<米イラン対立の激化でコロナ危機のさなかにもキナ臭さを増すペルシャ湾> ドナルド・トランプ米大統領は4月22日、イランの艦船が挑発行為をした場合は、容赦なく攻撃するよう米軍に指示したとツイートした。 「イランの砲艦が海上でわれわれの艦船に嫌がらせをしたら、1隻残らず撃沈させ、破壊するよう海軍に指示した」 このツイートの1週間前の4月15日、米海軍第5艦隊がペルシャ湾を航行中、イラン革命防衛隊の高速戦闘艇11隻が異常接近し、周囲を取り巻いた、と米当局が発表した。第5艦隊は、ルイス・B・プラー機動揚陸プラットフォーム、アイランド型哨戒艦マウイなどで編成されている。 米側はイランの精鋭部隊である革命防衛隊の「プロらしからぬ危険な行為」を非難したが、イラン側は4月15日の事件も、その1週間前にイラン船シャヒド・シヤボシの航行が妨害されたとする事件も、米海軍の「違法で、プロらしからぬ、危険で、無謀とすら呼べる行為」に責任があると主張している。 イラン、アメリカ共に新型コロナ危機への対応に追われるさなかにトランプが脅迫めいたツイートをしたことに、イラン当局者は怒りをあらわにしている。 トランプの愚行を警戒 「世界の関心がCOVID-19との戦いに集中しているときに、米軍は祖国から1万キロも離れたペルシャ湾でいったい何をしているのか」と、イランの国連代表の報道官は本誌に語った。「イランはこれまでどおり、いかなる脅しにも屈することなく、国際法に基づいて、あらゆる侵略から躊躇なく領土を守る」 米海軍は空母「セオドア・ルーズベルト」での集団感染など、コロナで大打撃を受けているが、イランも感染拡大で中東最多の死者を出している。 イラン軍報道官のアブルファズル・シェカルチ准将は「アメリカは他国いじめにかまけていないで、感染対策に全力を尽くすべきだ」と、国内の有力メディア「イラン学生通信」に語った。 イラン議会の国家安全保障・外交政策委員会のメンバーであるアラディン・ボロジェルディもイラン学生通信の取材に応じ、「トランプは(コロナ対応で)全米の州知事に質問攻めにあっても、それに答える能力もないありさまだが、それよりも彼の関心事は11月の大統領選と世論の動向だ」と持論を述べた。「今は有権者の目を国内の危機から逸らそうと躍起になっており、もっと愚かしい暴挙に出て、事態をさらにこじらせかねない」 アメリカが新たな攻撃を行えば、イランは今年1月にイラクの米軍基地に加えたミサイル攻撃よりも「さらに大規模な報復」を行うと、ボロジェルディは警告した。 <参考記事>イランで感染を広めたのは「世界一のおもてなし」? <参考記事>イランで逮捕された「ゾンビ女」の素顔 ===== それでも米国防総省はいざとなればトランプの指令を実行する構えだ。 「米軍が展開するあらゆる能力、危険海域に展開するあらゆる艦船は、固有の自衛権を有している」と、ジョン・ハイテン米統合参謀本部副議長は記者会見で語った。「言い換えれば、敵対的な行為もしくは敵対的な意図を察知すれば、それに対応する権利がある、ということだ。その対応には殺傷兵器の使用も含まれる」 アメリカとイランは1980年代のイラン・イラク戦争の終盤以降、直接的に交戦したことはないが、今年1月アメリカがイラクのバグダッド国際空港で革命防衛隊の司令官ガゼム・ソレイマニを殺害したことへの報復として、イランはイラクにある米軍の駐留基地を弾道ミサイルで砲撃し、中東から米軍の撤退を求める動きを強化した。 アメリカとの対立激化に伴い、イランは革命防衛隊と国軍の軍備増強とともに、国産兵器の開発に力を入れてきた。 トランプのツイートの前日の21日には、革命防衛隊は初めて軍事衛星「ヌール」を打ち上げ、軌道投入に成功した。「今やわれわれは宇宙から世界を見ることができる」と、発射の瞬間を見守った革命防衛隊のフセイン・サラミ司令官は誇らしげに宣言した。 ホルムズ海峡の波高し 米政府は衛星打ち上げを弾道ミサイル開発と関連した動きとみている。こうした動きがイランの核兵器開発の一環とみられること、さらに中東全域でイランが武装勢力に資金を提供している疑いがあることを理由として、トランプ政権はイランと米英など6カ国が2015年に結んだ核合意から離脱し、経済的・政治的にイランを締め上げる「最大限の圧力」作戦を実施してきた。 アメリカがイラン産原油の禁輸を打ち出したことに対抗し、イランは世界の石油輸送の生命線であるホルムズ海峡の封鎖をちらつかせてきた。昨年6月にはオマーン沖で石油タンカーが攻撃される事件が相次ぎ、米国防総省はこれを革命防衛隊の襲撃とみて、周辺海域のパトロールを強化した。 昨年9月にサウジアラビアの石油施設がドローンと巡航ミサイル攻撃を受け、イエメンの武装集団ホーシー派が犯行声明を出した事件も、米政府はイランの仕業とみている。さらにイラクで米軍やNATOの駐留基地にロケット弾攻撃を行なった武装集団も、イランの支援を受けていると、米政府は主張している。 加えて、昨年6月にはホルムズ海峡上空を飛行中の米軍のドローンがイランに撃墜されるなど、アメリカとイランは互いの反応をうかがいつつ挑発行動を繰り返している。コロナ禍のさなかでもペルシャ湾を包む一触即発の不穏な空気は濃くなるばかりだ。 ※画像をクリックするとアマゾンに飛びます2020年4月28日号(4月21日発売)は「日本に迫る医療崩壊」特集。コロナ禍の欧州で起きた医療システムの崩壊を、感染者数の急増する日本が避ける方法は? ほか「ポスト・コロナの世界経済はこうなる」など新型コロナ関連記事も多数掲載。