<発酵食品文化や食材への敬意――。日本料理はコロナ危機でさらに発展し、世界に広がるだろうと、NYの著名フレンチシェフ、デービッド・ブーレイは言う。本誌「ポストコロナを生き抜く 日本への提言」特集より> ニューヨークの著名フレンチシェフ、デービッド・ブーレイ(66)は早くから和食の要素を取り入れ、食と健康の関係も研究。2016年には日本政府から「日本食普及の親善大使」に任命された日本通だ。新型コロナウイルスで大打撃を受けているニューヨークから、ジャーナリスト・北丸雄二のインタビューに答えた。 ◇ ◇ ◇ ──ニューヨークの現状は? 事実上全てのレストランが閉まっている。営業はデリバリーとテイクアウトだけ。政府からの休業補償や無利子ローンもあるが、給付金として受け取るなら再開時に従業員の80%を保持していなくてはならない。同じ規模を維持できるか分からないから、どの経営者も迷っている。 実はニューヨークのレストラン業界は今年に入って不況になり、有名店などの閉店も続いていた。時給15ドルの最低賃金の導入や家賃高騰が原因。そこにウイルスだ。ホテル大手のヒルトンも閉まった。再開できないかもしれないとさえ噂されている。私の店も従業員50人を解雇した。 ──日本料理店はどうか。 不況に日本料理店はあまり影響されていない。林立する高級スシバーこそ人気に陰りが見えてきたが、懐石割烹や精進料理店は元気だった。 ──和食にはまだ発展の余地が? このコロナ危機でさらに広がると思う。人間の免疫システムには母親から受け取る受動免疫、ワクチンや疾病体験から得られる獲得免疫、人間の肉体が生来的に持っている自然免疫がある。和食にはこの自然免疫力を高める働きがある。 海からの各種ミネラルに加え、抗酸化物質もヨモギに含まれるものはブドウの皮より多い。さらには発酵食品に含まれる乳酸菌など各種の微生物も、人間本来の健康システムをさらに強く活動させるものだ。ヨーロッパにも発酵文化があるが、日本のものはもっと深い。西洋料理は免疫システムを減衰させてしまいがちで、だから薬やサプリメントに頼らざるを得ない。 ──とはいえ、日本でも食べ物の西洋化が進んでいる。 ここ数年日本へ定期的にリサーチに行っているが、確かにコンビニフードや既製食品も多い。けれど、日本のフレンチやイタリアンの店では畑や海から来る食材の質の高さ、扱い方の素晴らしさに驚く。西洋料理の現場でさえ、食材に対する日本人らしい敬意がある。日本人はあまり気付いていないかもしれないが、そういう「日本」をもっと意識して西洋にアピールすべきだと思う。 ===== ──レストラン業界の未来は? 毎年多くの病原体が現れ、それも次第に強くなっている時代だ。私たち人間は自分たちの生態系に毒をまいているのかもしれない。その意味で私たちはどんどん脆弱化している。科学はそういうときも健康に素晴らしい貢献をしてくれるが、根本的なところは救ってくれない。 そこで人々は気付く。オーケー、私たちは食事と生活様式によって抵抗力を高め、自己防衛するしかない、と。レストランはそこに力を貸せるか? ただ料理を振る舞うだけではなく、家庭向けに料理と健康に関する教育を提供しなくてはならない。 あるいはもっと具体的に家庭用半調理品の宅配や個人用のケータリングも考えるべきだ。和食には美しい弁当の文化もある。私にとって、食に関する答えは常に日本から来る。 9.11の後、ハリソン・フォードと一緒にグラウンド・ゼロで瓦礫を回収する巨大クレーン群を見上げながら、彼が「もう元には戻れないな」と言ったのを覚えている。今回も同じ気分だ。私たちは皆それぞれの分野で、この惑星の世話をしなくてはならないのだと思う。 <2020年5月5日/12日号「ポストコロナを生き抜く 日本への提言」特集より> 【参考記事】NY著名フレンチシェフが休業、日本に和食を学びに来る! 【参考記事】コロナ禍を機に観光業を「解毒」せよ(アレックス・カー) 【参考記事】ロバート キャンベル「きれいな組織図と『安定』の揺らぎ」 ※画像をクリックするとアマゾンに飛びます2020年5月5日/12日号(4月28日発売)は「ポストコロナを生き抜く 日本への提言」特集。パックン、ロバート キャンベル、アレックス・カー、リチャード・クー、フローラン・ダバディら14人の外国人識者が示す、コロナ禍で見えてきた日本の長所と短所、進むべき道。