新型コロナウイルス禍を背景に、ペーパードライバーを「卒業」しようとする人が増えている。人との接触が多い電車などに比べ感染リスクが低いとして車通勤を推奨する企業もあり、マイカーの価値も見直されている。自動車利用では新車購入以外にもシェアリングやリースなど複数の選択肢があり、潜在需要が新車販売の回復につながるかは不透明だ。 車移動を再評価する機運 埼玉県在住で医療機器メーカーに勤める川又亮太さん(32)はコロナを機に脱ペーパードライバーを果たした1人だ。10年以上前に免許を取得したものの、もともと運転に苦手意識があった上、日常生活では運転しなくても不便はなかった。 だが、5月の大型連休後から会社が契約したレンタカーで車通勤を始めた。会社が感染予防のため電車通勤からの切り替えを指示したためだ。ペーパードライバー専門の出張教習を受講し、今では便利さを実感しており「今後はマイカーを買いたい」と話す。 コロナを背景とした脱ペーパードライバーは首都圏で増えている。1都3県でペーパードライバー専門の出張教習を行うサワムラガク東京(東京・練馬区)の代表社員、沢村秋岳氏は「4月の緊急事態宣言後から、コロナ関連での受講者は増えている」と語る。 例えば、ある医療従事者はコロナ患者を受け入れている病院に勤めており、他人への感染リスクがある公共交通機関から車での移動に切り替えた。テレワークの普及で交通の便が良い首都圏から車移動が中心の地方へ移住を決めた会社員もいる。 警察庁によると、昨年の運転免許保持者は約8200万人。このうち5年間無事故・無違反の優良運転者(ゴールド免許証)の更新は近年56%超で推移しており、沢村氏は優良運転者の約60%がペーパードライバーとみている。 自動車の利用拡大は駐車スペースの稼働状況からもうかがえる。駐車場予約アプリを運営するakippa(大阪市)によると、緊急事態宣言発令から1週間(4月7日―13日)のアプリ経由での通勤・通学目的の利用は、コロナ流行前(2月4日ー10日)に比べ東京都で2.3倍に増加。宣言解除後(5月26日―6月1日)も全国で2倍、東京都は約4倍、都内有数のビジネス街がある千代田・港・中央の3区では平均で約5倍になった。同社広報は「宣言解除後も車通勤を続けている人や始めた人が多い」と話す。 ===== カーシェアは「不安」、購入は「家計に負担」 国内新車販売は1990年(約777万台)のピーク以降、少子高齢化などを背景に減少、昨年は519万台まで落ち込んだ。コロナを機にマイカーに安心を求める潜在需要への自動車業界の期待は大きい。 ホンダの八郷隆弘社長は5月の決算会見で、コロナ後は密になりがちな都市への集中より「分散型コミュニティー」が増えるとの見方を示した。「よりパーソナルで手にしやすく使いやすい車(の利用)が伸びる」とみており、品ぞろえやサービス展開に生かす意向だ。 もっとも、SBI証券企業調査部長の遠藤功治氏は「コロナ需要」が新車購入に直結するとの見方には慎重だ。近年、新車需要を奪うとされてきたカーシェアの成長にも「ブレーキがかかる」とみる。景気動向が不透明な中、月額制で頭金・税金・車検など多額の支払いが一度に生じない個人向けリースやサブスクリプションサービスが伸びるとみている。 消費者も複数ある車利用の選択肢の間で揺れているようだ。あるカーシェアサービス会員で東京都在住の女性会社員(44)は「今は誰がどこを触ったか分からないカーシェアの車両に不安がある」と話す。 国内最大手タイムズ・カーシェアの広報は「不特定多数の人が短期間・短時間利用するカーシェアを不安に思う人がいる一方、電車から車へと通勤手段を変更し、利用し始めた人もいる。影響はプラスマイナスある」と話す。カーシェア各社は10日に1回程度の車両巡回時に、ハンドルなど利用者が触れる部分を中心に「消毒」するなどの対策を講じているという。 新車購入は家計への負担が重い上、リモートでの仕事が増えれば移動のニーズも減る。先の女性は「できればマイカーが欲しい」と話すが、駐車場代や維持費の負担が重く「購入の決心もつかない」。電車から会社支給のレンタカーでの通勤に切り替えた東京都在住の会社員、甲斐圭祐さん(25)も車の便利さを感じてはいるが、「生活を切り詰めてまで購入するのには躊躇(ちゅうちょ)する」という。 一方、ネットで申し込む個人向けリース「定額カルモくん」の申込者数は2月以降伸びており、宣言解除後(5月25日―6月1日)も4月(16日―23日)に比べ7.4%増えているという。サイトを運営するナイル(東京・品川)の広報は「長期化するコロナ禍で今後も増える」とみている。 首都圏のトヨタ自動車販売店の営業担当者は、今のところコロナを理由にした新規購入はないと話す。ただ、運転人口が減る中、「コロナを機に運転する人が増えてくれればありがたい」と話している。 (白木真紀 編集:平田紀之)[ロイター]Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます 【関連記事】 ・東京都「東京アラート」発動、レインボーブリッジ赤く染まる 新型コロナ新規感染34人で ・検証:日本モデル 西浦×國井 対談「日本のコロナ対策は過剰だったのか」 ・なぜブラジルは「新型コロナ感染大国」へ転落したのか ・WHOに絶縁状、トランプの短気が招く「世界公衆衛生危機」の悪夢   ※画像をクリックするとアマゾンに飛びます2020年6月9日号(6月2日発売)は「検証:日本モデル」特集。新型コロナで日本のやり方は正しかったのか? 感染症の専門家と考えるパンデミック対策。特別寄稿 西浦博・北大教授:「8割おじさん」の数理モデル