<新型コロナの影響で世界のスポーツ界がストップしているなか、いちはやく動き出した韓国だっだが......> 今年は新型コロナウイルスのパンデミックが勃発し、政治・経済・文化などあらゆる分野でこれまで遭遇したことのない状況に見舞われ、臨機応変に対応しなければならなくなった。 スポーツ界でも競技会場での感染対策などを徹底させようとしても、通常のように観客が来場すると社会的距離が保てないため、ひとまず「無観客試合」に踏み切る競技が増えている。 日本では、3月8日大阪で大相撲春場所が開催されたが、無観客で進められた。他にも、今月18日から再開予定の日本プロ野球界も、当面は無観客で行われる予定だ。その翌月、7月4日から始まる予定のサッカーJ1も無観客試合が発表されている。 しかし、がらんとした会場での試合は、選手たちも覇気が薄れてしまう。そこで、海外では観客席を埋めるこんなほほえましいアイディアは実施されている。 スタジアムの客席でパネルやぬいぐるみが応援 日本よりひと足早くプロ野球が開幕した台湾でも無観客で試合が開催されたが、等身大に人型パネルが設置され、観客席を埋めた。 また、かわいいぬいぐるみ応援団が登場したのは、お隣の国・韓国だ。5月5日に無観客試合でプロ野球が開幕したのだが、大田ハンファ・イーグルスのホーム球場であるハンファ生命イーグルス・パーク球場には、ファンが選手たちのためにぬいぐるみを送り、それらを客席に並べた。 これが話題となり、イーグルス球団はSNSを通じて「自分の代わりに観て」キャンペーンを行った。送られてきたぬいぐるみには、送り主の名札も付けられる。ハンファ・イーグルスのホーム球場試合がTV中継されるごとに増えていくぬいぐるみ応援団は微笑ましく、ファンではなかった人たちにも注目されるようになった。 このように、ほのぼのエピソードが話題となるなか、同じ韓国のプロサッカーKリーグでの無観客試合の対応が波紋を呼んでいる。 ことの発端は、5月17日にソウルワールドカップ競技場で行われたソウルFCと光州FCのKリーグ無観客試合にて、空席となった客席を埋めるため、マネキンが設置されたことだった。 ===== 愛らしいマネキンと思ったら...... 球場のN席と呼ばれる北側の客席に、ユニフォームや応援グッズを手にしたマネキン約30体を座らせ、チームの広報が「まるでサポーターたちが本当に応援している姿のようです」と言うコメントと共にSNSに投稿すると、それを観た一部のファン達が騒ぎ出した。数体のマネキンが身に着けていた小物に、アダルトグッズ業者の名前やロゴが記入されていたのだ。 騒ぎが発覚し調べてみると、マネキンの30体中10体が人形との性行為用に作られた「ラブドール」だった。日本では俗に「ダッチワイフ」とも呼ばれているが、欧米や韓国では「リアルドール」という名称が一般的だ。マネキンを発注した業者もこの事実を認め、より多くのマネキンの確保のため、ラブドールを混ぜて設置したと明かした。 Kリーグ史上最高の罰金 発端となった日から3日後の20日には、韓国プロサッカー連盟がFCソウルに対し、処罰として1億ウォンの罰金を命じている。この罰金額がどの程度かと言うと、Kリーグの歴史上最高額であり、4年前に全羅北道ヒョンダイチームが、勝つために審判を買収していた事件の罰金と同額である。 成人用品を観客席に設置したことに対して考えると、かなり重い処罰を下したと言える。他にも、性商品関連会社だと確認せずに、この納品会社をFCソウルに紹介した韓国プロサッカー連盟の職員も減俸3ヶ月の処分を受けている。 このように、素早い対応で厳重な処罰を下した理由は大きく分けて二つある。まず、一つ目は、この事件をイギリスのThe SUN誌とYahoo!が面白おかしく世界に報道したからだ。 韓国人は日本人と同様に海外の目を気にする一面がある。国内で起こった事件を報道する時、「海外ではどのように自国のこの事件を報道されたか」を紹介する。これは日本も同じなのだが、両国とも体面を気にする文化が根付いているだろう。韓国は、今回のこの騒動を海外でこのまま笑いものとして拡散される前に、素早く対処しようとしたのだ。 ===== ラブドールだけが問題ではない? そして、もう一つの理由は、国内の女性団体がこの問題を取り上げだし、大事に発展しそうだと踏んだからである。すでに、社団法人「韓国女性の電話」が、5月21日に公式抗議文を出して非難している。 「FCソウルのサッカースタジオに置かれた観客用マネキンは、30体中28体が女性のマネキンだった。」とし、「(世の中には、男性型マネキンや子供型マネキンもあるにもかかわらず)女性のマネキンばかり設置されていたこと自体が問題である。さらに、そのうちの10体がラブドールだった。FCソウル球団は、女性ファンを一体どのような存在として見ているのか」と抗議している。 レディースデーなどで女性ファンの集客にも力を入れていたFCソウルだけに、今回のトラブルへの批判は余計に強まったようだ。 ポルノNGの国 もともと、韓国は儒教的な倫理観が今も根強く、映画でも性的表現については制限が厳しい。ポルノなども基本的には禁じられており、ネットで海外のアダルトサイトにアクセスすることも遮断されているほどだ。 それだけに、韓国では数年前からラブドールをめぐる騒動が、これまで何度か起こっている。2017年に日本から輸入されたラブドールが、性的商品だと言う理由で仁川空港税関にて足止めを食らった。これに不服申し立てをし、なんと輸入業者は税関相手に訴訟を起こしたのだ。1審では敗訴したものの、最終的に最高裁判にて勝訴を勝ち取り、ラブドールは2019年7月から公式に韓国輸入許可が出されている。 もちろん、ラブドールの輸入許可に反対している女性団体は多く、ラブドールは強姦人形だと主張し、幾度も抗議デモが行われてきた。2019年10月に国会で開かれた「産業通商資源中小ベンチャー企業委員会」にて、イ・ヨンジュ議員がラブドールを持ち込み、自分の隣に座らせながら「産業的な側面から見て、対応する必要がある」と主張すると、女性議員や団体から抗議が殺到し、イ・ヨンジュ議員が公式謝罪を出した騒動もあった。 このように、ラブドールをめぐる問題は、韓国ではまだセンシティブなトピックであり、日本人から見ると大げさだと感じるほどの重い処罰を与えなければならなかったのだろう。 5月31日、この騒動後初めてのFCソウルホームスタジオ競技では、マネキンでなく、垂れ幕を座席に掲げられていた。FCソウルは、調査を怠って業者を信じ、任せきりにしてしまった責任として罰金を支払う一方、このマネキン納品業者へ詐欺罪の調査を警察に依頼しているという。 前代未聞のパンデミックに、各業界で柔軟な対応が求められている。事前調査や長所短所を吟味し決定する慎重派な日本に対し、韓国はフットワークが軽く、なんでも思いついたらやってみよう!という勢いがある国なのだが、今回のラブドール問題はそれが裏目に出てしまったようだ。 バレないと思ったのか、このご時世だから仕方ないと思ったのか、真意は定かではないが、これからしばらくは無観客開催の行事が増えるだろう。今後、スポーツや試合に全く関係のないことで話題に取り上げられることの無いように気を付けてもらいたい。 【関連記事】 ・ドイツで知名度をあげたウイルス学者は、コロナ予防策への激しい反発にあっている ・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ ・検証:日本モデル 西浦×國井 対談「日本のコロナ対策は過剰だったのか」 ・「売春島」三重県にあった日本最後の「桃源郷」はいま......   ※画像をクリックするとアマゾンに飛びます2020年6月9日号(6月2日発売)は「検証:日本モデル」特集。新型コロナで日本のやり方は正しかったのか? 感染症の専門家と考えるパンデミック対策。特別寄稿 西浦博・北大教授:「8割おじさん」の数理モデル