シンガポールは新型コロナウイルスの感染者とその接触者を特定し、監視することで感染拡大を抑制したと、世界保健機関(WHO)から高く評価されている。だが、それは一般国民の話で、社会的立場が弱い出稼ぎ外国人労働者が住む地域では、感染が急速に拡大しつつある。 14日までに確認された国内感染者3252人のうち、1625人はこうした外国人労働者の居住地域と関係がある。このためシンガポール政府の対策には穴があった、と人権団体などから批判が出ている。 人権団体や慈善団体、医療専門家は以前から、密集状態で不衛生な場所に暮らす30万人を超える外国人労働者の間で、何らかの感染症が大規模に広がる危険性に警鐘を鳴らしていた。ところが、新型コロナ発生を受け、政府が当初打ち出したいくつかの対策は、外国人労働者社会を念頭に置いていなかった。 例えば、政府は感染拡大防止のため、一人の医師が複数の病院で勤務するのを禁止。これによって一部の外国人労働者が利用していたボランティアによる医療サービスは人手不足に陥り、急激な業務縮小を迫られた。 また、国内へのマスク配布も、外国人労働者居住地域は対象外だった。さらに最近、何万人もの労働者を狭い区画に隔離する措置が導入され、感染拡大を加速させる恐れが生じている。 国際人権団体アムネスティ・インターナショナルの調査に携わる研究者のレイチェル・チョア・ハワード氏は、「(政府の)こうしたやり方は多くの外国人労働者を新型コロナ感染の危険にさらす。本当に懸念している」と話す。 政府当局は、外国人労働者の住居の衛生問題を改善し、病気の発生を検知する予防策を講じてはいたと説明。ただ、新型コロナの感染が広がってしまった以上、多くの人たちを隔離することを決める必要があったと釈明している。 それでも足元の状況は、一般の国民と、主にインドやバングラデシュからやって来て、同じように近代的な都市国家の発展に貢献してきた外国人労働者との間で、政府の適用する基準が異なることを浮き彫りにしている。 一例を挙げれば、海外から帰国したシンガポール国民が隔離される場所は高級ホテルだが、一部の外国人労働者が閉じ込められているのは、中身があふれそうなごみ箱とトイレがあるだけの2段ベッドの部屋だ。 シンガポール人材開発省はロイターの取材に対し、外国人労働者の住居において隔離を開始した段階では、衛生や食料供給の面で「さまざまな課題」に直面したものの、運営者と協力して環境改善に努めているとコメントした。 リー・シェンロン首相は10日、シンガポールは外国人労働者の貢献に感謝しており、隔離期間中も報酬を受け取れると強調した。 ===== 失われた早期発見の機会 一部の外国人労働者が頼りにしてきたのは、政府が補助金を出して慈善団体が運営する「ヘルスサービス」と呼ばれる医療制度だった。診察料は8シンガポールドル(約600円)と、国立病院の約50シンガポールドルより格段に安い。 しかし、政府は2月7日、公立病院の職員の働き場所を1つの病院に限定するよう命令。ヘルスサービスは、必要な人員を確保できなくなくなるため、事業を縮小せざるを得ないと発表した。その後、サービスの90%を削減し、診療所3カ所のうち2カ所を閉鎖したとしている。 ヘルスサービスのジェレミー・リム医療サービス委員長は政府に対し、ボランティア医療従事者が減少すると訴えたものの、できることはないと突き放された。リム氏は、格安の医療サービスを提供し続けていれば、外国人労働者社会での感染をもっと簡単に早期発見できていたと悔しがる。 1部屋に12人ないし20人が暮らすことさえ珍しくない外国人労働者の住居は、2月に政府が全世帯を対象にするとして打ち出した、マスク配布の対象にもならなかった。 リム氏は、政策対応から外国人労働者が抜け落ちていたことを「今になって社会全体として後悔し始めている」と話した。 政府は、労働者が発熱していないか監視するよう外国人労働者の管理者に勧告したり、公共の場所に集まらせないようにするなど、対策を相応に取ってきたと主張する。 テオ人材開発相は9日、政府が外国人労働者を巡る問題について、何の手も打ってこなかったわけではないと弁明した。 ロイターが取材した6人の外国人労働者は、発熱チェックや社会距離(ソーシャル・ディスタンス)の確保といった予防措置は、厳格に実行されていない、あるいは最近になってようやく導入されたとしている。[ロイター]Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます 【関連記事】 ・「新型コロナウイルス第2波、今冬に米国を襲う より大きな影響も」米CDC局長 ・金正恩重体説に飛びつく期待と幻想 ・米ジョージア州が「ロックダウン破り」、濃厚接触でも営業再開を待ちきれず ・日本がコロナ死亡者を過小申告している可能性はあるのか?   ※画像をクリックするとアマゾンに飛びます2020年4月28日号(4月21日発売)は「日本に迫る医療崩壊」特集。コロナ禍の欧州で起きた医療システムの崩壊を、感染者数の急増する日本が避ける方法は? ほか「ポスト・コロナの世界経済はこうなる」など新型コロナ関連記事も多数掲載。