<アメリカの一部では営業・外出制限の解除が始まったが、人が動けばウイルスも広がる。再び感染爆発を引き起こさないためには大規模な接触追跡が必要だ> 全米各地で経済活動の再開を求める声が高まるなか、一部の州は5月初めから徐々に外出制限などの緩和に乗り出し始めた。人々が職場に戻れば、それに伴ってウイルスも再び市中にばらまかれる。何も手を打たなければ、第2波の感染拡大が起き、ようやくひと息ついた医療現場はまたもや崩壊の危機に見舞われることになる。十分な医療を提供できなければ、死者数の急増は避けられない。 ロックダウン(都市封鎖)が解除されるたびにCOVID-19が暴れだし、またもや活動が制限される──人々を疲弊させる悪循環を防ぐには、接触追跡(コンタクト・トレーシング)が強力な武器になると、専門家は言う。誰かの感染が確認されたら、保健当局者がその人と濃厚接触した人物を突き止め、自主隔離を求める。小さな芽のうちに集団感染をつぶして、ニューヨーク市やニューオーリンズを襲ったような大規模な感染爆発を防ぐのだ。 各州知事は、経済再開と感染防止を両立させるため、大規模な追跡プログラムを導入し始めている。 <参考記事>「感染経路不明」を潰すため米各州が「接触追跡官」を数千人単位で募集 追跡に資金と人員を割け しかし各州のばらばらな取り組みでは限界がある。第2波の封じ込めにはまさに戦時体制で保健スタッフを大量動員する必要があると、ジョンズ・ホプキンズ大学医療安全センターのクリスタル・ワトソン助教は言う。 ワトソンら保健政策の専門家チームの試算では、徹底した追跡を行うには、全米で10万人の専門スタッフと約36億ドルの資金が必要になる。チームは予算確保のため目下議会に働きかけて法案成立を目指している。 <参考記事>新型コロナウイルス、急拡大の背景に排泄物を介した「糞口感染」の可能性も 「予算をしっかりつけてほしい」と、ワトソンは言う。「全米規模での取り組みを早急に始めないと。追跡を行う州や地方自治体当局に、疾病対策センター(CDC)などの連邦機関が指針を示し、技術的な支援をする必要がある。そういう体制を整えることが(制限緩和の)条件になる」 追跡プログラムの効果と必要性についてワトソンに話を聞いた。 ===== ──大規模なプログラムを今すぐ実施するよう呼びかけているが。 これは前例がない取り組みだ。アメリカの公衆衛生の歴史でも、未曾有の大事業となる。既存の人員ではとても足りない。膨大な数の専門スタッフを投入する必要がある。 エボラ出血熱が猛威を振るったリベリアでは、保健当局が約1000人を投じて追跡を行なった。リベリア防衛省が軍の野戦病院を感染地に設置するなど全面的に協力したこともあり、この取り組みは成果を上げ、最終的にはウイルスの封じ込めにほぼ成功した。COVID-19でも、感染者の移動経路や接触者を徹底的に追跡することで、既に成果を上げている国がある。 ──具体的な方法は? 保健当局の追跡スタッフが検査で陽性になった人に電話し、できれば発症の数日前から今までに接触した人たちについて聞く。発症前から感染するのが(COVID-19の)特徴だからだ。追跡スタッフは、感染者の友人や家族などに連絡し、公共の場で接触した可能性がある人たちにも広く注意喚起する。 ──この業務を担うのは? 保健当局の職員だけではとうてい足りない。退職した職員や公衆衛生の専門家にも協力を呼びかけなければ。彼らにとっては、持てるノウハウを生かせる機会になる。感染対策に貢献したいと思っている退職者は多く、私の元には既に沢山メールが来ている。今の状況で頑張っている人たちに何らかの恩返しがしたい、自分も何らかの貢献をしたいと思っている人が大勢いるようだ。 無策では悲惨な事態に ──テクノロジーの活用については? (スマートフォンのアプリなど)テクノロジーを使えば、感染者がまだ感染に気づかないうちにたまたま近くにいた人たちのことも分かり、その人たちに通知したり、その人たちを追跡することもできる。 ──プライバシーの問題は? 保健当局に自分の行動履歴などを知られたくないのは分かる。保健当局には本人の承諾なしに個人情報を公表する権限はなく、公表すべきではない。ただ追跡に役立つ位置情報や行動履歴のデータは、保健当局が入手できるようにすべきだ。それによって、ウイルスにさらされた可能性がある人たちを突き止め、通知し、二次感染を防げる。保健当局者は職務上、様々な感染症に対応するため、本人が隠したがるような事柄を聴取することが多く、個人情報の扱いについても高いプロ意識を持っている。 ──こうした対策なしに経済活動を再開したらどうなるか。 第2波をくい止める措置なしに、制限を解除したら、ウイルスは一気に広がる。混乱から立ち直る時間的な余裕がなかった医療システムはあっという間に崩壊するだろう。そうなればこれまでの何倍もの死者が出る恐れがある。残念ながら、見通しはかなり厳しい。 ※画像をクリックするとアマゾンに飛びます2020年5月5日/12日号(4月28日発売)は「ポストコロナを生き抜く 日本への提言」特集。パックン、ロバート キャンベル、アレックス・カー、リチャード・クー、フローラン・ダバディら14人の外国人識者が示す、コロナ禍で見えてきた日本の長所と短所、進むべき道。