<100人を超える集団感染。それでも、対策は全体として功を奏している、と専門家は自信を見せるが> 「アイスアメリカーノの人は手を挙げて?」──一人の男性が周りの同僚たちに尋ねると、10人が手を挙げた。男性はカウンターに行ってアメリカーノを注文し、その間、同僚たちは近くで楽しそうに立ち話をしていた――。韓国で外出規制が緩和されて、多くの人が職場に戻った5月6日。久しぶりに会った同僚と話が尽きないのも当然だろう。 積極的な対策で新型コロナウイルスの感染拡大を食い止めることに成功したと世界から称賛されている韓国では、この日から外出や集会の禁止措置が正式に緩和された。ソウル市庁舎の近くで働いている前述の男性たちは、これで安心して12人で連れ立って近くのコーヒー店を訪れることができるようになったと上機嫌だった。グループの中の管理職風の男性は、若い同僚に「500ウォン(約50セント)の借しだぞ」と冗談めかして言い、彼に近づいていって腹を殴る真似をした。 「ソーシャル・ディスタンシング(社会的距離の確保)」など過去の話のように思えた。国の新たな方針としては「生活防疫」が掲げられた。閉鎖されていた店舗や事業所は再開、学校も近いうちに再開する一方で、市民はマスクを着用したり互いに少し距離を空けたりするなど、必要な感染防止策を講じた上で日常生活を送ることになる。もちろん、体調が悪い人は自宅にとどまらなければならない。 繁華街から広まった感染に怒り だがその後、状況は一変。韓国の「勝利」は一瞬で終わった。規制緩和を控えた週末、新型コロナウイルスに感染している29歳の男性が、バーやナイトクラブがひしめくソウルの繁華街・梨泰院地区を訪れたのだ。この男性を中心に発生した集団感染で、12日までに少なくとも102人の感染が確認され、1日あたりの感染者数も1カ月ぶりの高い水準を記録した。問題の29歳の男性は複数のナイトクラブを訪れており、当局は約1500人がウイルスにさらされた可能性があると推定している。 ソウル市は感染者数が増えるとすぐに、ナイトクラブやバーに事実上の営業停止命令を出した。また男性と同じ週末に梨泰院地区にいた全ての人に対して、症状の有無にかかわらず検査を受けるよう要請した。韓国疾病予防管理局によれば、11日には新たに感染が確認された35人のうち29人は感染経路不明の市中感染だった。感染者が再び急増していることに、韓国のネット上では多くの怒りの声が上がっている。中でも集団感染の発生源がゲイバーだと報じられたことで、人々の怒りの矛先はLGBTコミュニティーに向けられている。 <参考記事>新型コロナ規制緩和の韓国、梨泰院のクラブでクラスター発生 ===== この集団感染を受けて、政府は学校の再開を1週間延期。多くの当局者から、政府の当初の再開方針に無理があったのではないかという声が上がっている。 韓国保健福祉部のソン・ヨンレ報道官は、「このところニューノーマル(新常態)という言葉がよく使われている。新型コロナウイルス後の韓国がどうなっていくのか、我々も強い関心を持って見守っている」と外国メディア向けの会見で語った。 韓国政府は、ウイルス流行の第2波に向けた備えも万端だとしている。韓国疾病予防管理局の權俊旭副部長は5月7日の会見で、「COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の第2波をより効率よく抑えることが重要だ」と語った。「韓国政府は、第2波に向けての備えを進めており、日常生活を続けながら感染拡大を抑えることを目指している」 今回の梨泰院地区での集団感染を受けても、当局者たちは、韓国のウイルス対策は総じてうまくいっていると主張する。「最近では、1日あたりの新たな感染者が10人を大きく割り込んでいる。その半数以上が海外からの入国者で、感染経路が不明なケースは5%程度だ」と保健福祉部のソンは語った。「このことは、我々がCOVID-19を制御していることを意味する。今後も感染者をこの水準に抑え、一方で元の生活に戻るための活動ペースを上げていけると考えている」 感染者3日連続ゼロも 韓国は、最近の集団感染による増加分を除けば、もう1カ月近くにわたって1日あたりの新たな感染者数を10人程度に抑えることができており、5月に入ってから3日連続で国内感染者ゼロを記録した。 ある専門家は、経済が大打撃を受け、学校は既に1学期の半分が過ぎ、気候が良くなってきている今こそ、市民に活動の再開を促すべき絶好のタイミングだと指摘する。「ウイルスは高温多湿の気候に弱い。夏はみんな屋内よりも屋外で過ごすことが多く、このところの新たな感染者の数は、これまでで最も少ない水準にある。こうした条件を合わせて考えると、いま規制を緩和するのは適切だ」と、高麗大学九老病院の金宇柱教授(感染症)はフォーリン・ポリシー誌に語った。 一方で彼は、完全な規制解除はまだ早いとも警告した。「韓国は感染拡大がぶり返すことがないように、慎重な対応を取るべきだ。政府はあらゆる状況や再発リスクを評価しつつ段階的に規制を解除し、もし感染拡大の兆しが見えたら直ちに大規模なソーシャル・ディスタンシングの措置に立ち戻る必要がある」 特に、再び気温が下がって多くの人が密閉された屋内で過ごすようになる秋には、感染拡大の再発リスクが高くなる。「効果的なワクチンや集団免疫がなければ、秋に大きな第2波が訪れることは避けられないだろう」と金は指摘した。 From Foreign Policy Magazine