<デモというと政治の世界の話と考えがちだが、K-POPファンの世界でもデモはたびたび行われている> 韓国は政治などからも見てわかるように、世論が強いイメージがあるが、その風潮は韓国アイドルファンたちの間でも見られる。事務所やレコード会社に意見をぶつけるファンたちを見ていると、日本と韓国ではアイドルとファンとの距離に違いがあるように感じられる。 例えば、ソウルの地下鉄を歩いていると、アイドルの写真と「誕生日おめでとう」のメッセージが書かれた看板を目にすることがある。これはファンたちがお金を出し合って、駅に広告を出しているのだ。また、以前筆者の友達は、お目当てのまだ無名新人アイドルのマネージャーと仲良くなり、プレゼントをマネージャーに直接手渡しして、スケジュールを聞いたりしていた。 かつて筆者が映画撮影現場で働いていた頃、出演俳優の差し入れなどもよくあった。ファンからの差し入れも多く、ランチや夜食のケータリングサービスもファンたちがお金を出し合って手配してくれるのだ。他にも、ファンクラブ一同でボランティアに参加したり、スターの名前の付けた植樹をする例もよく芸能ニュースで報道されている。 このように、日本とは微妙に熱烈な応援をする韓国ファンたちだが、それだけ熱い思いを抱いている分、事務所が応援するアイドルたちのことをないがしろにしたり、アイドル本人がファンを蔑んだりすると、許せないと反発を覚えるようだ。 レディーガガとのコラボで今話題のBLACKPINKも 今月14日、K-POP女性アイドルグループ「BLACKPINK」のファンたちが、彼女たちの所属事務所であるYGエンターテイメントを相手にデモを行い注目された。デモ会場には車の側面に垂れ幕が貼られたトラックも登場し話題となった。 ファンたちの主な要求とは、YG所属の他のアイドルグループに比べ、BLACKPINKの活動が少ないことへの不満である。ファンたちは、「1年に2回のカムバック」「最低6曲以上の新曲が収録されたアルバムの発売」「YouTubeチャンネルの活用」「様ざまなテレビ番組やイベントなどへの出演」「悪質なネット書き込みへの積極的な対応」などを求めている。ちなみに、ここでの「カムバック」とは、韓国音楽行か特有の表現で新曲の発表のことであり、日本語でイメージする「一度引退して芸能界に戻ってくる」というわけではない。 6曲以上収録のアルバムなど、あまりにも具体的な内容の要求に驚かされるが、実は今回のデモは2度目のことであり、昨年12月にもBLACKPINKのファンは同様の内容でデモを行っていた。今回はその後全く改善していないことへの抗議の意味も含まれている。 1度デモを行っただけで満足するのではなく、その後の経過を見届け、要求が通ってないとなるとさらにデモを再度敢行する姿勢や、相手に具体的な提案をする点、トラックなど大型の車両を利用し、パフォーマンス的要素をマスコミにアピールしてニュースに取り上げてもらうやり方などは、抗議デモとして見事な方法だと言える。 ===== 事務所に乗り込み、メンバーが釈明 アイドルファンたちの抗議行動と言えば、頭に思い浮かぶのは、2009年9月13日に行われたK-popアイドル「2PM」のメンバー・ジェボムの脱退に反対するデモだ。2PMのファンたちによる100以上ものファンサイトの有志が集まり結成された「2PMファン連合」を中心に、約2000人のファンたちが集まった。 事の発端は、アメリカ国籍であるジェボムが、4年前アメリカのSNSに「韓国が嫌いだ」という内容を投稿して韓国民から非難が集中したことに始まる。その後、ジェボムはアメリカに帰国した。この一連の騒動に対し、ファンたちは「JYPエンターテインメントは、管理責任の甘さを棚に上げ、全てをジェボム本人の責任にして脱退に追い込んだ」と抗議したのだ。 翌2010年2月、公式にジェボムへ解雇が言い渡されると、ファンたちはさらに激怒し、なんとファン代表87名と2PMのメンバー、そして事務所社長が4時間にも及ぶ懇談会を開いた。ファンたちがアイドルのメンバーを含め、事務所社長に会いに行くなど日本では考えられない行為である。 日本版も出来たファン投票オーディション番組でも 昨年、韓国芸能界を揺るがした人気オーディション番組「PRODUCE 101」シリーズの視聴者投票順位の操作問題。5月29日、ソウル中央地裁では、不正を行った番組プロデューサー2人に実刑判決が下された。この事件でも、もちろんファンたちはデモを行っている。2020年1月22日、シーズン4によってデビューしたアイドル「X1」のファン約1000人が、この番組が放送された放送局MnetがあるCJ E&M本社前で抗議の座り込みデモを行ったのだ。 視聴者投票による順位でデビューメンバーが決まるはずだったこのオーディション番組では、制作陣が裏で順位を入れ替えるという不正行為が発覚。X1は、その騒動に巻き込まれる形で、せっかくデビューしたのにもかかわらず、たった5カ月間で解散することが発表された。これに納得がいかないファンたちが集まって、番組側に抗議したのだ。 また、このシリーズのシーズン2から生まれたK-POP男性アイドル6人組「JBJ」でも抗議デモが行われている。番組終了後、人気が高かったが落選してしまったメンバーが集まって誕生したグループだったが、期間限定という制約付きだったため、解散の期限が近づくにつれてファンたちの間で延長を求める声が高まり、座り込みデモを敢行するまでとなった。 ===== 地面にうち捨てられたEXOチェンのグッズ 채널A 뉴스 / YouTube 世界的人気アイドルEXOではファン同士の対立も 最近ニュースでも報道され、大きな話題となったアイドルデモと言えば、K-POPアイドル「EXO」のメンバー・チェンの電撃授かり婚に対してグループ脱退を求める座り込みデモだ。 今年1月13日一般女性との結婚を報告したチェンだったが、これに激怒したファンたちが、所属事務所であるSMエンターテインメント本社の前で5時間にも及ぶ座り込みを行った。また、デモに参加できない地方在住者などは、SNSにてグッズの破壊や、チェンの写真を踏みつけるなどのパフォーマンスを載せて抗議した。 さらにその後、ネット上では、脱退要請のデモ参加者ファンたちと、チェンの幸せを願うメンバー残留希望ファンたちとの間で衝突が起こり、「ネットブリング」と呼ばれるオンライン上でのいじめにまで発展し問題視されている。 ファンのコミュニティの成立が日本と異なる 韓国では、スターやアイドルは憧れの対象でありながら、日本のように雲の上の存在と言うよりは、意見すれば届く距離にあるようだ。このような違いの大きな要因の一つは、韓国ではファンのコミュニティが自主的に発足されている点だと言えるだろう。 日本でファンのコミュニティといえば、所属事務所が作るファンクラブであり、会員は年会費などを払って会報やコンサートチケットの先行購入権などが与えられている。一方、韓国ではファンサイトなどの多くコミュニティは、ファンたちが自発的に作り運営している。そのため無料であることが多く、その分、冒頭で紹介したようにアイドルの誕生日祝い広告やスタッフへのケータリングを手配するなど、自主的にアイドルを応援し還元している。 それだけに、事務所が応援するアイドルたちのことをないがしろにしたり、アイドル本人がファンを蔑んだりすることに対して、許せない気持ちが強まるのだろう。 間違った運営方法や反感を買う行動があったとしても、日本ならただファンを辞めるか、新曲の不買、せいぜいネットで不満をぶちまける程度だ。しかし、韓国では団結して抗議することによって、ファンの力で変えていく。その姿は、政府や国に対しデモ運動を起こして自由を勝ち取ってきた韓国特有の現象なのかもしれない。 ===== 投票操作が行われたPRODUCEシリーズから生まれたX1のファン1000人が抗議デモ グループ結成5カ月で活動終了したX1ファンが、番組制作の親会社CJ E&M本社前で座り込みデモを行った。 더스타 / The STAR / YouTube EXOメンバー、チェンのファンが抗議デモ EXOメンバー、チェンが電撃授かり婚を発表、一部ファンはグループ脱退を求める座り込みデモを行った。 채널A 뉴스 / YouTube