南半球でこれから冬を迎える南米諸国は、気温の低下だけではなく薪ストーブによる大気汚染によって、新型コロナウイルス感染症の犠牲者が一段と増えると懸念されている。 チリでは人々が自宅待機を求められる中で寒さが訪れようとしており、冬場の大気汚染の一大要因である薪ストーブ利用が急増する見通しだ。 さらに米ハーバード大学がこの4月に公表した研究論文によると、有害な微粒子による大気汚染のひどい地域では新型コロナ感染症による致死率が高くなる。 ドイツのハレ・ビッテンベルク・マルティン・ルター大学が同月公表した論文では、フランス、スペイン、ドイツ、イタリアの新型コロナ死者の78%は、自動車や火力発電所が排出する窒素酸化物による大気汚染が最も深刻な5地域に集中していた。 南米で最も経済が発展した国に入るチリは、ウイルス検査の徹底、早期の休校や企業活動の休止、隔離措置などにより感染拡大を抑え込んだとして、これまでのところ世界から賞賛を浴びた。 同国で確認された感染者数は1万4000人超、死者数は200人超。ピニエラ大統領は前週、学校やショッピングモールなど部分的な社会経済活動の再開に言及した。 しかし、裕福な住民が休暇先の外国からウイルスを持ち帰ると、そうした住民の住む地域から、より貧しく、人口が過密で、大気が汚染されている地域に感染が拡大。感染者数は今後、急増する恐れがある。公共医療機関は冬場はただでさえ負荷がかかるため、コロナに対応し切れなくなるかもしれない。 チリの地形はもともと、壮大なアンデス山脈が汚染物質の拡散を遮断、閉じ込める形になっている。2019年の世界大気質報告書によると、世界で最も大気が汚染された10都市中、実に8都市がチリにあった。 スモッグで悪名高かった首都サンティアゴの空は、今は交通量の急減で澄みわたっている。しかし同国環境省によると、南部で起きる大気汚染の95%は薪ストーブを原因としたものになるという。 最も大気汚染の深刻なアラウカニア州パドレ・ラス・カサスとテムコの両都市は、サンティアゴの南方720キロメートル付近に位置。保健省のデータによると、この地域はこれまで、首都圏に次いで新型コロナの感染者数が多い。一方で同州のコロナ致死率は2.6%と、サンティアゴの1.2%を上回る。先住民が多く住み、貧困層が比較的多い地域だ。 大気汚染の同国専門家は、自宅待機措置、失業者の増加、厳冬予報という「完璧な条件」がそろっているため、これから安い薪を使った暖房が増えると予想する。 ===== 寒さか新型コロナか チリでは過去6年間、薪ストーブの利用制限や禁止といった厳しい措置が導入され、クリーンな燃料への切り替えを後押しする政府出資の対策も講じられてきた。大気の専門家や医療関係者、地元指導者からは、新型コロナを受け、政府がそうした対策を強化すべきだとの声が高まっているが、今のところ対策は発表されていない。 元環境相のマルセロ・メナ・カラスコ氏は、ハーバード大のコロナ致死率の論文を踏まえれば、チリでは大気汚染緩和のための財政支出は「必須」だと強調する。 しかし公衆衛生の専門家によると、代替的な暖房設備を提供せずに薪ストーブの使用を禁じれば、それはそれで問題を招く。 国立外科大学で新型コロナ対策チームの指揮を執るマウリシオ・イラバカ氏は、寒冷な温度による健康被害の方が大気汚染よりも急速な死者増加につながるとし、そこに新型コロナ感染症が加われば医療態勢の崩壊につながりかねないと言う。 南米の他諸国でも、大気汚染がコロナ致死率を高める恐れがある。スイスのIQエアがリアルタイムで公表している大気質データによると、ペルーの首都リマ、ボリビアの首都ラパス、コロンビアの首都ボゴタでは、大気中の微粒子の水準が、ハーバード大がコロナ致死率を悪化させるとした数値を常に超えている状態だ。 テムコ市の地方評議会のアレハンドロ・モンダカ議長によると、市民、特に高齢者は大気汚染と新型コロナの相乗作用を恐れる一方で、夕方7時から朝7時まで薪ストーブを消すよう求められそうだと知って憤っている。「環境当局者に言いたいのは、片手を胸に当て、もう一方の手をポケットに入れて(財政資金を使って)、お年寄りを助けてほしいということだ。さもなければ寒さか新型コロナ、どちらかが原因でお年寄りが死んでしまう」と訴えた。[ロイター]Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます 【関連記事】 ・コロナ独自路線のスウェーデン、死者3000人突破に当局の科学者「恐ろしい」 ・「集団免疫」作戦のスウェーデンに異変、死亡率がアメリカや中国の2倍超に ・新型コロナウイルスをめぐる各国の最新状況まとめ(7日現在) ・「ブラック企業・日本」がコロナ禍で犯し続ける不作為   ※画像をクリックするとアマゾンに飛びます2020年5月5日/12日号(4月28日発売)は「ポストコロナを生き抜く 日本への提言」特集。パックン、ロバート キャンベル、アレックス・カー、リチャード・クー、フローラン・ダバディら14人の外国人識者が示す、コロナ禍で見えてきた日本の長所と短所、進むべき道。