<不安が募って心身に不調をきたしている人は多いが、つらい経験を思い出すことで乗り越えるといった従来の手法には効果がない、と臨床心理士のクラウス・ベルンハルト。注目を集める「ベルンハルト・メソッド」で行うのは、脳のプログラムの書き換えだ> 新型コロナウイルスの感染拡大によって、社会全体に混乱が生じている。外出自粛や在宅勤務などで生活にも変化を強いられるなか、「この状態がいつまで続くのか」「この先の生活や仕事は一体どうなるのか」といった不安を抱えている人は今も多いだろう。 特に、あらゆる活動が制限される状況にあっては、ストレス解消もままならず、最初は小さな心配事に過ぎなかったものが、気づいたときには大きく膨らんで、深刻な健康問題になってしまう可能性もある。 だが「脳の使い方」を身に付ければ、自らの手で、そうした不安を断ち切ることができるようになるという。それを教えてくれるのが、『敏感すぎるあなたへ――緊張、不安、パニックは自分で断ち切れる』(クラウス・ベルンハルト著、平野卿子・訳、CCCメディアハウス)だ。 この本で紹介されているのは、ドイツでは既にさまざまな実証がなされており、多くの人が重度の不安症から克服しているという革新的な方法だ。臨床心理士である著者の名から「ベルンハルト・メソッド」と呼ばれるが、本書では著者が実際に用いているテクニックを通して、読者自らが実践できるようになっている。 不安の正体は「心の声」、無視し続けると無意識が強硬手段に出る そもそも「不安」はどこからやってくるのだろうか? 著者によれば、それは私たちの「心の声」だ。 人間の脳の働きには、意識(顕在意識)と無意識(潜在意識)があるが、最新の知見によると、無意識は意識の1万倍も速く情報を処理しているという。つまり、意識よりも無意識のほうがずっと賢いということであり、脳の真の主は無意識ということになる。 その無意識が、私たちに話しかける際に用いるのが「心の声」だ。私たちは「心の声」を通してさまざまなメッセージを受け取っている。頭(意識)では結論が出ていないにもかかわらず、「何となくやめたほうがいい」「やっても大丈夫な気がする」といった場合がそれだ。 無意識からのそうしたメッセージを無視したせいで、大きな代償を支払うことになる人が大勢いる、と著者は言う。無意識は非常に有能なため、あらゆるデータを既に入手しており、それらと経験とを天秤にかけて、素早く(コンマ1秒以下のスピードで)答えを導き出すことができる。だから、無理に自分で考えようとせず、「心の声」に従うのが実は最も賢い方法だ。 【参考記事】欧米で注目を集める「歩くだけ」心理療法、ウォーキング・セラピーとは何か ===== にもかかわらず、その「心の声」に逆らっていると、やがて「心の叫び」となって強く訴えてくる。それでも無視し続けると、無意識はついに強硬手段に出る。神経伝達物質を使って、激しい身体反応を引き起こすのだ。 それは、無意識からの「警告」だ。自分が抱えている問題が、今や心身の不調となって姿を現した状態である。言い換えれば、それ以上悪い方向へ進まないように押し止め、その問題について一度立ち止まってよく考えろ、と無意識が仕向けてくれているわけだ。 たとえパニック発作を起こしても「あなたは病気ではない」 無意識からの警告のうち、精神的なもの(=心の不調)には、記憶力や集中力が突然落ちる、やる気がなくなる、無力感が生じる、わけもなく悲しくなる、といったものがある。これらを放置し続けて最終段階まで来ると、パニック発作という最も強い警告となって現れる。 あるいは、胃腸の不調や皮膚炎、無意識の筋肉の痙攣、また視力が突然落ちる、絶えず尿意を催すといった肉体的な警告(=体の不調)となって現れることもある。椎間板ヘルニアやヘルペスなども、精神的な原因から起きることが珍しくないという。 不安が募ったことで心身に不調をきたすと、そのことにさらに不安を覚えてしまうかもしれない。うつなどの「病気」なのではないかと心配になる人もいるだろうし、薬を飲んでも胃痛が治まらず、「ひょっとして......」と疑わずにはいられないかもしれない。 だが、「あなたは病気ではない」と著者は断言する。たとえパニック発作を起こしても、多くの場合、心身はいたって健康なのだ。パニック発作はむしろ、無意識からの「思いやり」と心得るべきだと著者は助言している。 そうは言っても、不安に端を発する心身の不調は好ましいものではないし、不安にならずに済めば、それに越したことはない。そのためには、不安を引き起こす外的要因を取り除くことも重要だが、同時に「ポジティブな脳の回路」を作ることを著者は説く。 「不安」が無意識からのメッセージということは、そこには脳が大きく関わっている。よく知られているように、脳の回路は、使えば使うほど活発になる。つまり、いつもネガティブなことばかり考えていると、脳内には、不安へとつながる「高速道路」が出来上がるのだ。 【参考記事】自分に自信がないのは克服できる、自分ひとりで(認知行動療法の手引き) ===== 脳のプログラムを書き換える「テンセンテンス法」 だが反対に、いつも良い気分でいられることを考えていれば、ポジティブな回路が太くなる。意識的にポジティブな思考回路を作り、それを強化することで、ポジティブな思考を手に入れられるということだ。 著者のカウンセリングが高い効果を出しているのも、ここに秘密がある。つらい経験を思い出すことでそれを乗り越える暴露療法など従来の手法では、むしろ新たな不安の回路を作り出すだけで逆効果であり、やればやるほど不安が強化されてしまうという。 「本当に効果のあるセラピーとは、ポジティブな感情を保存するシナプス(ニューロン同士の接合部)をできるだけ早くできるだけ多く作るものでなければなりません」と著者は言う。 ポジティブな脳の回路を作る具体的な方法として本書に紹介されているのが、「テンセンテンス法」だ。「あなたにとって本当に素晴らしい人生とはどういうものですか?」という問いに対して10の文章で回答をすることで、脳のプログラムを新たに書き換える。 その際、「否定を含まない」「すべてをポジティブに」「現在形で」「具体的に」「自力で到達できることを」という5つのルールがある。例えば、「新しい仕事が気に入っていて仲間といるのが楽しい」「カッコいい車を運転しているので、毎日気分がいい」など。 このような10の文章を書き出したら、より早く脳に新たな回路を作るために、ひとつひとつの文章を、五感を使って感じる。つまり、「見る」「聞く」「感じる」「匂いを嗅ぐ」「味わう」に意識を集中させるのだ。これによって、さらに効果的に脳をプログラムできるという。 昔ながらのセラピストが驚く、6~12週間で不安を乗り越える方法 現に大きな不安を抱えている場合には、すぐにポジティブな回答を思いつかないかもしれない。だが、「およそ20分、毎日レッスンすれば、3週間後には今よりもはるかに気分が良く」なると著者は述べている。 そのほか、本書では即効性のあるテクニックも数多く紹介されており、なかにはミッキーマウスなどのキャラクターを用いるユニークなものもある。取り組みやすいものから試すだけでも、数日もすれば明らかに不安が小さくなり、心身に良い影響を及ぼしていることに気づくだろう。 実際のところ、ほとんどの不安は長くても6週間から12週間のうちに完全に乗り越えることができると著者は説明する。それは「昔ながらの療法を用いているセラピストにとっては、今日なお不可能に思えるほどの速さ」だという。 あなたは憧れの人生を生きるために健康になるのではありません。憧れの人生に向かって一歩を踏み出せば、健康になれるのです!(202ページ) 不安に別れを告げる日。それは、自分自身で招くことができる。先行きの見えない今だからこそ、不安を克服する術を知っておくことは、大いに助けになるに違いない。 『敏感すぎるあなたへ―― 緊張、不安、パニックは自分で断ち切れる』 クラウス・ベルンハルト 著 平野卿子 訳 CCCメディアハウス (※画像をクリックするとアマゾンに飛びます) ※画像をクリックするとアマゾンに飛びますSPECIAL EDITION「世界の最新医療2020」が好評発売中。がんから新型肺炎まで、医療の現場はここまで進化した――。免疫、放射線療法、不妊治療、ロボット医療、糖尿病、うつ、認知症、言語障害、薬、緩和ケア......医療の最前線をレポート。