<世界各地の反政府組織はコロナ禍を利用して、自らを正当化し政府を批判するが、被害を受けるのは支配地域の住民だ> アフガニスタンの反政府武装勢力タリバンがネット上で珍しい動画を公開した。よくある戦闘員の「勇姿」ではなく、マスクを着けた彼らが住民の家を訪れ、体温の測定や消毒液の配布をしている姿だ。英語のナレーションによれば、タリバンは既に新型コロナウイルスの爆発的な感染を抑え込んでおり、感染予防の情報班を結成し、診療所や隔離施設も用意している。 それだけではない。タリバンは中東地域で最も感染者の多いイランからの帰国者に対し、2週間の自宅待機を命じていた。まだアフガニスタン政府が、毎日1万5000人も通過する対イラン国境でほとんど何の規制も行っていなかった時期の話である。 反政府勢力が体制側の弱みや危機に付け込むのは毎度のこと。テロ対策の専門家デービッド・キルカランに言わせれば、危機対応で政府より少しでもマシなように見せることができれば、彼らは自らの正統性をアピールできる。実態はどうでもいい。大事なのは「見せ掛け」だ。 ちなみにニューヨーク・タイムズ紙によれば、タリバンはアフガニスタン東部のナンガルハル州で報道陣を集め、防護服姿のスタッフが非接触式体温計を使って検温する様子を公開したが、よく見るとその体温計はプラスチックと木材を組み合わせただけの偽物だったという。 各地の武装勢力が新型コロナウイルスの対策に乗り出したとか、このパンデミック(世界的な大流行)を利用して、宣伝攻勢を強めているといった報道は山ほどある。コロンビアの民族解放軍(ELN)は支配地域のロックダウン(都市封鎖)を発表。住民が「感染症対策の命令を尊重しない」場合は「命を守るために彼らを殺さざるを得ない」こともあると警告し、民間人に対する虐待を正当化している。 実際の対応能力はない ソマリアの反政府組織アルシャバブやイエメンのシーア派武装組織のホーシー派は、ウイルスの感染拡大は政府の責任だと非難している。今なお「イスラム国」を自称する過激派組織ISは、手洗いの奨励と感染予防に関するシャリーア(イスラム法)指令を出した。 メキシコでは麻薬カルテルが住民に医薬品を配布する映像が出回っている。エルサルバドルのギャング、MS-13は夜間外出禁止令を出し、リオデジャネイロのスラム街を実効支配するギャングが「政府が無能なら自分たちが問題を解決する」と宣言している。 ===== 政府のウイルス対策が不十分だと、「住民への奉仕という点ではテロ組織のほうが頼りになる」という印象が助長されかねないと警告するアナリストもいる。 たいていの場合、こうした評価は眉唾ものだ。テロリストや犯罪組織にはパンデミックを宣伝に利用する力はあっても、公衆衛生上の危機に対応する能力は欠いている。感染対策のもたらす経済的・社会的な副作用への対応もできるはずがない。臨時政府の樹立を宣言し、国際社会の支援物資を横取りすることはできても、自力で医療サービスを提供する技術も経験もない(ほとんど唯一の例外はレバノンのヒズボラで、彼らは何千人もの医療スタッフを感染対策に動員している)。 豊かな先進諸国でさえ、今回のパンデミックには手を焼いている。世界で最も先進的な医療システムを持つ国でも新型コロナウイルスの感染拡大には追い付けない。暴力の支配する苛酷な環境に置かれた人々には打つ手がない。結局のところ、武装組織の支配下にいる民間人は最大の被害者だ。暴力は医療へのアクセスを制限し、サプライチェーンに負担をかける。善意の医療スタッフも、安全な場所に避難せざるを得ない。 そうなれば地域全体が医療サービスから切り離され、物資の供給路も断たれて医療システムが完全に崩壊する。アフガニスタンの首都カブールでは、既に人口の3分の1が新型ウイルスに感染しているとの報道もある。政府の推定でも、国内の死者は最終的に11万人に達するという。実際はその6倍になるという説もあるが、いずれにせよ確かなことは分からない。 停戦を拒否し攻撃を激化 国連は3月23日に全世界に向けて、感染予防のための一時休戦を呼び掛けた。これに対してコロンビアやフィリピン、リビアや南スーダンなどの武装組織が休戦に応じる姿勢を表明した。 しかし、実際に戦闘行為が止まった地域はわずかだ。たいていは一方的な休戦の意思表示にすぎず、相手方がそれに応じることはなかった。コロンビアのELNは休戦を表明したが、政府が応じないとして戦闘を再開した。リビアとイエメンでも、すぐに約束が破られた。フィリピン政府と新人民軍の休戦協定も4月で期限が切れた。 こうしたなか、タリバンは戦闘停止を拒み続け、むしろ攻撃を激化させている。政府側は、暴力がエスカレートすれば医療従事者が仕事できなくなると警告している。タリバンのザビフラ・ムジャヒド報道官は「われわれの支配地域で感染拡大が起きれば、その地域での戦闘は停止する」と表明したが、もう感染は現実に起きている。タリバンが支配する西部ヘラート州の一部はアフガニスタンにおける感染拡大の中心地だ。 ===== 思わぬ自然災害や非常事態が和平の糸口になる可能性はある。災害が紛争終結の道を開いた例は現にある。2004年のインド洋大津波の後には、インドネシア政府と同国アチェ州の独立派との間で和平交渉がまとまった。 武装組織に呼び掛けよ しかし、それは例外だ。むしろ、パンデミックは社会の二極化や紛争悪化のリスクを高める可能性がある。全世界で人道目的の一時戦闘停止を強く求め続けることは極めて重要だが、それが武装組織の支配下で暮らす人々の助けになる可能性が低いのもまた悲しい現実だ。 国連のアントニオ・グテレス事務総長は、パンデミックと闘うために世界が団結して全力を尽くすよう促している。そのためには、武装組織に対してウイルス対策における彼らの責務を説くという、今よりもっと断固たる取り組みが必要だ。相手がテロリストであれ犯罪者であれ、それで彼らの存在が一時的に正当化されるとしても、世界はその努力をするべきだろう。 そうした対話は人道的な一時停戦につながる可能性があるだけでなく、医療従事者の安全確保や政府の医療関連機関との連携についての交渉にもなるかもしれない。適切な医療上のメッセージを武装組織に伝えるだけでもいい。 いずれにせよ、一定の領土を支配し、なんらかの正統性を認めてほしいなら、反政府勢力もパンデミックによる死者を減らす上で一定の役割を果たすべきだ。 アフガニスタンでは、停戦に重点を置いた政治的な圧力よりも、人道的な取り組みを優先させたほうが現実的な結果につながるかもしれない。援助国や援助機関は、武装組織にも果たすべき重要な役割があることを認め、ウイルスの拡散を阻止して医療従事者が円滑に働けるようにするために、具体的な行動を呼び掛けるべきだろう。それでも協力を拒めば、タリバンは犠牲者を出した「共犯」として公に批判されるべきだ。 国際社会がこうした行動を取らなければ、タリバンは今後も、自分たちの政治目的のためにパンデミックを利用し続けるだろう。自分たちの仲間が次々と死んでいけば、彼らも問題を深刻に受け止めるようになるかもしれない。しかし、そうなってからではもう手遅れなのだ。 From Foreign Policy Magazine <本誌2020年5月19日号掲載> 【参考記事】地雷撤去はアフガン女性の自立と夢への第1歩 【参考記事】ISIS敗残兵の拠点と化すアフガニスタン ※画像をクリックするとアマゾンに飛びます2020年5月19日号(5月12日発売)は「リモートワークの理想と現実」特集。快適性・安全性・効率性を高める方法は? 新型コロナで実現した「理想の働き方」はこのまま一気に普及するのか? 在宅勤務「先進国」アメリカからの最新報告。