<中国はWHOの「パンデミック宣言」を遅らせて、その間に自国で必要な医療品を数十億点も緊急輸入した疑いが浮上。世界はそのために今もマスクや防護服の不足に悩まされている可能性が高い> 中国は昨年末、新型肺炎の集団発生に気づいた時点で、世界保健機関(WHO)に圧力をかけて緊急事態宣言を先送りさせ、その間に世界中からマスクなどの医療用品を大量にかき集めた──CIAの調査でそんな疑惑が浮かび上がった。 WHOが「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)」宣言を出したら、各国が医療用品の輸出を差し止めかねない。それを恐れた中国は、宣言を発出したら、新型ウイルスに関する調査に協力しないとWHOに脅しをかけた。CIAの調査チームはそうみている。本誌はCIA職員2人に報告書の内容を確認した。 先にドイツの情報機関も同様の報告を行っている。世界で29万人超、アメリカで8万人超の死者を出している新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)をめぐって、米中が繰り広げる鍔迫り合いは、この疑惑でさらに激化しそうだ。 シュピーゲル誌が先週報じたドイツの情報機関の調査は、中国の習近平(シー・チンピン)国家主席が1月21日に個人的にテドロス・アダノムWHO事務局長に宣言の延期を要請したと結論付けている。 原則論を盾にするWHO WHOの報道官は本誌の取材に対し、習主席は介入していないと断言したが、宣言を繰り延べるか内容を変更するよう、中国当局から働きかけがあったかという質問には回答を避けた。 「加盟国との特定の協議についてはコメントできない。だがWHOはこのパンデミックでは一貫して、エビデンス(科学的根拠)に基づく技術機関としての権限を行使し、あらゆる地域の全ての人々を守る任務に専念している」と、WHOのクリスチャン・リンドマイヤー報道官は本誌に語った。「WHOは科学、公衆衛生上の最善の慣行、エビデンス、データ、独立した立場の専門家の助言に基づいて勧告を行う」 リンドマイヤー報道官はまた「1月21、22、23日にはテドロス事務局長は、習近平とコミュニケーションを取っていない」と断言。テドロス指揮下の「上級チームが1月28日に北京で習主席と会合を持ったが、その場ではPHEIC宣言については何も話し合われなかった」と付け加えた。 本誌が取材したCIA職員2人は、習主席が直々にWHOに圧力をかけたかどうかは分からないと述べた。 <参考記事>アメリカの無関心が招いた中国のWHO支配 <参考記事>米中激突:ウイルス発生源「武漢研究所説」めぐり ===== WHOは1月30日にPHEIC宣言を行ったが、その際にテドロスは中国の初期対応を長々と擁護した。 「はっきり言おう。この宣言は中国に対する不信任投票ではない。その逆だ。WHOは集団感染を制御する中国の能力を引き続き信頼している」と、テドロスは語った。 これには欧米諸国から怒りの声が上がった。ドナルド・トランプ米大統領は、WHOの「中国中心主義」に激しくかみつき、4月14日に資金拠出を停止して調査を行うと宣言した。 「WHOの責任逃れは信じ難い」と、トランプは先週またもや怒りぶちまけた。「彼らは中国の(プロパガンダを奏でる)パイプオルガンだ。この件については早急に決断を下す」 中国の初期対応は世界中から批判されている。湖北省武漢で最初に集団感染が起きた時点で、異変に気づいて警告を発した医師らの口を封じたこと、中国外務省の報道官が、米軍がウイルスを持ち込んだと虚偽情報を流したこと。さらに、中国当局が発生初期の6日間、事実上の隠蔽工作を行なったため、武漢から大勢の市民が脱出し、結果的に世界中にウイルスがばらまかれたと、AP通信が伝えたことも、中国に対する不信感を募らせた。 そのため中国当局が発表する死者数や感染率などのデータは、欧米ではあまり信頼されていない。ただ、武漢の研究所からウイルスが漏出したというトランプの主張も証拠がないため、まともに取り上げられていない。 素早く緊急輸入に動く 中国外務省はCIAの報告に関する本誌の問い合わせに応じていない。だが5月11日の定例記者会見ではシュピーゲル誌の報道について質問が出て、外務省報道官が「1月21日には、中国の指導者とWHOのトップはそうした話を一切していない。電話でもしていない」と強い調子で否定した。 CIAも報告書に関する本誌の問い合わせに応じていない。 「国連と中国──WHOは中国から恩恵を受けていないが、忖度している」と題されたCIAの報告書とシュビーゲル誌の報道以前にも、米国土安全保障省の分析で、中国は1月に情報隠しを行い、その間に世界中から医療用品をかき集めたと指摘されている。これについては、最初にAP通信が報じた時点で本誌はワシントンの中国大使館にコメントを求めたが、「根拠なし」の一点張りだった。 中国の税関当局である海関総署によれば、1月24日から2月29日までに中国が輸入した感染防止の個人防護具は、20億枚超のマスクを含め25億点に上る。世界最多の人口を抱える中国は新型ウイルスの感染が拡大するなか、大量のマスクや防護服を確保すべく、外交ルートを通じて世界各国に働きかけ、緊急輸入の手筈を整えたのだ。 ===== しかし感染は世界中に拡大。中国に緊急輸出を行なった国々の一部は、マスクなど医療用品の不足に悲鳴を上げることになった。中国は国内の感染が収まると、アメリカをはじめ感染拡大地域に支援の手を差し伸べ、「マスク外交」を展開し始めた。 中国が原因不明の肺炎について初めてWHOに報告したのは昨年12月31日。アメリカに公式に知らせ始めたのは1月3日からだ。人から人への感染を中国当局が認めたのは1月20日。これにより当初の想定より感染率が高いことが明らかになった。WHOはPHEIC宣言の発出について1月22日と23日に投票を行なったが、結論は見送られ、1月30日に3回目の投票で、ようやく緊急事態を宣言した。 「WHO憲章(の第37条)には、『加盟国は事務局長および職員のもっぱら国際的な性質を尊重し、これに影響を与えようとしてはならない』と定めてある。グローバルな保健事業においてWHOの公平性と中立性を担保するために、このルールが不可欠だと、全ての加盟国が理解している」と、リンドマイヤー報道官は本誌に述べ、中国もルールを守っていると強調した。 果たしてそうなのか。5月中旬時点で、新型コロナウイルスの感染者は、世界で430万人を突破している。 ※画像をクリックするとアマゾンに飛びます2020年5月19日号(5月12日発売)は「リモートワークの理想と現実」特集。快適性・安全性・効率性を高める方法は? 新型コロナで実現した「理想の働き方」はこのまま一気に普及するのか? 在宅勤務「先進国」アメリカからの最新報告。