米サウスカロライナ州チャールストンでバーテンダーとして働いていたシャナ・スウェインさん。解雇される以前は、毎晩、客に料理を提供し、「マンハッタン」「コスモポリタン」といったカクテルを作っていた。 だが今、40歳のスウェインさんは5歳、8歳の2人の娘とともに夕食をとり、不動産取引資格の勉強をしている。新型コロナウイルスがもたらした危機で生計が脅かされたことを受けて、こうした資格を取れば、家族のためにもっと長期的な安定が得られるのではないか、と期待している。 20年間バーテンダーとして働いたスウェインさんは、「こんな状況は二度と耐えられない」と話す。 パンデミック(世界的な大流行)に伴う失業の嵐のなかで、早くから大きな打撃を受けたのが、米国の女性たちだ。コロナウイルスのまん延防止に向けた事業活動停止のなかで、女性の就労が多かった雇用が失われたせいである。米労働省が8日に発表したデータによれば、3月に失われた雇用の60%、さらに4月に失われた2050万人の雇用の55%は女性である。 成人女性の失業率も、4月には15.5%と急上昇した。男性の失業率13%、労働者全体の14.7%を上回っている。 家計の唯一の、あるいは主たる稼ぎ手となっている女性は特に速いペースで職を失いつつあり、失業率は4月の時点で15.9%に上昇している。これに対し、配偶者のいる女性の失業率は13%だ。 4月の失業者増大の中心となったのは、娯楽・サービス産業770万人、医療・教育産業250万人である。どちらも消費者と直接対面する産業であり、エコノミストらによれば、非白人女性を含め、女性が多数を占めている。 こうした仕事は全般的に賃金が低い。労働省のデータによれば、スーパーのレジ係やバーテンダーの平均時給は11.40ドル(約1220円)、ウェイトレスは11ドルである。そのため、危機に備えた貯蓄がほとんどない可能性が高い。国内の一部地域では、賃金水準はさらに低い。 女性政策研究所のC・ニコル・メイソン所長は、「こうしたセクターで雇用されている女性たちはただでさえ綱渡りの状態にあり、多くはシングルマザーか、家計における主要な稼ぎ手になっている」と語る。 スウェインさんによれば、彼女に「シャナ・バナナ」というあだ名を付けた常連客の多くは、店が休業した後も携帯電話にメッセージをくれるという。彼女はスーパーに行って食材をまとめ買いし、日持ちするよう野菜を湯がいて冷凍する。 「備えあれば憂いなしということがようやく分かった」と彼女は言う。 ===== 前進が帳消しに エコノミストらによれば、近年、労働人口への女性の参入が増大し、主力となる25ー54歳の労働参加率の上昇をけん引してきたが、今回の危機によって、そうした前進が帳消しになってしまう恐れがあるという。 昨年12月、2010年以来初めて、一時的にではあるが労働人口の過半数を女性が占めることになり、労働市場の需給タイト化と記録的な景気拡大の賜物として歓迎された。国勢調査によれば、女性が主たる稼ぎ手である家計(大半はシングルマザー)の貧困率は、2018年に史上最低の26.8%まで低下した。 メイソン氏は、「だが今、女性が急速に職を失いつつあるという、明確で劇的な変化が生じている」と言う。 4月、25ー54歳の女性における労働参加率は73.6%に低下し、男性の労働参加率に比べ、大きな落ち込みを示した。ジェンダー間の参加率格差は、2月に最小を更新した後、再び拡大した。 カンザスシティ地区連銀の上級エコノミスト、ディデム・テュゼマン氏によれば、3月中の雇用減少によって特に大きな影響を受けたグループは大卒以上の学歴を持たない女性であり、パンデミックによる喪失分を取り戻すにも困難が伴う可能性があるという。同氏は2008ー09年の金融危機による影響を受けた労働者についても研究している。 テュゼマン氏の研究結果によれば、前回の景気後退の際には、大卒以上の学歴を持たない女性では労働参加率の落ち込みが激しかったという。 各州がソーシャル・ディスタンシング(社会的距離)の規制を緩和し、事業活動が再開されるにつれて、今後数カ月間で職を取り戻す人も出てくるだろう。だが多くの企業は、スタッフの数を抑えつつ段階的に事業を再開する見込みであり、雇用の不確実性は残る。 「仕事が見つからなければ、彼女たちは労働人口から離脱してしまうかもしれない」とテュゼマン氏は言う。 パウエル連邦準備理事会(FRB)議長は4月の連邦公開市場委員会(FOMC)後、11年に及ぶ経済成長により、かつてはなかなかはい上がれない不利な立場にある労働者にも新たな道が開けた、と語った。「いま、そうした人たちが皆、脅かされているのを見るのは、率直に言って、ひどく辛い」と同議長は言葉を続けた。 ティナ・ワトソンさんは、5年を超える失業を経て、昨年秋、サウスカロライナ州ホリーヒルのマクドナルドで調理師としての職を見つけた。2月、彼女はウェンディーズに転職した。マクドナルドでは週3ー4日勤務だったのが、こちらではフルタイム、時給も7.25ドルから8ドルにアップした。 シングルマザーのワトソンさんは、しばらくのあいだ、月々の支払いにも苦労せず、自分自身と11歳の息子のためにわずかばかりの貯金もできた。だが、そうした安定は短期間で終った。 3月末、ウェンディーズはソーシャル・ディスタンシング規制を守るために店内での飲食を中止し、ワトソンさんの勤務スケジュールは週2日に減らされた。収入減少により請求書の支払いも滞り、学校が休校になったせいで、息子のための安心できる学童施設もなかなか見つからない。 「これまでも常に苦労してきたが、ますます悪くなっていくように感じている」とワトソンさんは言う。かつては金銭的に援助してくれた母親も、昨年亡くなってしまった。「私のわずかな給料では何の足しにもならない」 Jonnelle Marte(翻訳:エァクレーレン)[ロイター]Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます 【関連記事】 ・日本の「生ぬるい」新型コロナ対応がうまくいっている不思議 ・東京都、新型コロナウイルス新規感染9人 54日ぶりにひと桁台に減少 ・ニューヨークと東京では「医療崩壊」の実態が全く違う ・緊急事態宣言、全国39県で解除 東京など8都道府県も可能なら21日に解除=安倍首相   ※画像をクリックするとアマゾンに飛びます2020年5月19日号(5月12日発売)は「リモートワークの理想と現実」特集。快適性・安全性・効率性を高める方法は? 新型コロナで実現した「理想の働き方」はこのまま一気に普及するのか? 在宅勤務「先進国」アメリカからの最新報告。