<首都の都市封鎖が続くなか、大手民放が放送停止という異常事態はようやく解消へ> フィリピンの大手テレビ局ネットワークのABS-CBNに対して国家放送委員会(NTC)が放映権の期限切れを理由に放送停止命令を出し、同局と系列局などが5月6日から一斉に放送中止に追い込まれていた問題でフィリピン下院は13日、緊急議会を開き当面5カ月間の暫定放送許可を与えることを決めた。 今後上院での審議・可決を経て最終的にはドゥテルテ大統領による署名でこの暫定放送許可の法案は成立し、近くABS-CBNは放送を再開することが可能となる。 25年間の期限が切れたABS-CBNの放映権については、今後暫定放送許可の期間中に議会で継続審議して解決の道筋を探ることも確認され、とりあえずは停波という最悪の状態からは脱することになりそうで、ABS-CBN関係者らは安堵している。 NTCによる突然のABS-CBNの放送停止命令は、国会での審議が継続中でもあり、 ABS-CBNの放映権更新については、国会での審議途中であったことや、議会が新型コロナウイルス対策を最優先議題としていること、そもそも感染防止の一環として実質的な休会状態になっていたため、期限終了(5月4日)以降も最悪の停波措置にはならず放送継続は可能というのが大方の見方だった。 ところが、NTCは突然の放送停止を命令。その背景にはABS-CBNが一貫して取り続けるドゥテルテ政権への批判的立場への「懲罰的措置」という側面もあったとの見方が有力視されていた。 一方、大統領府は「NTCは法律に従った決定をしただけで、ドゥテルテ大統領は決定に関与などしていない」として政治的背景のないことを強調、事態の推移を静観していた。 オンライン審議で暫定放送許可を決める 13日に下院で審議されたABS-CBNの暫定放映許可に関する法案は下院のピーター・カエタノ議長が提案し、新型コロナ感染防止のためオンラインでの議会開催という形で審議が進められた。 審議ではNTCの突然の放送停止命令にフィリピン国内外から「報道や言論の自由を制限する命令で問題がある」との指摘が相次いだことなどを背景に「事前通告や適正な手続きを無視した命令だった可能性がある」としてNTCへの批判も出た。 さらにコロナ禍に関する情報提供を担う報道機関であることに鑑みて「突然の放送停止命令には問題がある」との立場から、暫定的な放送許可を与えることになった、などと地元メディアは伝えている。 ===== NTCは議会に対し事前通告なしを謝罪 審議に先立つ11日、下院議会は世論の放送停止命令への反発などを背景にNTCに対し「停止命令に至った詳しい経緯と背景」の説明を求めた。これに対しNTCはコミッショナーらによる連名の書簡を12日にカエタノ下院議長に宛て、その中で「議会の立場を決して無視した訳ではないが、事前の通告がなかったことを含めて迷惑をかけたことに対しては遺憾であり、謝罪する」との姿勢を示した。 しかし一方で放送停止命令に関しては「あの時点でとりうる最良の方法であり、間違ったことではなかったと考えている」として、放送停止命令そのものに問題があったとは考えていないとの立場を明確にし、停止命令については撤回することはないとして議会の理解を求めた。 こうしたNTCの説明を受けて下院は「本来の放送免許更新の審議は暫定的に放映を認める5カ月という期間内で進めることとする」との結論にいたった。 さらに議会は、これまで議論となりながら明確な回答がABS-CBN側からなかったという同局の労務問題、税務問題、公正中立の遵守などについても速やかな回答を得て審議を前進させていきたい、との考えを強調した。 ABS-CBNの放送中止に伴い全国にある系列の地方局やラジオ局など42局も放送停止に追い込まれ、国民が現在最も関心のある新型コロナの感染状況に関する情報や、感染対策についての報道という手段を封じるべきではない、との考えも暫定放送許可に繋がったと地元マスコミは伝えている。 今後は上院、大統領の判断待ち 下院で成立した今回の暫定放送免許法案は今後上院での審議、成立を経てドゥテルテ大統領の署名によって最終的に成立し、ABS-CBNは暫定的措置として10月31日までの放送再開が正式に求められることになる。 地元紙「フィリピン・スター」の電子版などによると上院のフアン・ミゲル・スビリ多数党院内総務は「10月末までの5カ月という暫定期間は短すぎるとして2022年までの2年間とする案を考えている議員もいるが、上院としては下院の決定に反対することは基本的にはないだろう」との立場を示し、審議が順調に進むとの見方を明らかにしている。 また大統領府のハリー・ロケ報道官は今回の「暫定的放送再開という手段は、現時点では問題可決に向けた最良の選択肢である」との考えを明らかにしている。 そのうえで同報道官は「ドゥテルテ大統領は署名を拒否しない意向である」としており、下院での成立を受けて今後の上院審議、大統領署名が順調に進み、ABS-CBNの暫定的放送の再開はほぼ確実な状況となっている。 [執筆者] 大塚智彦(ジャーナリスト) PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など ※画像をクリックするとアマゾンに飛びます2020年5月19日号(5月12日発売)は「リモートワークの理想と現実」特集。快適性・安全性・効率性を高める方法は? 新型コロナで実現した「理想の働き方」はこのまま一気に普及するのか? 在宅勤務「先進国」アメリカからの最新報告。