<国民への給付・補償はどのタイミングでやるのがいいか。社会的距離(ソーシャル・ディスタンシング)が「お買い得」と言えるのはなぜか。「コロナ不況に勝つ 最新ミクロ経済学」特集の記事「ポストコロナを行動経済学で生き抜こう」から一部を抜粋> ※この記事は「コロナ禍での『資産運用』に役立つ行動経済学(3つのアドバイス)」、「消費者が思うより物価は高い(コロナ不況から家計を守る経済学)」の続きです。 消費マインドを上げるには繰り返しの給付が効果的 コロナ禍を受けて世界各国の政府はさまざまな景気浮揚策を検討してきた。イギリスをはじめとする欧州諸国やカナダなど多くの国では、企業が従業員に支払う給与の一定割合を政府が補助する制度が採用されている。アメリカでは、最大で給与の50%に相当する額を政府が肩代わりすることが決まった。 景気浮揚策としてのカネの配り方が消費支出に最終的にどれくらいの影響を与えるかについても、行動経済学の知見から考えることができる。例えば2週間ごとに給与補塡を行うほうが、所得税の控除を1回やるよりも消費の押し上げには大きな効果がある。理由はノーベル経済学賞を受賞したセイラーらの言う「心の会計」だ。 つまり人は、繰り返し入ってくる収入を念頭に金の使い方を考える。だから一度きりの棚ぼた的収入よりも、これからも得られる収入(として考えられる金)のほうが、財布のひもは緩む傾向があるのだ。 コロナへの民間の対応を妨げる規制を洗い出せ 新型コロナウイルスの問題には政府だけでなく民間も時間を置かず効果的に対応しようとしているが、その邪魔になっている規制や制度がたくさんある。例えばアメリカでは、州ごとに定められた免許制度のせいで医師や看護師が州境を超えて働くことができない。一部ではそうした規制の緩和に向けた動きも出ているが、まだまだ十分とは言えない。 前述のセイラーやムライナタンといったシカゴ大学の研究者を含む行動経済学者たちは「ポーズレギュレーションズ・ドットコム」というウェブサイトを立ち上げた。これはコロナ対策のためにどんな規制を緩和すべきかの提案を、政策関係者や医療従事者に限らず幅広く受け付けるためのサイトだ。 例えば医療関係者からは、重要な医療機器について、特許を持つ会社が需要に応えられない場合には特許を一時的に停止すべきだとする意見が寄せられた。他の国々でも、同じような意見集約の場を設けるべきだろう。 ===== 社会的距離は効果が高く「お買い得」な戦略だ 政府は国民の生死を左右する決断を常に迫られているが、アメリカでは以前から、統計的生命価値(VSL)、つまり死亡確率を減らすために認められるコストを1人当たり約1000万ドルと考えて生命や健康の安全を守る政策の柱としてきた。 シカゴ大学のマイケル・グリーンストーンらは最近の論文で、社会的距離戦略によりアメリカでは170万人の命が救われるだろうと述べている。社会や経済に強いる負担が大きいだけに、社会的距離戦略のVSLがどうなるか、分析してみるのも意味のないことではないだろう。 私の計算では、2カ月間の都市封鎖によってアメリカのGDPは10%、約2兆ドル失われる。それと引き換えに、グリーンストーンらの言うように170万人の命が救われるとすれば、1人の命を救うのに必要な費用は約120万ドルとなる。つまり、1人の命を救うのに1000万ドルのコストを許容してきたアメリカにおける過去の政策と比べても、社会的距離戦略のコストは安いということになるのだ。 ◇ ◇ ◇ ここまで、コロナ禍で失われた価値を取り戻し、さらなる価値を手にするために、行動経済学の経験主義的な研究が消費者や投資家、政策立案に携わる人々の行動のヒントとなり得る例を(ほんの一部だが)挙げてきた。これが読者の皆さんの役に立つことを心から祈っている。 <2020年6月2日号「コロナ不況に勝つ 最新ミクロ経済学」特集より> 【参考記事】コロナ禍での『資産運用』に役立つ行動経済学(3つのアドバイス) 【参考記事】消費者が思うより物価は高い(コロナ不況から家計を守る経済学) ※画像をクリックするとアマゾンに飛びます2020年6月2日号(5月25日発売)は「コロナ不況に勝つ 最新ミクロ経済学」特集。行動経済学、オークション、ゲーム理論、ダイナミック・プライシング......生活と資産を守る経済学。不況、品不足、雇用不安はこう乗り切れ。