<市場に任せていてはチャンスを逃す──AI・クラウド企業は医学に手を貸し新機軸を> 今度の新型コロナウイルス感染症は、第1次大戦末期の1918年から20年にかけて全世界で推定5000万人以上の死者を出したスペイン風邪に劣らぬ脅威だ。各国政府は国民に自宅待機を求め、移動を厳しく制限している。結果、世界経済は麻痺寸前となっている。しかし、封じ込めは危機の解決にならない。解決には技術革新が必要だ。 都市の封鎖を永遠に続けることはできないし、この致死的なウイルスが自然に消え去ることもないだろう。世界の国々は科学と技術、そして市場の力を活用し、より持続可能なソリューション(すなわち治癒をもたらす技術と感染予防のワクチン)の開発に全力を挙げるべきだ。そして各国政府は、この技術革新が特定企業の株主だけでなく、全ての人々を潤すことを保証しなければならない。 今回のウイルスは「新型」だが、コロナウイルス自体は以前から存在している。しかし今日までの医学的研究は、もっぱら資金不足ゆえに頓挫してきた。2016年には米テキサス州の科学者たちが、やはりコロナウイルスが病原体だったSARS(重症急性呼吸器症候群)予防に有望なワクチンを開発したが、その蔓延から10年以上たっていたため、臨床試験に必要な資金を確保できなかった。 当時の研究が実を結んでいたら、今回のウイルスがここまで拡散する前に、有効なワクチンの開発に着手できたかもしれない。しかし民間の製薬企業には、SARSの終息から10年以上もたった時点でワクチンに投資するインセンティブがなかった。そこに市場原理の限界があった。 創造性は常にサプライズ 世界中の科学者が新型コロナウイルスのワクチン開発に取り組む今も、市場に任せるだけではチャンスを逃しかねない。まずは製薬以外の分野の有力企業に、もっと積極的に関与してほしい。 とりわけ人工知能(AI)やクラウド・コンピューティングなどに強い企業は、その技術力と有能な人材を動員して、ワクチン開発を阻む障壁を取り除き、医学的研究の促進に手を貸すべきだ。 例えば、AIはウイルスのタンパク質構造に関する知見に基づいたシミュレーションを速やかに行えるし、膨大な量の研究論文の精査やデータの解析を支援することで研究の効率化に貢献できる。 ===== 必要なのは産官学の緊密な連携だ。官民の資源をプールして、共通目標の達成に突き進むべきだ。政府は適切な産業政策を導入し、国家レベルの作業チームをつくり、必要な資金を確保して、ワクチンや治療薬の開発を支援する必要がある。 「創造性はいつでもサプライズだ。誰もが期待せず、信じてもいない時に姿を見せる」と言ったのは著名な開発経済学者のアルバート・ハーシュマン。だから、今は信じられなくてもいい。それでも資金や人材の提供、そして無駄を省く努力を通じて、創造性が発揮される舞台をつくり出すことはできる。 前向きに考えよう。新型コロナウイルス感染症という未曽有の危機を世界中が共有している今こそ、次代の技術革新に向けた新機軸を打ち立てる好機なのだ。 ©Project Syndicate <本誌2020年5月5日/12日号掲載> 【参考記事】「コロナ後の世界」は来るか? 【参考記事】BCGワクチンの効果を検証する動きが広がる 新型コロナウイルス拡大防止に ※画像をクリックするとアマゾンに飛びます2020年5月5日/12日号(4月28日発売)は「ポストコロナを生き抜く 日本への提言」特集。パックン、ロバート キャンベル、アレックス・カー、リチャード・クー、フローラン・ダバディら14人の外国人識者が示す、コロナ禍で見えてきた日本の長所と短所、進むべき道。