<バブル崩壊後の課題が解決されないままだった日本。コロナ禍が日本に内在する多くの問題をあぶり出し、新たな現象も発生している。本誌「ポストコロナを生き抜く 日本への提言」特集より> 今回の新型コロナウイルスによるパンデミック不況は、日本に内在する多くの問題をあぶり出した。 まず経済面では、ここ数年間日本経済を牽引してきたインバウンドの観光客増とオリンピックに向けての期待が打ち破られ、政治面では法制度の不備で政府が全国的な医療危機に迅速に対応できないことが表面化し、外交面ではこれまでの国連至上主義の限界が露呈してしまった。 経済面を詳しく見ると、世界中がロックダウン(都市封鎖)に入るなかで、瞬間風速で見た各国のGDPは既に平時の水準を大幅に下回っている。しかも、航空や観光産業は収入の激減で死活問題に直面しており、各国の政府が大胆に支援しない限り、再起不能の打撃を被りかねない。 その意味では、日本政府による今回の108兆円といわれる経済政策が、被害を受けている家計や企業を直接支援する仕組みは評価できる。だが、今回も公平性の確保ということで制度設計に時間がかかり、しかもできた制度は使い勝手が悪いという問題が起きている。今回はウイルス相手の時間との戦いであり、公平性の確保よりも、実施のスピードが最優先されるべきで、3月下旬に同様の法案を通したアメリカでは既に数千万単位の人々が支援金を受け取っているのである。 法整備という点では、収入が激減した家計への支援や平等で確実なマスクの配布にはマイナンバーのような実名制を活用したシステムが必要だが、日本の同制度は使い勝手が悪く、コロナ危機に対応できていない。 例えば台湾では、国民皆保険のカードを薬局の端末に挿入することで、国民全員がマスクを日本円にして1枚18円で必ず週3枚購入できるシステムを導入した。また同国では、自宅隔離の規定に違反した者には日本円で360万円の罰金を科しており、これらの断固たる対策は国民の安全と安心向上に大きく貢献し、景気の維持を可能にした。 企業に残る借金への拒絶感 ところが日本の法体系では、罰則を設けること自体が困難なため、結果的に、緊急事態宣言も含めて人材や資金などの「戦力」を逐次投入する羽目に陥っている。そのため、貴重な時間と民間の手元資金が浪費され、断固たる対策が採られていれば持ちこたえ得る企業が、そうもいかなくなってきている。安倍晋三首相は憲法第9条の改正に熱心だが、今回のような国家危機を乗り切るために改正すべき法律は、ほかにもある。 ===== また今回の不況を過去との対比で見ると、1990年のバブル崩壊から直近までにおける日本経済の最大の問題は、貯蓄をする人は多数いるのに、それを借りて使う人がゼロ金利でも不足していたことであった。しかし一国の経済は、誰かが貯金や借金の返済をしていれば、別の誰かがそれを借りて使わないと回らない。 この借り手不足の1つ目の原因は、借金でファイナンスされたバブルの崩壊によって多くの借り手のバランスシートが毀損し、債務だけが残った彼らがゼロ金利でも一斉に借金の返済を優先したことだった。 このバランスシート不況に対し、日本政府は自らカネを借りて使うことでバブル期のピークを上回る水準のGDPを維持させてきた。この政策により所得を維持した企業や家計が借金の返済を進めた結果、民間のバランスシート問題はおおむね解消された。ただ20年近くかかったこの苦しい借金返済の経験から、企業には借金に対する拒絶感が残った。 借り手不足の2つ目の原因は、今や多くの日本企業にとって、国内で投資をするよりも、新興国で投資をするほうが、資本のリターンがずっと高くなっているという事実である。実際に、フィリピンやバングラデシュの賃金は日本の10分の1であり、そのようななか日本国内で投資を増やすことは、多くの企業にとって正当化しにくくなっているのである。 このような状況下で国内投資を増やすには、国内における資本のリターンを上げる減税や規制緩和が必要だが、それらはなかなか進まず、日本経済には閉塞感が漂っていた。 借り手に加えて貸し手も不足 今回のパンデミックは、この借り手不足の問題に、貸し手不足という問題を新たに加えることになった。貸し手不足は、売り上げが激減した多くの企業が貯蓄を取り崩して必要な支払いに充てていることと、今のうちに手元資金を増やしておこうという「後ろ向きの借り入れ」が増えたことから発生している。 その結果、これまで貯蓄や借金返済でジャブジャブだった金融市場は一気に引き締められており、実際に日本を含む一部の国では、中央銀行が必死で金利を低く抑えているにもかかわらず、企業の借り入れ金利が急騰してしまっている。 借り手不足に困っていたのだから、貸し手がいなくなったことで問題は相殺される、ということにはならない。これまで日本政府や金融業界が求めていたのは、新規事業に必要な資金などを求める「前向きな」借り手だ。ところが前述のとおり、いま増えているのは当座をしのぐための「後ろ向きの借り手」であり、そうした資金需要に対しては金融業界も及び腰になる。 ===== コロナ不況下では、「前向き」な借り手が引き続き不在のなか、「後ろ向き」の資金需要が増えているという状況だ。借り手不足の世界では、金融政策が効力を失い、日銀を含む多くの中央銀行は、自ら課したインフレターゲットの達成に失敗し続けてきた。これに貸し手不足と政府の巨額な資金調達の問題が加わると、金融は大きく不安定化しかねず、そのような局面では中央銀行による大胆な資金供給が不可欠になっている。 また今回のパンデミック不況で、インバウンドの観光客増やオリンピックへの期待が難しくなったことは、国内投資の拡大に必要な国内資本のリターンを高める構造改革が急務になったことを意味している。これは本来、アベノミクスの3本目の矢である成長戦略ということになるが、再び強力に推進する必要がある。 また、日本の戦後外交のかなりの部分は国連至上主義のようなところがあった。しかし今回のように、WHO(世界保健機関)がコロナ発生国に牛耳られ、あらゆる局面で対応が後手に回っている状況下では、各国は独自の判断で自国民を守ることが求められている。各国の当局者にかなり苦しい決断を強いることになるが、本来その難しい決断にお墨付きを与えるはずのWHOが機能不全に陥っており、それ以外の選択肢はないと思われる。 今回のパンデミックはわずか数週間で各国経済を市場至上主義、人手不足や超低金利の世界から、医療や食料安全保障、大量失業と苦しい資金繰りの世界へとシフトさせてしまった。このショックから世界と日本の経済が立ち直るには、相当な時間が必要だと思われる。 <2020年5月5日/12日号「ポストコロナを生き抜く 日本への提言」特集より> 【関連記事】スマホは使うがパソコンは苦手──コロナ禍で露呈した日本の労働力の弱点 ※画像をクリックするとアマゾンに飛びます2020年5月5日/12日号(4月28日発売)は「ポストコロナを生き抜く 日本への提言」特集。パックン、ロバート キャンベル、アレックス・カー、リチャード・クー、フローラン・ダバディら14人の外国人識者が示す、コロナ禍で見えてきた日本の長所と短所、進むべき道。