<初動の遅れは米中もWHOも同罪なのだが、ウイルスの脅威に晒された人びとをよそに責任のなすり付け合い> 中国政府の「6日間の沈黙」が新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)を招いた──というAP通信の記事を、中国外交部は偏向報道だとして激しく非難した。 中国外交部の趙立堅報道官は、4月15日の定例会見でAP通信の記事を「不公正」だと断罪した。趙は、新型コロナウイルスは「米軍が武漢に持ち込んだ可能性がある」と3 月にツイートして、物議をかもした人物だ。 趙報道官は報道陣を前に、自分はその記事を読んでいないが、中国政府は世界保健機関(WHO)にただちに報告し、「遅滞なく」対策を取ったと言った。 AP通信によれば、中国政府が情報開示を怠っていた6日間に感染者は3000人を上回った。この6日間はちょうど春節を控えた時期だったため、膨大な数の中国人が国内外を移動し、さらに感染が広がったという。習近平(シー・チンピン)国家主席の指示で、国民に新型コロナウイルスの危険性が知らされたのは1月20日になってから。AP通信の報道は、独自に入手した内部文書に基づくもので、そこには過去に遡った感染データが含まれていた。 <参考記事>「世界は中国に感謝すべき!」中国が振りかざす謎の中国式論理 制圧を誇る中国 中国政府は、当初の情報隠しがパンデミックを招いたと内外から批判を浴び、弁明に躍起になってきた。だが感染拡大をほぼ抑え込めた今、自国の成功が模範になるとばかりに、医療用物資と人材の提供で、他国の支援に乗り出している。それでも、感染拡大の中心地となった武漢で、最初にこのウイルスについて警告を発した医師らの口を封じたことも、WHOへの報告が遅れたことも、なかったことにはできない。 米情報機関が3月にホワイトハウスに提出した報告書は、中国当局が感染者数と死者数を少なく見せかけた疑いを指摘している。 趙報道官は15日の会見で、ドナルド・トランプ米大統領がWHOへの資金拠出の停止を発表したことに触れ、パンデミックと闘うグローバルな取り組みを妨げることになると非難した。 トランプは「WHOの対応能力を弱め、国際協力の足を引っ張る」決定をした、と趙は述べた。趙によれば、中国は米政府の決定に「深刻な懸念」を抱いているが、「国際的な公衆衛生上の取り組みとグローバルな感染症対応で重要な役割を担うWHOを支援する姿勢に変わりはない」という。 コロナ危機をきっかけに米中の協力体制が生まれるとの期待感もあったが、実際には危機の最中で超大国同士が互いに責任をなすりつけ合う醜悪劇が繰り広げられただけだった。経済規模でアメリカの優位を脅かし、強大な影響力を持つに至った中国に、トランプはもはや敵意を隠そうともしない。 <参考記事>差別を生み出す恐怖との戦い方──トランプの「中国ウイルス」発言を読み解く ===== トランプ大統領は当初、中国の危機対応を手放しで褒め、習主席との信頼関係を自画自賛していたが、その後一転してパンデミックの責任は中国にあると主張し始めた。これには中国も黙っていない。トランプは当初の認識の甘さをごまかすため、中国を悪玉に仕立てて批判をそらそうとしている、というのだ。 アメリカはWHOへの最大の資金拠出国だが、トランプは14日、資金拠出を60〜90日間停止し、その間に中国の情報隠しにWHOが関与した疑いについて検証すると発表した。トランプに言わせれば、WHOは中国で調査を行わず、中国が感染の広がりや危機の深刻さを隠蔽するのを容認したという。 15 日の記者会見では、WHOの資金不足を中国が補う考えはあるかとの質問も出た。これに対し、趙は「状況の必要性に応じて、関連した問題を検討する」と答えるにとどまった。 トランプはWHOが危機対応で「大失態を演じた」と断じているが、自分はどうなのか。WHOは1月30日、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言。その翌日、アレックス・アザー米厚生長官が公衆衛生上の緊急事態を宣言したが、トランプが国家非常事態を宣言したのはそれから1カ月半後の3月14日だ。 2月下旬の段階でも「アメリカでは(ウイルスは)ほぼ抑え込めている」とツイートしていたが、今ではアメリカは感染者数、死者数ともに世界最大だ。ジョンズ・ホプキンズ大学の集計では、14日時点で感染者数は60万人を突破し、死者数は2万5000人を上回っている。 自己正当化を図るトランプ トランプは1月に中国からの渡航を部分的に制限した際に、WHOが懸念を表明したことを問題にし、「幸いにも私は、中国からの渡航を全面的に認めるべきだという彼らの当初の助言をはねつけた」とツイートした。「なぜ彼らはそんな間違った助言をしたのか」 当時WHOは、パンデミックの最中では国境封鎖などの措置は有効ではなく、重要な医療用物資の輸送を妨げる恐れがあると述べていた。 トランプは中国からの渡航を全面的に禁止したと主張しているが、これは事実ではないと、AP通信は指摘している。1月31日の措置は、過去14日間に中国を訪れた外国人の入国を一時的に制限しただけで、アメリカの市民権または永住権を持つ人の直系の親族は入国できた。 中国から帰国したアメリカ人については、帰国便を受け入れる空港を限定し、空港で健康検査を実施して、最長14日間の自宅待機を求めることになっていた。だが無症状の感染者が検疫をすり抜けた可能性もある。いずれにせよ、1月半ばの段階で、既にウイルスはアメリカに入り込み、もはや封じ込め不可能なほど、各地で感染が広がりつつあったとみられる。 ※画像をクリックするとアマゾンに飛びます2020年4月21日号(4月14日発売)は「日本人が知らない 休み方・休ませ方」特集。働き方改革は失敗だった? コロナ禍の在宅勤務が突き付ける課題。なぜ日本は休めない病なのか――。ほか「欧州封鎖解除は時期尚早」など新型コロナ関連記事も多数掲載。