<大規模な濃厚接触者の追跡など、新型コロナ対策の手本とされてきたシンガポールの感染者数が東南アジア最多に。新規感染者の多くは、当局が無視してきた外国人出稼ぎ労働者だ> 東アジアと東南アジアの一部の国は3月まで、新型コロナウイルス対策の手本と見なされていた。特にシンガポールと台湾は、パンデミック(世界的な大流行)の震源地だった中国と経済的・地理的・文化的に深いつながりがありながら、新型コロナの感染爆発をうまく防いでいた。 いくつかの国はその後も健闘中だ。台湾で確認された感染者数は4月25日時点で、わずか429人。ロックダウン(都市封鎖)も回避している。3月初旬に感染率が危険なレベルに達していた韓国でも、ウイルスの抑え込みに成功した。 だがシンガポールでは、3月23日には510人未満だった感染者数が現在は1万2000人を突破。東南アジアで最悪の数字を記録している。 当局は大規模な濃厚接触者の追跡など、早くから新型コロナ対策を打ち出していたが、盲点が1つあった。人口580万の都市国家シンガポールに100万人以上いる外国人の出稼ぎ労働者だ。 南アジアの出身者が大半を占める低賃金の外国人労働者は、郊外の宿舎に密集して暮らしている場合が多い。人権活動家は早くから、彼らの存在を無視する当局の姿勢を懸念していた。NPOの「出稼ぎ労働者にも権利を(TWC2)」は3月の時点で、「社会的距離」を保てない宿舎で爆発的な感染拡大が起きかねないと警告を発していた。 多くの外国人労働者は1部屋につき12~20人が2段ベッドで眠り、毎日トラックの荷台に詰め込まれて仕事場へ向かう。共用の浴室に石鹸がなかったり、シャワーやトイレに十分な水がなかったりすることが多いと、彼らは英ガーディアン紙に語っている。さらにTWC2は、外国人労働者は病気を訴えたり、医療の助けを求めたりしづらい環境に置かれているとも指摘する。 ここ数週間、新型コロナが外国人労働者の宿舎に次々と広がり、当局は感染拡大を制御できなくなった。保健省は4月22日、新規感染者1037人のうち982人が外国人労働者だったと発表した。全症例の約80%は外国人宿舎が発生源とされる。 「外国人労働者を意図的に『不可視化』してきた結果だ。国家全体が、まるで彼らは存在しないかのように扱っている」と、TWC2のアレックス・アウはワシントン・ポスト紙に語った。 シンガポールは少なくとも6月1日までロックダウン措置を延長。ほとんどの職場を閉鎖させ、スーパーマーケットでの買い物を制限している。ガーディアンによれば、当局は必要不可欠な職種の労働者など7000人を外国人宿舎から移動させたが、まだ約29万3000人が残っている。 ===== 当局は21日、外国人宿舎の隔離を発表。労働者が適切なケアを受けられるように医療施設と専門クリニックの設置を進めていると述べた。「結果が出るまで多少時間がかかる。宿舎での感染拡大がもうしばらく続くことを覚悟しなければならない」と、リー・シェンロン首相はフェイスブックで述べた。 シンガポールの現状は、パンデミックの際に疎外された人々を無視したらどうなるかを示唆している。積極的な濃厚接触者の追跡、広範な検査、しっかりした医療制度、厳格な隔離措置を実行できる効率的な政府──この国の新型コロナ対策は、他国から見たら羨ましくて仕方がない。 それでも社会的弱者への目配りを欠いた状態では、十分な効果を発揮できない。 ©2020 The Slate Group <2020年5月5日/12日号掲載> 【参考記事】コロナ対策の優等生、台湾の評価が急上昇 【参考記事】シンガポール、教員に「ズーム使用停止」命じる オンライン授業中に重大事案が発生 ※画像をクリックするとアマゾンに飛びます2020年5月5日/12日号(4月28日発売)は「ポストコロナを生き抜く 日本への提言」特集。パックン、ロバート キャンベル、アレックス・カー、リチャード・クー、フローラン・ダバディら14人の外国人識者が示す、コロナ禍で見えてきた日本の長所と短所、進むべき道。