<新型コロナウイルスの大流行で分断されたヨーロッパの現状は、まさに極右政党の主張どおり。だが国民の注目は政府に移り、極右勢力の影響力は一気に失われた> ドイツの極右ポピュリスト政党「ドイツのための選択肢」(AfD)はこれまで、ほぼ定期的に世間の注目を集め、それを政治的な勢いに変えてきた。 AfDに属する政治家たちは天性の挑発の才能に恵まれており、難民と移民排斥への執拗なこだわりと政府の失敗を非難する無数のネット投稿を通じて、AfDは常にマスコミで大きく扱われ、ドイツの政治的議論の方向性に不釣り合いに大きい影響力を発揮してきた。 AfDは今も難民を攻撃するメッセージをツイートし、アンゲラ・メルケル首相の政府を非難している。新型コロナウイルスの大流行で12万5000人を超える感染者が確認され、市民の大半が自宅隔離状態にある今こそ、危機を煽るAfDの独壇場とも思えるが、人々は以前ほどAfDの主張に耳を貸さなくなっている。 欧州で政権を取った極右政党はすでに、独裁的な政策を推進するチャンスとして新型コロナウイルスを利用している。ハンガリーのビクトル・オルバン首相は、非常事態における首相の権限を無期限に大幅に拡大する法律を成立させ、ポーランドの与党「法と正義の党」は、都市封鎖で選挙運動がほとんどできないという状況にも関わらず、5月の大統領選挙を実施する方向で進めている。 <参考記事>ドイツ政府「アーティストは必要不可欠であるだけでなく、生命維持に必要なのだ」大規模支援 極右の新たなジレンマ しかし、AfDのように、現時点で政権を担当していない野党政党は、新たなジレンマに直面している。有権者の関心はほぼ全面的に、危機を乗り越えるために国民を導く現職指導者と専門家に移り、極右勢力はこれまで欲しいままにしていた世間の注目を失った。 極右政党が長い間提唱してきた厳格な国境管理と国民国家の確立、自国民第一主義は、短期間とはいえ今、新型コロナによって現実のものとなっている。このタイミングで、極右政党がこれまでにない苦境に陥るとは、なんとも皮肉な話だ。 これまでのような政治的影響力がなくなった極右勢力は、わかりやすく注目を集めやすいメッセージを発信しようと必死だ。 「今回のウイルス危機は、AfDが恩恵を受けてきたユーロ危機や難民危機などの危機とは違う」と、ベルリンの政治コンサルタントで、AfDのコミュニケーションと修辞的な戦術を熟知するヨハネス・ヒリエは言う。「ユーロ危機と難民危機の場合は外部の敵がいた。だが今回の敵はウイルスで、内部から広がっている。ポピュリストが得意とする『私たち』対『彼ら』、インサイダー対アウトサイダー、という二項対立はもはや機能しない」 <参考記事>ドイツの民主主義はメルケル後までもたない? ===== ドイツはおそらく、この新たな動きと事態の急変を示す恰好の例だ。新型コロナウイルスが関心の的となるわずか数週間前、ドイツは、AfDの直接・間接的な政治的影響について論争の渦中にあった。 そのきっかけとなったのは、2月5日に行われた旧東ドイツ地域にあるチューリンゲン州の州首相選挙。与党キリスト教民主同盟(CDU)と自由民主党(FDP)という2つの中道右派政党が、左派の現職を追い出すためにAfDと共同戦線を張った。 極右政党と組むというタブー破りのこの選挙戦略で、メルケルが後継者に選んだCDUの党首は辞任に追い込まれ、ドイツ全体で政治と社会におけるAfDの役割を懸念する機運が高まった。 この州選挙から間もない2月19日、右翼の過激派がドイツ西部ヘッセン州ハーナウのシーシャ(水たばこ)バーで、移民の背景をもつ9人を射殺した。この事件は、反移民の発言が、右翼の過激派に与える影響という問題を提起した。 国民感情に訴えるこの問題は、その後数か月にわたってドイツの政治的な議論の中心になると見られていた。そこへ登場したのが、新型コロナウイルスだ。国民の注目は完全にウイルスに移った。 薄れたSNSの熱気 当初、AfDの政治家はウイルスの侵入を防止するための国境の閉鎖を国民中心主義の勝利と喝采を送った。党の幹部ベアトリクス・フォン・シュトルヒは、このウイルスが「国境のないグローバリゼーションの失敗」を証明したと語り、新しい国境管理を永続させることを求めた。 だがその後数週間、AfDと所属政治家たちはさまざまな議論に口を出して混乱した。ウイルスの大流行への対応が遅かったとメルケルを非難する一方、対応策が厳しすぎて権威主義的だと言う者もいた。党内の穏健派と過激派が内紛を起こした。ドイツの大学におけるジェンダー研究プログラムを激しく攻撃し、パンデミックの最中でもイースター(復活祭)の日曜日にはミサを行うべきだと教会に要求するなどして反発を買った。 AfDの政治家は最近、コロナウイルスとの闘いに関する10項目の政策要綱を発表したが、それはいくつかの小さな例外を除けば、他の政党や政治家が提案した措置とほぼ変わりのないものだった。検査能力の向上、医療従事者のための追加の防護用品の製造、リスクの高い市民の保護といった政策はどの党も同じだし、斬新な提案でもない。 これまでソーシャルメディアで活発だった支持者層も、今はそれほどAfDに対して熱狂的ではないようだ。 ===== ヒリエはAfDのソーシャルメディアに関する統計値をコロナウイルス大流行が始まる前の3週間と、始まった後の3週間で比較し、AfDの投稿に対する反応が通常の半分に減っていることを発見した。さらに、ウイルス危機自体に関するAfDの投稿には、支持者からの「いいね」やシェア、コメントが少ないことわかった。 一方、メルケル首相の着実で実際的な存在感は、ドイツ人が今まさに求めているもののようだ。ドイツの放送局ZDFが発表した調査では、回答者の80%がメルケルの危機への対応を支持し、さらに88%がこの間の政府の活動を支持した。 その結果、メルケル首相の与党CDUは、全国世論調査で確実な地歩を回復したが、AfDへの支持は10%を割り込んだ。 だがこうした極右勢力は、一時的に人気を失っても、ウイルスの脅威が後退すれば再び勢力を盛り返すだろう。人々の関心が、ウイルスがもたらした経済的な破壊に向くようになれば、極右は、より貧しく被害が大きい国々に対するEU支援をどうするか、という難しい問題に飛びつくだろう。 イタリアの極右政党「同盟」のマッテオ・サルビーニ党首の狙いはまさにそこだ。イタリアで感染爆発と医療崩壊が起きた当初、欧州の隣人たちからは支援も連帯もなかったと主張する。これに対してドイツなど裕福な欧州北部の国々では、ユーロ危機の時と同じ不満が吹き出すに違いない。なぜ南欧諸国に支援をしなければならないのか、と。2013年にAfDが生まれたのも、こうした反ユーロ感情が渦巻いている時だった。 「今はAfDに出番はないが、2カ月もすればまた出てくるだろう」と、キール大学安全保障研究所の政治学者、マルセル・ディルサスは言う。「ドイツが他の欧州諸国を支援する時、彼らは難癖をつけて利用するために待ち構えているはずだ」 From Foreign Policy Magazine ※画像をクリックするとアマゾンに飛びます2020年4月21日号(4月14日発売)は「日本人が知らない 休み方・休ませ方」特集。働き方改革は失敗だった? コロナ禍の在宅勤務が突き付ける課題。なぜ日本は休めない病なのか――。ほか「欧州封鎖解除は時期尚早」など新型コロナ関連記事も多数掲載。