<新薬開発よりスピーディーな既存薬の転用。有望視される薬はどれか? レムデシビル、アビガン、ヒドロキシクロロキン、レロンリマブ、カレトラ、そして血漿......。本誌「コロナ特効薬を探せ」特集より> レムデシビル Remdesivir エボラ出血熱治療薬 ULRICH PERREY-POOL-REUTERS 米食品医薬品局(FDA)は5月初め、新型コロナウイルス感染症の治療薬としてレムデシビルの緊急使用を許可した。大規模臨床試験で効果が確認されたからだ。 米トランプ政権のコロナ対策チームを率いる国立アレルギー・感染症研究所のアンソニー・ファウチ所長によれば、臨床試験の結果はこの薬の効果を証明する上で重要な意味があったという。 米製薬会社ギリアド・サイエンシズの開発したレムデシビルは、これまでエボラウイルスやMERSウイルス、SARSウイルスなど複数の新興感染症病原体に対し、動物モデルを用いた試験などで抗ウイルス活性効果が認められてきた。静脈注射で投与する。 新型コロナウイルス感染者に対する臨床試験は1063人を対象に行われ、レムデシビルを与えた感染者は偽薬を投与した感染者より回復にかかる時間が平均31%(4日間)短かった。死亡率も偽薬の11.6%に比べて、8.0%と低かった。 ギリアド社はレムデシビルの備蓄を提供しつつ、医療機関に広く配布できるよう増産を進めるという。 一方でファウチは、レムデシビルについて「統計学的に明確な効果が認められる」としながらも、「より優れた治療法開発を見据えての第一歩にすぎない」とも発言している。 アビガン(一般名ファビピラビル) Avigan インフルエンザ治療薬 ISSEI KATO-REUTERS 日本の製薬会社、富士フイルム富山化学が開発したアビガンは、2014年に日本でインフルエンザ治療薬として承認された。 インフルエンザウイルスが転写・複製する際に必要とするRNAポリメラーゼ(RNAを合成する酵素)を選択的に阻害することで、ウイルスの増殖を防ぐ。 新型コロナウイルスはインフルエンザウイルスと同じく、RNAポリメラーゼに依存する1本鎖RNAウイルスであることから、アビガンのメカニズムが新型コロナウイルスへの抗ウイルス効果に役立つことが期待できるという。 日本や中国では既に新型コロナウイルス感染者への臨床試験が始まっていたが、アメリカでも4月上旬、マサチューセッツ州の3施設で臨床試験を開始することが発表された。 ただ、この薬は催奇形性(胎児に奇形を生じさせる性質)の副作用が確認されており、インフルエンザ治療薬として用いる場合でも妊婦への使用は禁じられている。日本では厚生労働省の裁量に従って製造、供給され、医療機関で広く使用されてはいなかった。 富士フイルムは臨床試験を行って、新型コロナウイルス感染症治療への「安全性と効果を評価する」としている。現在の備蓄量は70万人分だが、日本政府は200万人分まで拡大すると発表した。 ===== ヒドロキシクロロキン Hydroxychloroquine 抗マラリア薬 CHRISTOPHER OCCHICONE-BLOOMBERG/GETTY IMAGES 「消毒液を注射する」「体内に日光を照射する」など驚愕の治療法を提言して混乱を引き起こしたドナルド・トランプ米大統領が「画期的な薬だ」と繰り返し発言しているのがヒドロキシクロロキン。 抗炎症作用や免疫調整作用を持つため、関連薬のクロロキンと共にマラリアや全身性エリテマトーデス(SLE)などの治療に使用されてきた。 新型コロナウイルスに関しても、体内の免疫反応に効果を及ぼす可能性があるとしてアメリカの多くの医療機関で最前線の治療法として用いられてきた。FDAは3月末、全米の病院に数百万回分を配布することを承認した。 だが4月下旬、FDAはヒドロキシクロロキンをコロナ治療に用いると深刻な副作用をもたらす可能性があると警告。複数の先行研究を調査したマサチューセッツ総合病院ワクチン免疫治療センター長のマーク・ポズナンスキーも同月、効果を示す明確なデータはないと結論付けた。 さらにポズナンスキーは「有害となる可能性もある」と指摘し、抗生物質アジスロマイシンなど他の薬と併用した場合、治療1カ月以内に胸痛や心不全のリスクが15~20%上がり、心疾患で死亡するリスクも倍増するとしている。 レロンリマブ Leronlimab 乳癌治療薬 COURTESY OF CYTODYN 悪性度が高いとされるトリプルネガティブ乳癌の治療薬や、抗HIV薬としてFDAから迅速審査の対象に指定されているレロンリマブが、新型コロナウイルス感染症の治療に転用できるかもしれない。 この薬を開発したバイオテクノロジー企業サイトダインはFDAの認可を受けて4月、新型コロナウイルス感染者を対象とした臨床試験を開始した。 研究者らは、重度の新型コロナウイルス感染者に見られる、免疫システムが過剰反応を起こす危険な現象「サイトカインストーム」に対し、レロンリマブが効果を発揮する可能性があると考えている。 既にニューヨークで15人の重症患者に投与され、良好な結果が出ているとサイトダインは発表。「患者は1人1人異なる合併症を併発していたが、レロンリマブの投与では似たような臨床反応を示しており、これこそがこの薬の作用メカニズムだと考えている」という。 HIVやトリプルネガティブ乳癌に対して行われたこれまでの臨床試験では、レロンリマブが下痢や頭痛、リンパ節の腫れ、高血圧、注入部位への局所反応などの副作用を及ぼす可能性が指摘されている。 ===== カレトラ(一般名ロピナビル・リトナビル) Lopinavir/Ritonavir 抗HIV薬 SCIENCE PHOTO LIBRARY/AFLO カレトラは、ロピナビルとリトナビルという2種類の抗HIV薬の混合薬。日本でも新型コロナウイルス感染者に早期から使用されており、中国やインド、オーストラリアなどでも用いられている。 プロテアーゼ阻害剤(タンパク質分解酵素を妨げる物質)に分類され、ウイルスの転写・複製を可能にする酵素を阻害する働きを持つ。先行研究では、同じくコロナウイルスによって引き起こされるSARSについてもウイルス増幅抑制に効果が見られたと報告されている。 1月中旬から新型コロナウイルス感染者への臨床試験が行われた中国では、医療機関で抗HIV薬が使用されたという報道を受け、在庫を手に入れようと闇市場でのパニック買いが起きた。 オーストラリアのクイーンズランド大学臨床研究センター長のデービッド・パターソンは、「(オーストラリア国内での)中国人感染者の第一波の治療には、この薬が大変よく効いた」と話している。 一方で、3月に有力医学誌ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスンに発表された論文は、新型コロナウイルスの重症患者に対して、「ロピナビル・リトナビル投与に標準治療を上回る利益は認められなかった」と結論付けている。 回復者血漿 Convalescent plasma 感染症治療 LINDSEY WASSON-REUTERS 米ニューヨーク州で7500人を対象にして4月末に行われた新型コロナウイルスの抗体検査では、14 . 9%で抗体が確認された。ニューヨーク市内では24.7%と、想定を上回る4人に1人が既に新型コロナウイルスに感染していたことになる。 そこで研究者たちに有望視されているのが、回復者血漿(けっしょう)を用いた治療法だ。感染症から回復した人の血液の一部を、患者に投与する手法で、回復した人が獲得したウイルスに対する抗体を、患者の体内で作用させる仕組みだ。 この治療法はこれまで、おたふく風邪や麻疹(はしか)、インフルエンザを含むさまざまな感染症の流行の際に用いられてきたが、新型コロナウイルスでの効果はまだ証明されていない。 FDAは最新のガイドラインで、回復者血漿を臨床試験で限定的に用いることを認めているが、「重症、あるいはただちに生死に関わる状況の新型コロナウイルス感染者」のみが対象になるとしている。 ニューヨーク市などで既に臨床試験が行われ、回復者からの血液の提供も進んでいるが、抗体が十分に出来上がっているか、他の感染症に感染していないかなどを綿密に調査して使用する必要があり、手順は複雑だ。 <2020年5月26日号「コロナ特効薬を探せ」特集より> ※画像をクリックするとアマゾンに飛びます2020年5月26日号(5月19日発売)は「コロナ特効薬を探せ」特集。世界で30万人の命を奪った新型コロナウイルス。この闘いを制する治療薬とワクチン開発の最前線をルポ。 PLUS レムデジビル、アビガン、カレトラ......コロナに効く既存薬は?