<中国政府お墨付きのニュースキャスターが、流暢な英語を武器にWHO親善大使として中国の宣伝を堂々と発信中> オンライン上で開催されたWHO(世界保健機関)の年次総会は5月19日に閉幕したが、WHOのテドロス・アダノム事務局長は今こそ世界に説明しなければならない。WHOの活動や課題を人々に知らせる重要な役目を負い、スポーツや芸術分野の著名な人物が起用される「親善大使」の1人に、なぜ中国政府お墨付きのニュースキャスターがいるのか。この人物はWHO親善大使の肩書を利用して、中国の新型コロナウイルス対策を模範的な取り組みのように見せ掛けている。 問題の大使ジェームズ・チャウは生まれも育ちもイギリス。2004年から北京に拠点を移し、中国の国営テレビ局・中国中央電視台(CCTV)の英語放送チャンネルでキャスターを務めてきた。 親善大使に就任したのは2016年2月。中国籍で中国政府と密接なつながりを持つ陳馮富珍(マーガレット・チャン)前WHO事務局長の指名による。親善大使の任期は2年だから、その後テドロスが2回任期を延長したことになる。 ケンブリッジの卒業生である彼がなぜ、全体主義国家に身売りし、流暢な英語を強みに世界中の視聴者に中国の主張を吹聴しているのか。その疑問に彼は答えようとしない。分かっているのは、彼がやっているのは正真正銘のプロパガンダだということだ。 チャウは現在、中国に関する報道に影響を及ぼすことを目指す民間の米中交流団体「太平洋国際交流基金会」が主宰する、ニュース動画サイト「チャイナ・カレント」のホストを務めている。 外交専門誌フォーリン・ポリシーによると、チャウの後ろ盾に「資金を提供している中国政府の高官」がいて、この人物は統一戦線工作部と呼ばれる対外宣伝活動を担う中国共産党内の組織と密接な結び付きがある、という。世界屈指の抑圧国家の宣伝マンというだけでも、国連機関の代表となる資格はない。だが、チャウの罪はもっと重い。 巧妙に論点をずらす ニューヨーク・タイムズ紙の報道によれば、チャウは自身がキャスターを務める番組で、中国人の個人情報を不正入手し、売却したとして2013年に中国で逮捕されたイギリス人調査員ピーター・ハンフリーの「自白」を放映した。だが実際には、ハンフリーは薬を飲まされ、椅子に鎖でつながれた状態で、取調官が書いた自白文を読み上げるよう当局に強要されたのだ。 そんなチャウが、パンデミック(世界的大流行)が勃発するや、親善大使の肩書を利用して、ツイッターや微ウェイボー博、YouTubeなどで中国の対応を美化し、中国の現体制と指導層を正当化するメッセージを流し始めたのは驚くに当たらない。 ===== ジャーナリストを自称するチャウだが、中国の感染症対応をたたえるその投稿はきれい事だらけだ。当局がいかに市民の怒りの声を封殺し、報道を検閲したか、湖北省武漢でいち早く警告を発した医師がいかに当局の嫌がらせを受けたかには一切触れていない。 2月初めにインドの新聞に寄せた論説では、WHOが公衆衛生上の緊急事態を宣言したことに触れ、これは「感染拡大を制御する中国の能力に対する不信任投票ではない」と強調した。 YouTubeやポッドキャストの自身のチャンネルでも、テドロスが「中国に信頼を寄せ」「その指導層の能力を信じている」ことを盛んにアピール。中国がWHOに圧力をかけて緊急事態宣言の発出を延期させたという報道があると、国際社会の中国不信をさりげなくかわすため、中国の元高官へのインタビューで「世界全体としてどこでパンデミック対応を間違ったとお考えですか」と聞くなど、そのやり方はなかなか巧妙だ。 中国政府の誇大宣伝を世界に向けて発信するチャウ。WHOは彼を親善大使にしている限り、中国寄りと批判されても文句を言えない。 <本誌2020年6月2日号掲載> 【参考記事】WHO演説で習近平が誓ったコロナ後の「失地回復」 【参考記事】「世界は中国に感謝すべき!」中国が振りかざす謎の中国式論理 ※画像をクリックするとアマゾンに飛びます2020年6月2日号(5月25日発売)は「コロナ不況に勝つ 最新ミクロ経済学」特集。行動経済学、オークション、ゲーム理論、ダイナミック・プライシング......生活と資産を守る経済学。不況、品不足、雇用不安はこう乗り切れ。