<コロナ禍で一変した世界で、コスト削減を進めウイルスに打ち勝つため、アマゾンは無人配送車やドローン開発に邁進する。米経済ジャーナリスト、ブライアン・ドゥメインの新著『ベゾノミクス』より一部抜粋> 新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)のせいで外出もままならず、買い物をデリバリーに頼る人が増えた時期、大忙しだったのがネット通販のアマゾンだ。 もちろん、アマゾンはそれ以前からアメリカ人の暮らしに不可欠な存在だった。昨年12月時点で国内のプライム会員は推定1億1200万人。1人当たりの平均利用額は年間1400ドルとされる。でも、創業者ジェフ・ベゾス(今年の世界長者番付でトップ)はこれくらいでは満足しない。 米経済ジャーナリストのブライアン・ドゥメインは新著『ベゾノミクス』で、ベゾスがテクノロジーを武器にどのようにビジネスモデルと消費者行動を変えてきたかを検証した。以下の抜粋では、配送から荷物の受け渡しまでを完全に無人化する未来の宅配システムが社会に与えるインパクトを考察する。 ◇ ◇ ◇ アメリカではまだ一部の都市で新型コロナウイルス感染症によるロックダウン(都市封鎖)が続いている。人々は自宅に籠もり、仕事も勉強もオンラインでやりながら解放の日を待っている。食料品や生活必需品の買い出しも、できることなら避けたい。そう思う人が多いから、アマゾンやウォルマートなどのネット通販には利用客が殺到する。結果、アマゾンはプライム会員にも翌日配送が困難になり、食品や日用品、薬品の配送を優先せざるを得なくなっている。 しかもアマゾンでは複数の倉庫で集団感染が発生し、感染防止対策をめぐって従業員のストライキも起きた。こうした事態を受けて同社は4月後半に、総額40億ドル(第2四半期の予想利益に相当する額だ)以上を投じて、従業員向けにマスク1億枚、体温計3万1000個などを購入し、感染検査の実施などを行うと発表した。 配送費を大幅カット なにしろ、今のところは現場の従業員に倒れられたら元も子もない。だからこそアマゾン以下のネット通販大手は次のウイルスの襲来に備え、配送の無人化に取り組んでいる。その中核技術が自律走行車(AV)だ。 無人のAVとロボット、ドローンを組み合わせて、どこへでも確実に商品を届ける。それがベゾスの描く未来のビジネスモデル。実現すれば膨大なコストを削減できる。2018年、アマゾンの配送コストは前年比23%増の270億ドルだったが、その半分以上は最終集荷拠点から顧客の手に商品を渡すまでの最終プロセスに費やされていた。 ===== コンサルティング会社マッキンゼーによれば、配送を完全に無人化すればコストを40%以上削減できる。そうすればアマゾンにとっては年間100億ドル以上の節約になる。 アマゾンは2017年に、車の流れを判断して最適な車線にスムーズに入れるシステムの特許を取得した。またトヨタと組んで、無人貨客車両「イーパレット」を開発中だ(今年の東京オリンピック・パラリンピックで導入される予定だった)。 昨年前半には電動のピックアップトラックとSUVを手掛けるリビアン(ミシガン州)に対する7億ドルの出資を主導。またAVに不可欠な人工知能(AI)を開発するシリコンバレーの新興企業オーロラへの5億3000万ドルの資金調達も主導した。 こうした流れの中で、最初に普及するのは宅配用のAVになるだろう。不幸にして事故が起きても、AVは人を殺す可能性が低い。運悪く衝突を回避できない場合にも歩行者や自転車、他の車は避けて立ち木などに突っ込むようにプログラムされているはずだ。 目的地の決まっている配送用車両なら、走行ルートを決めやすいし、迷子になったり事故に遭遇するリスクも少ない。既に公道での走行テストも始まっていて、2018年1月30日にはシリコンバレーの新興企業ユーデルブがカリフォルニア州の公道を使って家庭へ食材を届ける実証実験に成功したと発表している。 顧客がスマートフォンのアプリで注文を出し、希望の配達時間帯を指定すると、システム側が配送車両を手配。目的地に着くと、顧客に荷物の受け取りに必要な暗証番号をメールする仕組みだった。顧客が配送AVのボディーにある画面に暗証番号を入力すると、扉が開いて荷物を取り出せる。荷物の取り出しが終われば扉が閉まり、AVは次の目的地へと向かうのだ。 新たな問題も生じる アマゾンは昨年、地元ワシントン州で宅配ロボット「スカウト」の実証実験を開始している。このロボットはクーラーボックスに車輪を付けたような外見で、歩行者や障害物を避けながら人が歩く程度の速度で公道を走行する。目的地を認識すると停止し、客にテキストで到着を知らせ自動でふたが開く。客が荷物を取り出すとふたを閉め、次の配送先へ向かう仕組みだ。 なかなか賢いが、まだ人間並みの融通は利かない。今のところ、こうしたロボットが門を開けたり呼び鈴を押したりはできない。雨の日に荷物がぬれないように工夫するのも無理だ。 ===== 中国の京東商城は既にドローンを導入して配送の時間とコスト削減に成功 QILAI SHEN-BLOOMBERG/GETTY IMAGES それに、受取人が不在だった場合も困ってしまう。客からのレスポンスをいつまで待てばいいのか、どこで見切りをつけるのか。 配送ロボットが荷物を預ける宅配ボックスを用意するなどのプランもあるが、そうしたインフラを全国規模で整備するには何年も、あるいは何十年もかかる。そもそも設置費用は誰が負担するのか。 いたずらっ子が配送ロボットを横転させたり、歩道でロボットの渋滞が発生したりする恐れもある。賢い配送ロボットは物流に関する問題をある程度まで解決してくれるが、今までにはない新たな問題も生み出すだろう。 道路を使わない無人配送システムもあり得る。ベゾスは2013年にテレビ番組のインタビューで、自社開発のドローンを使えば重さ約2.5キロの荷物を30分以内に目的地まで届けられると語った。ちなみに、アマゾンが扱っている荷物の約86%は重さ2.5キロ未満だという。 ドローンには多くの利点がある。理論上、ガソリンで走る配送トラックに比べて温室効果ガスの排出量が少なくて済む。過疎地の住民に生活必需品を届けることもできるし、道路の遮断された被災地に医薬品などの緊急物資を届けることもできる。 現に中国では、ネット通販大手の京東商城がドローンを導入し、遠く離れた山村への配送時間を日単位から分単位にまで短縮。大幅なコスト削減も実現している。 ドローンの音がうるさいアメリカではグーグルの親会社アルファベット傘下のウィングが昨年4月に、連邦航空局(FAA)からドローン配送サービスのテスト導入の認可を初めて取得した。アマゾンもすぐにそれに続いた。 だがドローンが頻繁に上空を行き来するようになれば、地域住民から反発の声が上がるのは必至だ。ドローンに搭載されているカメラが市民の監視に使われる心配はないのかなど、プライバシーをめぐる懸念が生じるからだ。 配送用ドローンのカメラは解像度が低く、ドローンの飛行を支援する目的のみに使われると、メーカー側は説明している。しかし今はそうでも、カメラとAIシステムの性能が向上すれば、リアルタイムで住民を監視することも可能になる。 もっと大きな懸念材料は騒音だ。アルファベット傘下のウィングがオーストラリアの首都キャンベラ郊外で、コーヒーなどのドローン配送サービスを始めたときも騒音が問題視された。地元在住でドローン反対派のジェーン・ジレスピーに言わせると、ドローンの甲高いプロペラ音は「F1のレーシングカー」のようにうるさいらしい。 ===== ドローンであれ、配送ロボットであれ、無人配送車であれ、自律型の配送システムは人間のドライバーを雇うよりも経済的に安上がりだ。そうである以上、将来的にAI自律走行システムが人間のドライバーを駆逐するのは間違いない。そういう現実を、私たちは受け入れるしかない。 最初のうちは、奇妙なやりとりもあるだろう。ドミノ・ピザがフォード・フュージョンのハイブリッド車を使った無人配達をミシガン州で試験導入したときは、ピザを受け取った顧客が無人の配送車に「ありがとう」と声を掛ける光景も見られたという。 ご用心。賢い無人配送車は四六時中、周囲をビデオカメラで監視しているし、そのデータは全てシステム側で管理されている。受け取りの際に礼を言わないと「態度の悪い人」に分類されてしまい、以後はサービスを受けられなくなるかもしれない。 <本誌2020年6月9日号掲載> 【参考記事】「コロナ後の世界」は来るか? 【参考記事】コロナ後に「ジャパン・アズ・ナンバーワン」再来の希望 ※画像をクリックするとアマゾンに飛びます2020年6月9日号(6月2日発売)は「検証:日本モデル」特集。新型コロナで日本のやり方は正しかったのか? 感染症の専門家と考えるパンデミック対策。特別寄稿 西浦博・北大教授:「8割おじさん」の数理モデル