<コロナ不況時の資産売却で損しないためには、オークションや料金設定に応用されている「メカニズムデザイン」を生かす手もある。本誌「コロナ不況に勝つ 最新ミクロ経済学」特集より> いかにしてコロナ騒動を生き抜くか。楽しい問いではない。何かを得るというよりは、いかに損失を減らすかという問いだからだ。失業や倒産のニュースは連日相次いでいる。疫病にはかからずとも経済的には死に得るというのが、新型コロナウイルスの恐ろしいところである。 お金に困窮することの弊害は2つある。1つ目は単純に、お金がないとモノやサービスが買えないこと。2つ目は思考に余裕がなくなり、冷静な意思決定がしにくくなること。この2つ目は、行動経済学では広く知られる事実である。お金の困窮による心の煩いは、脳のキャパシティーを大きく奪い、判断力を下げてしまうのだ。 まずはこの事実を知っておくことが重要である。お金に困窮しているときの、自分の判断力を信じるべきではないのだ。「今の自分は冷静ではないかもしれない」という前提のもとに、他者に相談するのが賢明である。自分に相談が必要かと、いちいち考えるべきではない。 事業や投資で大きな損失を出してしまったらどうするか。やめるというのも1つの判断だ。これまで投じた資金がもったいないという気持ちを、引きずってはならない。そのお金自体は、ここでさらに賭け金を増やそうと、賭けをやめてしまおうと、いずれにせよ戻ってこない埋没費用(サンクコスト)だ。変えられない過去に拘泥して、未来への判断を誤ってはならない。 そもそも人間には、利益を好むよりも、損失を嫌うという心の傾向がある。だから投資だと、損失の確定を嫌って株を持ち続けて、その間に株価はいっそう下落することが往々にして起こる。一定割合で負けると自動的に売る「損切り」が大事なゆえんである。 損切りの発想は、投資だけでなく、事業や生活においても大切だ。まだ事業が継続できそうでも、これ以上の損失は許容できないと判断するなら、手仕舞いするのだ。生活でいうと、住宅ローンの支払いが無理だと気付いたなら、早々に住宅を売って暮らしを再設計したほうがいい。 もちろんそのような意思決定は容易ではない。事業を畳んだり、住宅を売却したりする痛みは、現在の自分が引き受けるものだからだ。一方、それによる利益は、将来の自分が得るものである。そして将来の自分とは、得てして不確かな存在だから、尊重しにくいのである。 競り上げで価値を可視化 損切りにおいては、できるだけ損失を少なくすることが大切だ。例えば住宅であれば、少しでも高く売れるよう冷静に検討する。よくある失敗は、複数の仲介事業者に売値を付けてもらって、その中で一番高い金額の仲介事業者に売却を依頼することだ。このときの売値には、あくまで「この金額の値札を付けましょう」という意味しかない。その金額が安過ぎたら損だし、高過ぎたら売れない。 ===== もともと不動産は、値付けが難しい商品だ。高価な上、土地はどれも世界に1つしかないから、いわゆる相場の価格はあるようでない。相場の価格が確固としてあるのは、豊洲のタワーマンションのように、似た部屋が多くあり、しかも需要が高いものくらいだ。市況が不透明な昨今、不動産の値付けはいっそう困難な作業になっている。 こういうときはオークションでの売却を選択肢として考えたい。仮に仲介事業者が5000万円なら売れると見込むなら、そこをスタート価格にして競り上げ式でオークションをすれば、5000万円以上にはなるはずだ。もし6000万円になったら、その上げ幅の1000万円は、オークションという市場が見つけた価値だ。かつて経済学者のフリードリヒ・ハイエクは、市場を「価値発見の装置」と論じたが、その機能を享受するわけである。 ただしオークションの実施には注意が必要だ。開催にはノウハウが要るし、オークション方式は細部の設計が極めて重要だからだ。例えば競り上げの締め切り間際に入札が殺到する現象に、どう対応するか。また競り上げには、インターネット上で誰でも参加できるようにするのか、あるいは事前に参加者を集め確定しておくのか。これらもろもろの調整で、結果は大きく変わる。ありていに言うと、価格が変わってくる。 損失回避を「デザイン」 経済学にはメカニズムデザインという、仕組みを設計する分野がある。オークションや料金設定、マッチングの仕組みを作るのは、この分野が特に得意とするところだ。アメリカではこうした学知の活用が盛んになっており、グーグルの広告枠オークション、ウーバー・テクノロジーズのタクシー料金設定、公立学校への進学マッチングなどは、目覚ましい成果を上げた例だ。学問は、勘や思い込みと違って再現性があるので、成功は再現させられるし、失敗は繰り返さぬよう修正できる。 日本での活用例には、筆者が仕組みの設計に携わるデューデリ&ディールという会社での不動産オークションがある。そこではメカニズムデザインの学知に基づく、良いオークション方式を活用している。ここでいう「良い」とは、買主が納得できる範囲で高い価格になり、売主もまた納得できることだ。オークションは魔法の杖ではないから、バブル期のような高値になるわけではない。だが今の時期にしては「良い」価格に達しやすい。 「ピンチはチャンス」なのだという。だがピンチはチャンスである以前に、ピンチそのものだ。行動経済学は自分を見失わないために、メカニズムデザインは損失を減らすことに役立ってくれる。 ピンチにおいてこそ知は力であり、その活用の仕方は、各人の「アフターコロナ」の迎え方を変えてゆくだろう。 <2020年6月2日号「コロナ不況に勝つ 最新ミクロ経済学」特集より> 【関連記事】アベノマスクと2008年金融危機、ゲーム理論で比べて見えたもの 【関連記事】コロナ禍での「資産運用」に役立つ行動経済学(3つのアドバイス) ※画像をクリックするとアマゾンに飛びます2020年6月2日号(5月25日発売)は「コロナ不況に勝つ 最新ミクロ経済学」特集。行動経済学、オークション、ゲーム理論、ダイナミック・プライシング......生活と資産を守る経済学。不況、品不足、雇用不安はこう乗り切れ。 ※画像をクリックするとアマゾンに飛びます2020年6月9日号(6月2日発売)は「検証:日本モデル」特集。新型コロナで日本のやり方は正しかったのか? 感染症の専門家と考えるパンデミック対策。特別寄稿 西浦博・北大教授:「8割おじさん」の数理モデル