<北朝鮮による韓国批判は、目先の譲歩を引き出すための常套手段。挑発的態度に戻った背景には何があるのか。これまでも北朝鮮はある種の消耗戦を仕掛けていた> シンガポールで歴史的な米朝首脳会談が行われてから2年。ここにきて北朝鮮は、アメリカと韓国に対する忍耐が限界に近づいているという意思表示を始めた。 6月9日、北朝鮮は、南北の軍当局間のホットライン(直通電話)を含む、韓国との公式の通信連絡線を全て遮断。金正恩(キム・ジョンウン)体制は韓国を「敵」と位置付けた。 金は2019年の「新年の辞」でも警告を発していた──アメリカが圧力をかけ続ければ「朝鮮半島の平和と安定を実現するための新たな道」を模索せざるを得なくなる、と。 しかし、今回の韓国への挑発的行動は、北朝鮮が巧妙な新戦略に打って出たものではない。これまで有効だった古いやり方に戻っただけだ。 いま韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政権を激しく批判し始めたのは、米韓両国から目先の譲歩を引き出すための定番の手法と言える。この動きの背景には、新型コロナウイルス感染症の影響で北朝鮮の経済が大打撃を被っているという事情がある。 北朝鮮政府は1月、新型コロナウイルスが持ち込まれるのを防ぐために、国境の封鎖などの強い措置を素早く講じた。最大の貿易相手国である中国との国境も閉ざされた。 これにより、北朝鮮の経済は壊滅的なダメージを受けている。中国税関当局の統計によると、1月と2月の中朝貿易総額は前年同期比で3割減。3月と4月はそれぞれ前年同月比で9割減との情報もある。北朝鮮にはコロナ感染者がまだ1人もいないというのが公式発表だが、実際には中朝国境地帯で感染者が増え始めているようだ。 このように、いま北朝鮮が苦境に陥っていることは事実だが、金体制はお得意の外交手法を用いることにより、厳しい環境の中でうまく立ち回ろうとしている。 2018年6月のシンガポールでの米朝首脳会談以降、北朝鮮はアメリカに対してある種の消耗戦を仕掛けてきた。発言を二転三転させ、一貫して曖昧な約束に終始することで、アメリカの外交上のスタミナを奪ってきたのだ。アメリカは、金の時間稼ぎ作戦に付き合わされてきた。 金とトランプ米大統領は、芝居がかった演出と大げさな言葉を好むという点でよく似ている。しかし、違いもある。北朝鮮は、核問題に関する話し合いをゆっくり進めたいと思っている。体制存続を図る上では、大規模で急速な変化を避けたいのだ。 北朝鮮が挑発的行動を取る根底にある動機は、資源、生存、安定への欲求だ。米韓両国の政府は、北朝鮮の挑発にどのように対処するかを判断する際、相手の派手な行動や仰々しい言葉ばかりに目を奪われず、真の意図を見極めることが重要になる。 ===== これまで北朝鮮との関係においては、思い切った行動が功を奏してこなかった。 トランプ政権は、思い切って米朝首脳会談に突き進んだ。韓国の文政権は、朝鮮半島和平のために思い切った行動が必要だと訴え続けている。ところが、その間に、北朝鮮はひそかに、そして着々と、核戦力を整えてきたのである。 トランプ政権に求められるのは、同盟国である韓国との間に摩擦を生み出すことを避け、両国の足並みをそろえるよう努めることだ。 さもなければ、北朝鮮は米韓関係を揺さぶり、危機をつくり出すことによって、アメリカと韓国の一方、もしくは両方から譲歩を引き出そうとし続けるだろう。 From Foreign Policy Magazine <2020年6月23日号掲載> 【参考記事】米朝会談から2年、金与正と怒る北朝鮮の女たち 【参考記事】「韓国のビラ見た国民を処刑」金与正の「対敵活動」が始動か ※画像をクリックするとアマゾンに飛びます2020年6月23日号(6月16日発売)は「コロナ時代の個人情報」特集。各国で採用が進む「スマホで接触追跡・感染監視」システムの是非。第2波を防ぐため、プライバシーは諦めるべきなのか。コロナ危機はまだ終わっていない。