<NZ、ドイツ、台湾......女性が指揮する民主主義国の感染抑制策が評価されているのは、政治が成熟しているから> 新型コロナウイルス危機は、いま地政学の面で強まっているイデオロギーの衝突を示す最前線だ。「権威主義圏」を代表する中国は、封鎖措置で感染の抑制に成功したと主張している。「民主主義圏」を代表する国は幅広いが、一部には対応のまずさも目立った。では危機管理には、どちらの政治体制が適しているのだろうか。 この問いに対しては、つい権威主義体制のほうが向いているのではと答えたくなるかもしれない。アメリカなどの民主主義国では、マスク着用のような予防措置でさえ国民の反発を招きかねないが、権威主義体制なら容易に導入できる。さらに中国の新型コロナウイルス対策では、調和と権力への服従を重んじる儒教の伝統がプラスに働いたという指摘もある。 だが危機管理能力を比較する上では、この対比自体が的外れだ。中国と同じく儒教の伝統を持つ民主主義国(日本や韓国、シンガポールなど)で危機対応が功を奏しているのは確かだが、その伝統がないオーストラリアやニュージーランドも成果を上げている。感染抑制策が高く評価されている国々の共通点は、指導者が危機の深刻さを把握し、それを誠実に国民に伝え、適切なタイミングで行動を起こしたことだ。 歴史的に見て民主主義国は、政府の行動力と国民の厚い信頼を武器にして、危機に打ち勝ってきた。だがコロナ危機については、必ずしもそうではない政府首脳もいる。トランプ米大統領やブラジルのボルソナロ大統領は危機の深刻さを否定し、専門家の助言を無視し、もっぱら強い自分をアピールすることに懸命だ。 女性指導者の存在感が際立つ訳 それでも多くの民主主義国の指導者は、見識ある指導力の模範を示した。 ニュージーランドでは39歳のアーダーン首相がウイルスの脅威を率直に説明して国民に協力を求め、科学に基づく措置を導入した。新規感染者は、このところ限りなくゼロに近い。ドイツではメルケル首相の透明性の高い対応が好影響をもたらし、死亡率を抑えている。デンマークのフレデリクセン首相や台湾の蔡英文(ツァイ・インウェン)総統、フィンランドのマリン首相なども素晴らしい成果を上げている。 これらは全て女性指導者だ。指導者に女性を、それも若い女性を選ぶことは、国の政治的な成熟度を反映しているとも言える。 ===== 権威主義体制の国は、自らの正当性を維持するためにプロパガンダや検閲に頼り、政府への信頼低下を招いている。中国が新型コロナウイルスについて発表する数字が信用できない理由も、イランやロシアの感染状況が報道されているよりはるかに深刻とみられている理由も、その点にある。 今回の危機への対応を評価する上では、政治体制とは関係のない経験値も考慮する必要があるだろう。ここでも民主主義国のほうが教訓を学んできたように思える。韓国は2015年のMERS(中東呼吸器症候群)流行の経験を生かし、今回は大規模な検査の実施に重点を置いた。だが中国はSARS(重症急性呼吸器症候群)のときの失敗を繰り返し、再び情報隠蔽を図った。 重要なのは、中国が教訓を学ばなかったのではなく学べなかったことだ。民主主義国では、危機は政治的テストである。対応に失敗すれば指導者が国民の信頼を得られず、次の選挙で落選するリスクがある。だが権威主義体制では、危機は体制の正当性を脅かす。つまり、その存続が危うくなる。 だから、情報隠蔽が最も安全な策に思えてしまう。そういう政府に対応を変えるよう期待することは、体制転換を求めるに等しい無理な話だろう。 ©Project Syndicate <本誌2020年6月2日号掲載> 【参考記事】英米メディアが絶賛、ニュージーランドが新型コロナウイルスを抑え込んでいる理由とは 【参考記事】台湾と中国、コロナが浮き彫りにした2つの「中国語政権」の実像 ※画像をクリックするとアマゾンに飛びます2020年6月2日号(5月25日発売)は「コロナ不況に勝つ 最新ミクロ経済学」特集。行動経済学、オークション、ゲーム理論、ダイナミック・プライシング......生活と資産を守る経済学。不況、品不足、雇用不安はこう乗り切れ。