<独自調査をもとに10年後の消費行動を予測する。SNS志向がますます強まる一方、マスメディア情報も引き続き重視するなど、今と変わらないこともある> *この記事は、ニッセイ基礎研究所レポート(2020年4月15日付)からの転載です。 前編はこちら 10年後の消費行動──「所有より利用」「貯蓄」「環境配慮」「SNS」志向が全体で高まる一方、「マスメディア」志向も現在と同様に高い 現在、消費のデジタル化が進んでいる。スマホの普及によって、シェアリングエコノミーなどの個人と個人が容易につながることのできるプラットフォームが構築され、情報の流れにおいても個人の発信するSNSが浸透しつつある。一方で、総務省「平成30年通信利用動向調査」によると、20~30歳代のスマホ保有率は9割を超える一方、60歳代では56.2%に過ぎず、現在は、スマホを軸とする消費行動へ移行する過渡期とも言える。 そこで、調査では、10年後、2030年の未来の消費行動はどうなっていると思うかをたずねている。未来に予想される11項目の消費行動をあげ、「あてはまる割合」を見ると、全体では最も高いのは「店舗での支払いで現金は使われなくなり、キャッシュレス決済が浸透する」(57.6%)であり、次いで「SNSを使う人はさらに増えているが、結局、テレビや新聞などのマスメディアの影響が相変わらず大きい」(48.2%)、「ドローンを使った宅配サービスが、めずらしいものではなくなる」(47.5%)、「若い頃から、老後に向けて貯蓄や投資をすることが一般的になる」(45.9%)、「ネットやスマホを通じて個人間でモノやスキルなどをやりとりをするシェアリングサービスが浸透する」(44.1%)と続く(図表5)。 若者でも全体と同様の順位だが、全体と比べて、「テレビや新聞などのマスメディアの情報よりも、個人が発信するSNSやブログなどの情報が主流となる」(+7.2%pt)で全体を5%pt以上上回る。 このほか、若者のうち女性では、「若い頃から、老後に向けて貯蓄や投資をすることが一般的になる」(+6.2%pt)や「友人や知人とは、実際に会うよりも、ネットやスマホを通じた交流が主流となる」(+5.6%pt)、「ものを買って所有するよりも、サブスクリプションサービスなどによって、ものを利用することが主流となる」(+5.3%pt)で全体を5%pt以上上回る。このうち若い女性特有の傾向は、「友人や知人とは(中略)ネットやスマホを通じた交流が主流となる」と「ものを買って所有するよりも(中略)ものを利用することが主流となる」である。 若者の『SNS』志向はさらに強まりそうだが、10年後も依然としてマスメディアの影響は大きいようだ。「SNSを使う人はさらに増えているが、結局、テレビや新聞などのマスメディアの影響が相変わらず大きい」(44.7%)の選択割合は、「テレビや新聞などのマスメディアの情報よりも、個人が発信するSNSやブログなどの情報が主流となる」(36.5%)を8.2%pt上回っている。 ===== なお、消費行動や情報収集行動については、現在と10年後の未来で同様の項目をたずねているものがある。これらにについて「あてはまる割合」を比較すると、全体では、消費行動については『所有より利用』志向(現在より+24.5%pt)、『環境配慮』志向(+18.5%pt)、『(老後のための)貯蓄』志向(+11.9%pt)で未来の選択割合が現在を10%pt以上上回る(図表6)。 未来では著しく伸びている『所有より利用』志向は、現在のところ、主に若者で強く見られる傾向だが、今後は年齢を問わず幅広い消費者層に広がりそうだ。また、『環境配慮』志向の伸びについては、日常生活において環境問題を肌で感じる機会が増えていることがあげられる。近年、地球温暖化の影響等により、日本では猛暑や台風などの異常気象が増えている。また、今年7月からは脱プラスチックに向けてレジ袋が有料化される。そして、『貯蓄』志向については、昨年6月に公表された金融庁の報告書をきっかけに「老後資金2千万円不足問題」が大きな話題となったように、現役世代では少子高齢化による将来の社会保障不安が大きいことが背景にあるのだろう。さらに、現在、新型コロナによっては、将来どころか、目の前の雇用の先行き不透明感が増している。 一方で、もともと現在でも利用意向が過半数を占めて高い『キャッシュレス決済』志向は、未来も現在と大きな違いはない。また、『ネット通販』志向も+3.5%ptの伸びにとどまっている。ネット通販環境がさらに整備されても、何でもネット通販を利用するようになるのではなく、ネット通販に向いているモノと店舗で買うことが向いているモノがあるということだろう。 また、情報収集行動については『SNS』志向(+8.3%pt)や『ネット交流』志向(+5.3%pt)で未来が現在を+5%pt以上上回る。これらは、現在のところ、若者で強く見られる傾向だが、今後は幅広い消費者層へじわりと広がるのだろう。一方で、『マスメディア』志向は低下するわけではなく、現在と同程度を維持しており(たずね方の違いもあるために同程度という評価が妥当だろう)、現在と同様に10年後の影響も大きいようだ。 若者についても同様に、『所有より利用』志向(+23.2%pt)や『貯蓄』志向(+15.0%pt)、『環境配慮』志向(+14.7%pt)で未来が現在を10%pt以上上回る。また、情報収集行動については『SNS』志向(+6.5%pt)で未来が現在を+5%pt以上上回るが、『ネット交流』志向はもともと比較的高いためか、未来も現在と同程度である。そして、『マスメディア』志向も現在と同程度であり、今後ともSNSとマスメディアの共存は続きそうだ。この背景には、前述の通り、両者にはメディアとしての性質の違いがあり、若者はそれぞれに価値を感じていることがあるのだろう。 ===== なお、全体と若者について、現在と未来のあてはまる割合の差を比較したところ、いずれも大きな違いはないが、『貯蓄』志向で若者が全体をやや上回っている(+3.2%pt)。これは、繰り返し述べてきた通り3、若い世代ほど厳しい経済環境にあるために、将来の経済不安が強いことがあるのだろう。 おわりに──アフターコロナは消費行動の変化が一気に加速したところで始まる 新型コロナウィルスの感染拡大の終息が見えない中で、日本経済が受けるダメージの深さも長さも読めない状況だ。また、消費マインドは、そもそも昨年秋の消費増税の影響で、低水準にあったところに、追い打ちがかけられてしまった。 内閣府「消費動向調査」によると、2020年3月の消費者態度指数は30.9(前月▲7.4%pt)であり、東日本大震災直後の水準を下回った(図表7)。リーマンショック後の底(27.5)と比べれば、まだ高いようだが、この調査は毎月15日に実施されている。よって、3月の値は中旬のものだ。周知の通り、3月下旬から現在にかけて、日本の状況は急速に悪化している。事態の終息まではいかずとも、少なくとも収束が見えなければ、今後も悪化し続ける可能性が高いだろう。 今回の打撃によって、予期せずして、近年、消費者で生じていた消費のデジタル化をはじめとした変化が加速するとともに、消費者が根強く持つ価値観も明確になった印象を受けている。 本稿で見た、『所有より利用』『ネット交流』『貯蓄』『環境配慮』といった志向は、何事もなくとも若者をはじめ幅広い消費者層に広がっていったものだろう。しかし、新型コロナによって、この流れが加速していると見ている。 外出が制限されることで、イエナカ消費やコミュニケーションのデジタル化が進み、今、動画配信やオンライン教室等のサブスク加入が増えていると聞く。デジタルサービスの利用にお金を費やすという面での『所有より利用4』志向や『ネット交流』志向は消費者の希望如何によらず一気に高まっているだろう。さらに、経済不安から『貯蓄』志向も高まっているであろうし、これまでも深刻な災害等が生じた後は、社会貢献意識が高まる傾向があり、これは『環境配慮』志向の高まりにもつながる。 ―――――――――― 3 久我尚子「求められる20~40歳代の経済基盤の安定化」ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート(2017/5/17)等 4 なお、『所有より利用』志向で今回の事態で加速しているのは、消費のデジタル化で、モノを買うよりもデジタルサービスの利用にお金を費やすという『モノよりサービス(コト)』とも重なる部分についてであり、モノを買うのではなくサブスクリプションサービスで借りるという面はリスク回避意識から、逆に見直しが図られている可能性がある。 ===== 新型コロナの終息後、アフターコロナの消費行動は、ビフォーコロナに戻るのではなく、これまで消費者で生じていた変化の流れが一気に進んだところで始まるのだろう。消費のデジタル化が加速した状況で、消費者はさらに何に価値を感じるのか、逆に、何に不便を感じているのか、企業活動は困難な状況だが、これらの状況を読み解くことで商機が見えそうだ。 本稿で興味深かったのは『SNS』志向が高まる一方で、『マスメディア』志向も引き続き高水準を維持する傾向が見えたことだ。現在、未知の敵との戦いで不確かな情報も多い中で、それぞれのメディアの価値を認識しながら、若い世代ほど上手く情報源を使い分けているのかもしれない。 本稿では、ニッセイ基礎研究所の「暮らしに関する調査」のデータを用いて、「若者の現在と10年後の未来」として消費行動について見てきたが、今後、働き方や家族形成の状況も分析する予定だ。 [執筆者] 久我 尚子 ニッセイ基礎研究所 生活研究部 主任研究員