<全米に広がる暴動を制圧するためなら軍の派遣も辞さない、と宣言したトランプは、すでにホワイトハウスがあるワシントン一帯に近隣の州兵部隊を集め、連邦政府の指揮下に入れている> 米国防総省はワシントン一帯の米軍部隊と基地に、テロやその他破壊活動の標的となる危険度が高まったという警報を発令した。これは、危険度を4段階で表す指標で、現在は危険度が2番目に高い段階にあるという。 ワシントン、メリーランド州、バージニア州にこの警報が発令されたのは、2日朝7時30分。だが、それまでの24時間というもの、ホワイトハウスからは次々に混乱し、どんどん内容が変わる声明と警告が出されていた。この間、ドナルド・トランプ大統領は、連邦政府の軍事介入を辞さない構えで州知事らを脅し、連邦軍司令官としてマーク・ミリー統合参謀本部議長を任命した。この人事には法的には問題がある。ミリー議長は軍司令官ではなく、大統領の軍事顧問だからだ。 「トランプ大統領の一見独裁的なやり方と、それが米軍指導部の判断に与える影響について、深刻な懸念を抱いている」と、下院軍事委員会のアダム・スミス委員長(民主党)は2日、語った。法の限界を超えた軍の使用は許されない。だが私には、トランプ大統領がそれを理解しているとは思えない」 ワシントン一帯の州兵を動員 白人警察官の暴行で黒人のジョージ・フロイドが死亡した事件をきっかけに全米に広がった抗議デモと暴動への対応策として、トランプは1日、ワシントン(コロンビア特別区)の州兵部隊を連邦軍として動員した。連邦政府による州兵の動員はこの部隊が最初だ。 ワシントンの州兵部隊は、あまり知られていない首都地域共同タスクフォース (JTF-NCR) という司令部の指揮下にある。もともとは、新型コロナウイルスに対する政府の緊急計画を秘密裏に継続するために、今年3月に設置された司令部だ。 共同タスクフォースを指揮するのは、陸軍のマジ・オマール・ジョーンズ将軍で、その上司にあたるのが、コロラド州コロラドスプリングスに本部を置く米北方軍(NORTHCOM)のテレンス・オショーンネシー空軍司令官。そして、オショーンネシーは国防長官を通じて大統領に指示を仰ぐ立場にある。 連邦に動員されたのは、ワシントンの州兵だけではない。隣接するウエストバージニア州の州兵部隊も1日の夜、連邦命令でワシントンン地域に組み込まれた。 そして2日の午前0時過ぎ、ニューヨーク州フォートドラムとカンザス州フォートライリーから飛び立った輸送機が、メリーランド州南部のアンドリュース空軍基地に到着した。飛行機から降り立った軍事警察官と歩兵たちは、連邦政府の建物と基地の防衛の任務に就くことになっていた。ノースカロライナ州フォートフラッグ出身の現役軍事警察官約250人は、真夜中までにワシントンにある軍の各基地に配備された。 ===== ワシントンの州兵部隊によれば、「ホワイトハウスと連邦記念碑の近くで行われる抗議活動の間も秩序を維持するために、何百人もの兵士と航空部隊が米国公園警察、連邦警察、地下鉄警察を支援している」。 「私は利用可能なすべての連邦および、民間、軍の資源を動員している」と、トランプは1日、自分の意のままに使える「何千人もの」軍と州兵に触れた。2日夜には、10の連邦機関の法執行官が、ホワイトハウスや議会の周囲、連邦機関やモニュメントの周囲を中心にワシントンに配備された。これには、FBI、ATF、麻薬取締局、米国元帥と司法省の刑務所役員局、税関と国境警備局、ICE、国土安全保障省のシークレットサービスと沿岸警備隊が含まれる。 全米で少なくとも26の州とワシントンは現在、「生命と財産を守り、平和、秩序、公共の安全を維持するために」州兵2万人以上を動員していると、州兵総局の局長ジョセフ・レンゲル空軍大将は言う。 州兵部隊を動員したのは、アリゾナ州、アラスカ州、カリフォルニア州、コロラド州、フロリダ州、ジョージア州、イリノイ州、インディアナ州、ケンタッキー州、ミシガン州、ミネソタ州、ノースカロライナ州、ネブラスカ州、ネバダ州、ニューハンプシャー州、ニューヨーク州、オハイオ州、ペンシルベニア州、サウスカロライナ州、サウスダコタ州、テネシー州、テキサス州、ユタ州、バージニア州、ワシントン州、ウィスコンシン州の全26州。州兵部隊は、引き続き連邦政府の要請を受けて各州知事が命令を出す「連邦任務」と、各州知事の指揮下の任務を遂行している。 反乱法発動の第一歩か さらに地元の警察には、FBIやその他の連邦政府の法執行官が加わった。 そして、空中では連邦政府の監視機が1日、ニューヨーク州バッファロー、イリノイ州シカゴ、ワシントン、ミシガン州デトロイト、テキサス州エルパソ、フロリダ州マイアミ、カリフォルニア州サンディエゴ上空で監視飛行を行った。その大半は税関・国境警備局(CBP)の所属だが、FBIや軍の航空機とヘリコプターも使われた。 トランプ大統領は2日、自分の目標は「暴動と略奪を止めさせ、破壊と放火を終わらせ、法を守るアメリカ人の権利を守ることだ。その権利には修正第2条(国民が武器を保有し携帯する権利)も含まれる」と述べた。 この発言を、一部のアナリストは、1807年に制定された秩序回復のための法律、いわゆる反乱法を発動する第一歩になるかもしれないとみている。この法律は、アメリカ国内で暴動や反乱、謀反を鎮圧するために軍隊を使うことを可能にするものだ。 トランプは、州知事が暴動を制圧できない場合には、大統領権限で行動を起こすと言った。各州知事の合意なしに反乱法を発動して軍隊を派遣すると示唆したものだ。 <参考記事>全米暴動、トランプは米軍を投入するのか <参考記事>警官と市民の間に根深い不信が横たわるアメリカ社会の絶望 ===== マーク・エスパー国防長官とミリー将軍はホワイトハウスで1日、連邦任務に携わる州兵動員の拡大について話し合った。エスパーは大統領と州知事らの電話会議にも参加した。電話の会話のなかで、エスパーはアメリカの街頭を制圧すべき「戦場」と呼んだ。トランプが何度も繰り返してきた表現だ。 統合参謀本部議長であるミリー将軍は、米軍の高官という立場にあり、大統領にとって最も重要な正規の軍事顧問だ。だが、彼はいかなる部隊も指揮していないし、軍の指揮系統にも入っていない。 ホワイトハウスの内情を知る2人の国防総省筋から本誌が得た情報によれば、エスパー長官もミリー将軍も、現在の暴動に軍を巻き込もうとするトランプの動きについて、その有用性、妥当性、合法性に何ら疑問を呈していない。 ミリーを司令官に指名するにあたり、トランプはミリーが「様々な州がこれまで取ってきた対策を嫌っている」と語っている。だがミリーも国防総省もミリーの見解や新しい役割について公式発表を行っていない。夜間外出禁止令が出た2日夜、ミリーはワシントンの通りを歩いているところを不用意に目撃されたりもしている。2日にトランプがホワイトハウスの向かいにある聖ヨハネ聖公会教会で写真撮影を行い、宗教の政治利用と非難を浴びたときも、エスパーとミリーは迷彩服姿で付き従っていた。トランプがその気になれば、周囲に止める者はいなそうだ。 (翻訳:栗原紀子) ※画像をクリックするとアマゾンに飛びます2020年6月9日号(6月2日発売)は「検証:日本モデル」特集。新型コロナで日本のやり方は正しかったのか? 感染症の専門家と考えるパンデミック対策。特別寄稿 西浦博・北大教授:「8割おじさん」の数理モデル