<新型コロナ対策として打ち出された「新しい生活様式」。まるで校則のように細かいが、専門家自身はどう行動しているのか。国際医療福祉大学の和田耕治教授にその意図を尋ねた。本誌「検証:日本モデル」特集より> 「新しい生活様式」――ニューノーマル(新しい日常生活)を送る上でのバイブルのようなリストが5月のゴールデンウイーク中に発表され、大きな反響を呼んだ。 筆者の最初の印象は「校則のように細かい」だ。無期限で行動を指示されているような感じがするし、すべて守ろうとすると生活が成り立たなくなる人もいるだろう。例えば「食事」の「対面ではなく横並びで座ろう」。あらゆる飲食店をカウンター式にしろとでも言うのだろうか。 もちろん、これだけ細かいのには理由があるのだろう。そこで、専門家会議に出席している国際医療福祉大学の和田耕治教授(公衆衛生学)に意図するところを聞いてみた。 「新しい生活様式は、自分を守り相手を守る思いやりに満ちた行動の指標として使って欲しい。押し付けにならないように例として示した」。リストに込めた思いは、「皆が頭を使い、コロナリスクと付き合うために自分なりに試してみること」。 新型コロナウイルスの流行は一過性ではない。「ニューノーマル」を強いられる窮屈な生活は2年続くかもしれない。そうであるなら無理がなく、実践できるものでないとならない。窮屈過ぎても、理想が高すぎてもとても、息が続かない。 実際、和田教授自身はリストにある理想を全て守ることができているのだろうか。そう気になったのは、筆者には2011年の福島原発事故の際の経験があるからだ。福島県飯舘村で村のリスクコミュニケーションアドバイザーを務めた際、住民がよく口にしたのが「先生達はいいよね。日帰りで東京に帰るんだもんね」「孫を連れて飯舘村に住めるの?孫を連れて来られないならば信じられない」 当時、役所の若手職員も含め集まった若い人達と何度か飲み会を行った。専門家が住民にしているアドバイスを「本当に」自分たちで実践するか否かで、専門家の信頼度が計られていたとも言える。筆者がリスクコミュニケーションの専門家として感じるのは、こちらが信頼を獲得できるかどうかは、専門家が自らどう実践するかに懸かっている。 和田によると、自分がどう行動するかの判断の根拠は自分と相手の「お互いの関係、流行時期、状況」によると言う。 ===== いつから同僚や友人と飲み会を再開し始めますか?と聞いたところ、今は「忙しいので無理だなあ」とのことだが、親しい間柄で信頼できる友人に自宅での食事会に誘われたら、行くかどうかは「関係性と状況」によるそうだ。 関係性とは、相手との信頼関係、上司や恩師など年上の方で後で自分が陽性と分かった際に迷惑をかけないか、同年代でも後日にコロナ陽性と分かったら相手に正直に言えるかどうかということ。 状況とはコロナが地域で流行している時期かどうか、緊急性があるか、ということ。飲み会の参加者が不特定多数でないということも重要だ。 孫がおじいちゃんおばあちゃんに会いたいと言ってきたら? 和田は「それぞれの体調にもよる。毎年インフルエンザは学校での流行が11月から12月頃。その後お正月があり、帰省の時期になると感染者の年齢層が変わり、大人そして、その後は老人へと感染が広がる。 流行のピークが1月の2週目頃になるのはそうした人の動きによる。こうしたことがコロナでも起き得るかもしれない」。 だから、「大丈夫かな」と不安を覚えるような体調の悪い際に無理して帰省はしない。例えば、今は流行が比較的落ち着いている時期だ。 和田は東京への移動はどうしているのか? 朝晩の通勤電車は「3密」を作るのでよくないだろうと思うが......。 返って来たのは意外な答えだった。「通勤は普段どおり電車です。でも電車を降りたら必ず手洗いはしています」。逆に避けるべきは朝礼や向かい合った会議など。その理由は、コロナでの感染経路は飛沫(唾や咳での感染)が大きな割合を占めることが分かりだしたからだと言う。 米疾病対策センター(CDC)も「接触感染は主な感染ルートではないと考える」と、飛沫感染が主と示唆。ガイドラインを5月になって変えてきたという。「声を出す」「咳をする」が、「触る」ことよりもリスクが大きい。通勤電車はマスクをしていればよいし、「接触」したら洗い流せばよい。だから普通に通勤しているとのことだった。 ===== 「接触よりも飛沫」。今回の取材でこのルートを聞けたのは筆者にとって新鮮だった。和田教授によれば、夜の街でのクラスターは「大きな声を出す」現場で多く発生した。 例えば、店員が複数の客席に付き接客するにぎやかで華やかなお店、客が「カンパーイ」と声を出し合いひざを突き合わせたような状態で「ワイワイガヤガヤ」と盛り上がる状況で多いらしい。 スポーツジムでも運動量と呼吸量が多いプログラムでクラスターが発生しているが、不特定多数の人が混じり合い近くで声を出すような夜の街の発生件数は1桁ないし2桁の違いで多かったという。 であれば、「3密(密接、密集、密閉)」はメッセージとして不完全ではないか。リスクが高いのは「3密+(飛沫が多く飛ぶ)大きな声を出す」だ。言わば4つ目の「密」としての「密な会話」は、第二波を起こさないために鍵となるメッセージだろう。 「新しい生活様式」で提言されている「ルール」のようなものよりも、感染状況と経路は何か、最新情報を市民に提供することがより大切だ。リストは「やってはいけない」という禁止事項の列挙ではなく、自分の頭で考え判断するための材料なのであり、どうやったら実行できるのか、どこまでできるのかはそれぞれが状況に応じて考える必要がある。 その意図が伝わっていないからこそ、「自粛警察」のような行動が起きる。 「新しい生活様式」において重要なのは、自分の頭で考えること。であるならば、専門家からのメッセージとして伝えるべきは最新の事実(ファクト)であり、その情報を伝える際には根拠を透明化して欲しい。 人は「説得」ではなく、「納得」や「ふに落ちる」ことによって自分たちの行動を変える。リスクコミュニケーションでは相手に判断材料を提供しつつ、対話を通じて責務を共有し、社会のリスクを下げていく。この過程で互いの信頼関係を築き上げる。 情報と、情報を出す相手を信頼できるからこそ、人は納得して行動を変える。コロナの第2波を最小限に抑えるために、いまリスクコミュニケーションの強化が急務だ。 *なお、社団法人日本水商売協会は医師の監修の元で「接待飲食店における新型コロナウィルス対策ガイドライン」を作成し、マスクの着用、入店時体温測定、ソーシャルディスタンスを「必ずやるべきこと」と定め、啓発を行っている。ハイリスクな場所を名指しするのではなく、こうした具体的で明確なガイドラインを示す方がリスクを減らすのに役立つだろう。 ※6月4日6:45に記事を公開しましたが、同12:10、より長い完全版に差し替えました(編集部)。 <2020年6月9日号「検証:日本モデル」特集より> 【関連記事】西浦×國井 対談「日本のコロナ対策は過剰だったのか」 ※画像をクリックするとアマゾンに飛びます2020年6月9日号(6月2日発売)は「検証:日本モデル」特集。新型コロナで日本のやり方は正しかったのか? 感染症の専門家と考えるパンデミック対策。特別寄稿 西浦博・北大教授:「8割おじさん」の数理モデル