<K-POPの女性アイドルとして活躍した女性の周囲にはさまざまな韓国社会の闇が広がっていた> 昨年11月24日、元KARAのメンバー、ク・ハラが自ら命を絶ったという衝撃のニュースが駆けめぐった。あれからもうすぐ5カ月が経とうとしているが、彼女の死は今もなお韓国社会では様々な社会的イシューを投げかけ続けている。 ここ数週間で「ク・ハラ法」という言葉をよく目にするようになった。これは、ク・ハラの実兄が呼びかけ成立させようとしている法案である。 彼によると、ク・ハラの母親はハラ9歳、兄11歳の時に家を出ていき、その後20年近くまったく連絡をよこさなかった。その後、両親は離婚し、2006年に母親は親権を放棄したという。ハラと兄は祖母と叔母が育て上げ、父親はその間全国の建設工事現場を渡り歩いて生活費を稼いでいたそうだ。 ク・ハラが亡くなって突如現れた母 ところが、ク・ハラが亡くなり報道されるようになると、この母親は突然弁護士を通じて兄に連絡をよこすようになった。ハラの残した財産について5対5で分け合おうというのだ。 その後、葬式の場に姿を現し、今まで自ら連絡すらしなかった母親が、参列者に「自分がハラの母親だ」とアピールしながら、それをスマホで録音し相続の証拠にしようとしていたことも兄の証言で明らかにされている。 今まで母親として会おうともせず、捨てたも同然の子供の財産を親が相続できるのだろうか。韓国の民法1000条「相続順位」の項を見てみると、優先順が最も高いのは、子供と配偶者であり、2番目が両親、そして3番目が兄弟姉妹となっている。 もちろん生前に正式な遺言などを残した場合などの特例は認められているが、未婚で子供もなく、遺言に財産分与について記述がなかったク・ハラの場合、最優先相続者は自動的に両親となる。 問題は、何十年も連絡もなく親権を放棄したのにもかかわらず、血縁のみで相続権利が認められているという点だ。これに疑問をもったク・ハラの兄は、3月18日弁護士を立て、国民同意請願のホームページで「子供を捨てた親の相続権を剥奪」できるよう法改正を訴えた。国会国民同意請願では、オンライン上で30日以内に10万人以上の同意を得らえれば関連法の所轄常任委員会で審査を受けることができ、法律の見直しも可能となる。 4月1日には、地上波放送局MBCが二人の兄妹の辛かった半生を紹介しつつ、ク・ハラ法を立法請願した経緯をつづった特集番組を放送して、ますます韓国国民の注目を集めた。そのかいあってか、国会国民同意請願は4月3日に同意者10万人を突破、審議入りが決定している。 ク・ハラの兄は、法改正がされた後も、このまま「ク・ハラ法」で立法したいと考えている。その思いには、世間が彼女を忘れないように、そして今後も同じ境遇で苦しんでいる人々をク・ハラが守るという意味合いを込めているという。 ===== ク・ハラをめぐるもう一つの事件──リベンジポルノ そもそも、ク・ハラが自殺に至った大きな理由とされているのが「リベンジポルノ問題」だった。ク・ハラの元恋人チェ・ジェボム容疑者は、脅迫や障害の罪と本人の同意なしに性的動画を不法撮影した罪で昨年1月に起訴されている。 その後、この事件は韓国のフェミニズム意識の高まりとともに注目度も上がっていき、女性の盗撮被害やリベンジポルノという言葉もニュースなどでよく取り上げられるようになった。 そんななか、8月にはチェ容疑者に対する第1審判決が言い渡されたのだが、盗撮についてはなんと無罪となった。当時の担当判事オ・ドクシクは、無罪の理由を「動画は本人の意思に反して撮影されたわけではない」と言い、その他の障害や脅迫についても懲役1年執行猶予3年という極めて軽い判決結果を下した。 また、裁判中この動画に関して、ク・ハラは視聴をしないで欲しいと訴えていたが、オ・ドクシクは見たことを明かしており、これについてセカンドレイプだとの激しい非難を受けた。 その後、ク・ハラは自らの命を絶ってしまったが、もちろん裁判は続行されており、最終判決がこの5月21日に出ることが確定した。彼女のファンはもちろん、多くの女性団体もこの事件の行方を見守っている。 韓国を震撼させた「n番部屋」にもオ・ドクシクが ところで、この判事オ・ドクシクだが、今また世間を騒がせている。それは、ク・ハラとは別に、あのN番部屋事件の担当判事としてだ。 先月17日、韓国で衝撃の「N番部屋事件」が発覚した。SNSアプリTelegramを使い、女性を脅迫しながら性的動画を撮影させ、それを有料会員に共有していたという卑劣極まりない手口に韓国中の人が驚愕し、怒りに震えた。被害者には未成年者も含まれ、シェアされていた動画には児童ポルノや集団レイプなど猟奇的な内容も多く、閲覧していた会員はなんと数十万人を超えるという。 首謀者「博士」ことチョ・ジュビン容疑者は捕まり、警察での捜査が今も続けられているが、そのチョ・ジュビンとTelegram内で対立し、その後独立して8千から2万人の有料会員相手に動画を提供していた別のチャットルームの管理人「太平洋」も逮捕された。 彼はなんと16歳で、未成年のために身元非公開とされている。この「太平洋」の担当裁判官がク・ハラのリベンジポルノ事件と同じオ・ドクシクと発表され、またしても男性有利な判決を下すのではないかと批判を浴びた。 さっそく韓国女性団体連合は、3月27日裁判所へオ・ドクシクではない別の裁判官への交代を要求。また大統領府のホームページにある国民請願の掲示板にも、オ・ドクシクを交代させるよう求める訴えが投稿され、あっという間に40万人が賛同の署名をした。最終的に3月30日ソウル中央地裁はオ・ドクシクを担当から交代することを発表した。 ===== ク・ハラの他にもオ・ドクシクに泣いた芸能人が 一方で、このオ・ドクシクは、2009年性接待強要を苦に自殺をした女優チャン・ジャヨンの裁判にて、加害者と起訴されていた元マスコミ記者に無罪判決を言い渡したことでも多くの反感を買っていた。その無罪判決も「誕生日会でセクハラがあったのならパーティーは中断していたはずだ」という理不尽な理由だったことが、さらに国民のオ・ドクシクへの不信を高まらせている。 28歳という若さでこの世を去ってしまったク・ハラ。彼女の死は今でもたくさんの課題を残している。今後元恋人の罪が確定し、遺産問題に片が付いたとしても彼女はもう戻ってこないが、今同じような状況で苦しんでいる人たちが第二第三のク・ハラとなるのを防ぐ為にも一刻の早い解決を望んでいる。 ===== 亡き妹ク・ハラについて語る兄 韓国のラジオ番組に出演し「子供を捨てた親の相続権を剥奪できるよう「ク・ハラ法」の制定を訴える実兄ク・ホイン CBS 김현정의 뉴스쇼 / YouTube