<子どもの学力は家庭環境に大きく左右されるが、かと言って現場の教師が「無力」なわけではない> 教育社会学者が手掛けている冷徹な仕事として、家庭環境と学力の相関分析がある。「学力格差」という言葉が広まっているので、どういう知見が出ているかは知られていると思う。富裕層の子弟ほど学力が高い。通塾費用の負担能力などの経済資本に加え、親が勉強を見てやる頻度、自宅の蔵書量といった文化資本も影響している。 「身も蓋もないことを」と眉をひそめられることが多いが、こういうデータは、不利な条件の家庭への支援を促すエビデンスにほかならない。現実を明らかにすることの重要性は、どれほど強調しても足りない。 しかし現場の教員にすれば、こうした事実(fact)を突き付けられたとき、驚きと同時に倦怠感(不快感)を抱くかもしれない。「子どもの学力は家庭環境に規定される、では自分たちの授業実践は無力なのか」と。 結論から言うと、そのようなことはない。子どもの勉学嗜好や学力は、教員の授業のやり方とも相関している。「理科の授業で、児童生徒の理解を促すべく、教師は色々な工夫をする」という設問への回答をもとに、小4児童と中2生徒を4つのグループに分け、理科嗜好と理科学力を出すと<表1>のようになる。IEA(国際教育到達度評価学会)の「TIMSS 2015」のデータだ。 小学生、中学生とも、工夫された授業を受けているグループほど、理科が好きという回答比率が高く、理科の平均点も高い。きれいな傾向だ。小・中学生のデータなので、理系の専門高校へのコース分けの影響はない。教員が授業の工夫に熱心なグループに、富裕層の子どもが多いとも考えにくい。教員がどういう教え方をするかで、子どもの勉学嗜好や学力は変わってくる、ということだ。 ===== 子どもの学力は出身階層に規定されるが、学校での実践が無力というわけではない。後者の効果が前者を上回ることもあり得る。以前、大阪大学の研究グループが「効果のある学校(effective school)」の研究を手掛けていた。学区の住民の階層構成は低いが、学力テストで高い結果を出している学校の特性を綿密に調べたもので、工夫された授業や個別指導の頻度が高いことが言われている。 教えることの専門職の教員は、工夫された分かりやすい授業をしなければならないが、<表1>によると、授業の工夫を強く感じている子どもの率は小4で46%、中2では21%でしかない(「Agree a lot」の比率)。<図1>は、この2つの数値の国際比較だ。 日本は他国とくらべて、肯定の回答の率が低い。韓国は日本より左下にあるが、受験社会なので、理科の授業で実験や討議等のアクティブラーニングの頻度が低いのは想像できる。右上には、科学技術教育に力を入れているイスラム諸国があり、アメリカも授業の工夫度が比較的高い。児童生徒の主観評価だが、いささか驚かされるデータだ。 専門職としての自分の力量が、目の前の子どもの姿を大きく変える。現場の教員はこういう自覚(誇り)を持ち、絶えず研鑽に励むことが望まれる。一方で行政の側は、学校の働き方改革を推進し、教員が授業に注力できる環境を整える責任がある。 <資料:IEA「TIMSS 2015」> =====