<社会の不正や差別に対し敏感な韓国社会。その国民性をメディアはまるで理解していないようだ> SNSアプリTelegramを使い、女性を脅迫しながら性的動画を撮影させ、それを有料会員に共有していた「n番部屋」事件から約1カ月あまり。韓国を震撼させたこの事件が落とした影響はすさまじく、今韓国ではTVなどメディアでの表現に神経質にならざるをえない状態だという。 その証拠に、4月下旬、連日のようにコメディ番組、ドラマなどで性商品化や性搾取表現についての抗議が相次ぎ、謝罪にまで至るケースが続いている。 今、韓国で一番話題の新作ドラマ『夫婦の世界』もやり玉にあげられた。 『SKYキャッスル』を超える今話題のドラマで...... このドラマはケーブルテレビ局JTBCで3月27日から放送開始された不倫を扱ったドラマである。イギリスBBCの人気ドラマ『女医フォスター 夫の情事、私の決断』が原作で、毎週金曜日土曜日に放送中だ。4月25日放送分では、首都圏では視聴率25.9%を出し、一昨年に社会現象を巻き起こしたJTBCの話題作『SKYキャッスル』の記録を更新する大ヒットとなっている。 ただ、不倫を扱った作品ということで、さまざまな批判も受けやすい。4月18日の第8話放送分では、主人公の男性に近づいてきたカフェの女性マネージャーが「鞄一つぐらい買ってくれてもいいんじゃない? 私が恋人になってあげるんだから」と言うシーンがあったのだが、このせりふが波紋を呼び、視聴者からクレームが相次ぐようになった。 高価な物で動く女性というイメージが時代錯誤であり、女性蔑視であるという理由だ。番組公式HPのコメント掲示板には「n番部屋事件が起こってから、まだそんなに月日がたったわけではないのに、女性の性を商品化して容易にお金を稼ぐことができると認識させる表現は危ない」など具体的にn番部屋という単語を含んだ批判意見が集中した。 また、この日の放送では、女性の家に家宅侵入した犯人が女性の首を絞めるなど暴行するシーンがあったのだが、こちらも問題視されている。カメラが加害者の視線になる演出で撮影されていて、VR映像のような臨場感が感じられる。あまりにもリアルな暴行シーンに「視聴中気分が悪くなった」というコメントや、「視聴者議会、放送通信委員会にすでに通報済みだ」という意見もあったため、今後倫理審議に掛けられる可能性もある。 一方、公営放送KBSでも18日に放送した週末ホームドラマ『一度行ってきました』で、同じく性商品化表現が問題視され、KBSが謝罪する事態にまで発展してしまった。 ===== KBSの週末ドラマ『一度行ってきました』で問題になった場面より。キンパッ屋を営む女性社長を演じるのは『パラサイト 半地下の家族』にも出演していたイ・ジョンウン。 KBS World / YouTube 視聴率20%超えは当たり前の国民的ドラマで何が? 問題になったシーンは、市場で韓国式海苔巻き(キンパッ)屋を営むこととなった元キャバクラ嬢の女性社長と店員が、セクシーな恰好やサービスをしてお店を繁盛させるという場面だ。お店に行列を作る男性客たちの中には、学生服の衣装を着た未成年者も含まれており、これを指摘するクレームも多かった。 ドラマの公式HP視聴者コメント欄は20ページにも及び、その中には、「このようなドラマがn番部屋を作り出したのだろう」「制作陣はn番部屋事件を見て感じるものはなかったのですか?」などn番部屋というキーワードが相当数含まれていた。 KBSには公式HP上に、大統領府の国民請願のような「視聴者請願」が存在する。こちらは、請願掲載30日以内に1000人の賛同が集まると放送局側は調査し、何らかの答えを出さなければいけないシステムになっている。ここで今最も多くの賛同を獲得しているのが「『一度行ってきました』女性の性商品化問題提起」という請願だ。 この事態を重く見たKBSは、謝罪文を公式発表し、「今後は、さらに慎重を期すよう努力する」そして、「再放送とストリーミングサービスなどを含む、今後放送されるすべての映像では、修正された編集版に差し替える」と明らかにした。 お笑い番組でも時代錯誤な演出が 同様の問題は続くものだ。翌日19日には、2011年から続くtvNの人気お笑い番組『コメディービックリーグ』にも抗議が殺到した。過去に人気のあったドラマをパロディーするコントのコーナーで、この日は1999年のMBCドラマ『ワルツ』を扱った。 男性芸人が主人公を演じ、女性2人に「今日は稼ぎが無かったのか。では、外に出てみなさい」と言い、男性をはさんでチアリーダーのようにダンスを踊らせる。すると、客席から"おひねり"のお札がステージに投げられた──。この表現が「まるでストリップなど、性商品化のようなイメージで演出されている」といった抗議が放送終了後から後を絶たず、2日後には制作陣が謝罪文と今後の再放送分の差し替えを発表した。 ===== Netflixで世界配信中のドラマも炎上 またNetflixで世界配信もされているSBSドラマ『ザ・キング:永遠の君主』は、第1話放送分から抗議の対象となってしまった。女性首相役の主人公が初登場するシーンで発する「ワイヤーの無いブラは胸を支えることが出来ない」というセリフが集中攻撃されることとなった。放送終了直後から、"脱コルセット・ノーブラ運動"が行われている世界のトレンドとは逆行している表現だという意見が殺到している。 ちなみに、このドラマのオープニング映像には、コンピュータグラフィックに過去の映像が出てくるのだが、そこに日本人社員と推定される姿が入っており、こちらも議論が起こった。製作陣は再放送やVODサービスなどから該当のイメージを修正した差し替えバージョンが放送されると発表している。 男性に対するセクハラも炎上? さて、性搾取、性商品化といえば、女性が被害者というイメージをもってしまいがちだが、原題ではこの問題に性別は関係ないと言えるだろう。2016年にはゲームバラエティ番組SBS『私を探して』にて、芸人のイ・クッジュが歌手チョ・ジョンチのお尻を触り、「触ってみたら垂れていました」とセクハラ発言をして笑いを取る一幕があったが、放送後「不快だった」という意見がファンを中心に多く書き込まれたことがあった。 また、2019年には、大韓シルム(韓国相撲)協会所属の大学生シルム競技映像が問題になったこともあった。ユーチューブで今も確認することができるが、カメラは競技の行方を全く追っておらず、選手の顔のみを映していることから、一時期ユーチューブのコメント欄が炎上した。 人気番組が次々と問題視されている。以前ならそこまで問題視されなかったたったひと言のセリフやギャグにも抗議が殺到しているのを見ると、韓国の国民全体が敏感になってしまっているようだ。n番部屋の衝撃は、ここまで大きな影響を及ぼしてしまった。 時代錯誤な性の表現や性搾取を思わせる演出はこれを機に改善されるべきだが、一方であまりにも神経質になりすぎて創り手が萎縮し、新しい表現を生み出す意欲が損なわれないようにもしてほしいところだ。 ===== 今、韓国で一番の話題作『夫婦の世界』の炎上シーン VRゲームのような刺激的な映像を批判する視聴者がいる一方で、「大人向けのドラマの誕生」と『夫婦の世界』を擁護する視聴者もいるという。 JTBC Drama / YouTube 国民的ホームドラマ『一度行ってきました』の炎上シーン 『一度行ってきました』は離婚を通じて家族の大切さを描くKBSの週末ホームドラマの最新作。 KBS World / YouTube