正常化を求める声が多く上がっている。 2008年の金融危機以降、最大の打撃を受けた後でいかに経済を回復するか、米国内の各州は検討を始めている。懸念される第2波が、まだ訪れていないにもかかわらずだ。 3月下旬から経済活動が原則的に禁止されているイタリアの企業は、感染者の増加ペースが鈍化したとみられるとして、操業再開を政府に懇願している。オーストリアでも早期に、通常に近い状態に復帰できるとの期待が高まる。 スペインは非常事態宣言を4月25日まで延長した。それでも、4月12日のイースター(復活祭)の後には経済活動の再開を認める予定だ。 しかし、これはリスクの高い戦略だ。ウイルス感染が自国に及んだ当初はアウトブレイクを回避したはずのシンガポールや日本も、今になって感染拡大の第2波、第3波に直面している。日本政府は4月7日、7都府県を対象とする1カ月間の緊急事態宣言を発令する羽目になった。 多くのスペイン国民が悪夢の終わりを期待し始めた理由は、政府の姿勢にある。 スペイン政府は、アメリカなどで推奨されている「社会的距離」戦略よりはるかに厳格な措置を全国規模で実施し、徹底的に実行してきた。ペドロ・サンチェス首相が非常事態宣言を延長したのも、「警戒を緩めてはならない」との理由からだ。 ===== 被害が特に深刻なイタリア北部、ミラノの病院で治療を受ける患者(4月7日) FLAVIO LO SCALZO-REUTERS スペイン各地では、特に週末が始まる金曜日には道路が封鎖され、買い物客が警察に外出理由を問われた場合に備えて商店は証明書を発行している。子供の外出は一切認められておらず、3月10日に始まった休校措置は夏休み明けまで続く可能性が高い。 食料品店は早々に、レジ待ちの際に確保すべき間隔の目安となるテープを床に張り、レジカウンターに仕切りを設置した。現金は姿を消し、支払いはコンタクトレス決済が常識に。両頰にキスする挨拶が習慣だったこの国で、市民は今や北欧人並みに身体的接触に慎重になっている。 だが出口が見え始めた(と感じられる)一方で、このトンネルがどこまで続くのかは誰にも断定できない。 専門家によれば、スペインでは実際の感染者数のうち最大90%が集計に含まれていない。つまり、公式発表では累計約15万7000人(4月10日時点)だが、実際は100万人を超える可能性がある。 感染の範囲を把握するため、スペイン政府は特定の世帯を対象とする大規模検査の実施を計画している。こうした検査は近日中に封鎖措置を全面的、または部分的に解除する上で必要不可欠だ。 その前提には、初期の感染によって「集団免疫」を獲得したという想定がある。しかし、中国の回復患者を対象としたごく予備的な研究を見る限り、それが正しい想定かどうかは判然としない。 緩む警戒と新たな懸念 4月10日時点で、スペインの公式死者数はイタリア、アメリカに次いで世界で3番目に多い。ただし、この数字も無意味だ。死者にカウントされているのは、検査で陽性と判明し、その後に病院で死亡した患者だけ。入院前、あるいは介護施設で亡くなったり、原因不明の肺炎で死亡したりした人は含まれていない。 この数週間、首都マドリード市内の墓地で埋葬される遺体があまりに多いとあって、スペイン当局は公式集計に大きな漏れがあることを認識し始めている。地方政府の見解によれば、実際の数字は2~6倍に上る可能性がある。 感染のピークの見極めがどれほど困難であれ、経済活動の再開を訴える声は大きくなる一方だ。特に北部での工場閉鎖が今後も続きそうなイタリアでは、失業が深刻な問題に。既に2桁台にあるスペインの失業率も急上昇している。 欧州委員会は、EU各国が導入した封鎖措置の解除に向けたロードマップの発表を予定していたが、反対を受けて4月7日に断念。4月9日には、EUが最大5400億ユーロの経済対策で合意したものの、加盟各国間の対立は解消されていない。 ===== 封鎖措置の今後については、各国が独自に判断する状況になっている。制限を解除した場合、どのような形で感染が再拡大する可能性があるかは不明だが、アジア各国の例を見る限り楽観的にはなれない。 なにより皮肉なのは、ロックダウン(都市封鎖)や社会的距離戦略が効果を上げるほど、そこまでする必要はなかったのではないかと思えてしまうことだ。 イギリスとアメリカでは、部分的な封鎖が始まった後、死者数をめぐる当初の予測が下方修正されている。感染の先行きは懸念していたほど悪くはならないようだが、それでも予想より長期の封鎖措置は必要になるという最近の研究もある。 今や募っているのは新たな不安だ。トンネルの先に見える光は出口ではなく、実は対向列車のヘッドライトではないか......。 From Foreign Policy Magazine <本誌2020年4月21日号掲載> 【参考記事】日本と雲泥の差。「神が守る」と言う人も現れはじめたヨーロッパの不安 【参考記事】新型コロナ:「医療崩壊」ヨーロッパの教訓からいま日本が学ぶべきこと ※画像をクリックするとアマゾンに飛びます2020年4月21日号(4月14日発売)は「日本人が知らない 休み方・休ませ方」特集。働き方改革は失敗だった? コロナ禍の在宅勤務が突き付ける課題。なぜ日本は休めない病なのか――。ほか「欧州封鎖解除は時期尚早」など新型コロナ関連記事も多数掲載。 =====