<日本は新型コロナウイルスの危機を、労働生産性の向上を促すカンフル剤とすべきだ――。本誌「ポストコロナを生き抜く 日本への提言」特集より> かつての日本は、ハイテクの国であった。ところが現在ではIT化が遅れ、労働生産性もイタリアやスペインといった南欧諸国より低い。 日本は高齢化による若年男性労働者数の減少を高齢者と既婚女性のパート就業率を高めることで対処したので、労働力の質が下がり、労働生産性が落ちたという人もいる。しかし、やはり超高齢化が進むドイツは日本同様、高齢男性と既婚女性のパートタイム労働の就業率を底上げしてきたが、時間当たりの労働生産性は日本よりもずっと高い。 国際成人力調査(PIAAC)という、16歳から65歳までの労働者のスキル調査によると、日本の労働者の読解力と数的思考力は国際的にもトップレベルである。加齢による能力低下を考慮しても、国際的に非常に高いレベルを維持している。 なぜ、世界トップクラスの人的資本に恵まれている日本の労働生産性が低いのか? その理由の1つはIT化の遅れだ。日本では他の先進国に比べ、職場や自宅でコンピューターを使わない労働者が(若年労働者を含めて)非常に多い。 日本は、スマホ普及率の増加に伴ってコンピューター使用率が減少した稀有な国でもある。桜田義孝前五輪担当大臣兼サイバーセキュリティ戦略本部担当大臣が、パソコンも使わず、USBが何かも知らないことで物議を醸したが、その桜田氏もスマホは使っており、「桜田現象」は日本の現状の象徴でもある。スマホのアプリ開発で日本が世界を凌駕しているわけでもない。単に教育機関や職場のIT化が非常に遅れており、せっかくの良質な労働力の真価が発揮されていないだけだ。 オンライン授業なぜできない 新型コロナウイルスによるパンデミックへの対応を見ても、日本のIT化の遅れは顕著だ。学校閉鎖になった小中高では、オンライン授業への移行が全くなされなかった。IT化がもっと進んでいる大学でも事情は他国とかなり違う。首都圏では新学期を1カ月ほど遅らせる大学も多いが、知り合いの関係者の話によると、この期間を使ってオンライン授業への移行を準備する意味合いもあるらしい。これには衝撃を受けた。 学期中にパンデミックに対応せねばならなかった欧米の多くの大学は1週間程度でオンライン授業に移行した。もともと米国の大学では授業用のオンライン・プラットフォームが整備されており、オンライン授業への移行も既存の仕組みを利用することができ、年齢層の高い教員を含め、無事に一斉オンライン化ができた。南欧の大学でも、既存のプラットフォームと無料ソフトなどを利用して、授業を続行した。 ===== 欧米の大学よりもずっと準備期間があったはずの日本で、なぜ多くの大学が新学期を遅らせる必要があったのか? 自宅にインターネット環境がない学生がいる、コロナ騒ぎで外国人留学生が4月初旬までに入国できないなどの理由が挙げられたが、一方で、東京大学は暦どおり4月からオンライン授業を開始した。 IT化の遅れの元凶は、日本の政治と組織にあるのではないか。政府は既得権益には優しいが、一般国民全員に利益がある教育機関のIT化投資を長らく怠ってきた。民間組織も、初期投資が大きく、年功序列のヒエラルキーをひっくり返してしまうIT化になかなか踏み切れないのだろう。日本の「ハンコ文化」が典型的だ。 日本の超高齢化社会を持続可能にするためには、労働生産性の向上は不可欠だ。今回の危機が日本の大学や企業にとってショック療法となり、日本のIT化に弾みをつける契機になることを期待している。 <2020年5月5日/12日号「ポストコロナを生き抜く 日本への提言」特集より> ※画像をクリックするとアマゾンに飛びます2020年5月5日/12日号(4月28日発売)は「ポストコロナを生き抜く 日本への提言」特集。パックン、ロバート キャンベル、アレックス・カー、リチャード・クー、フローラン・ダバディら14人の外国人識者が示す、コロナ禍で見えてきた日本の長所と短所、進むべき道。