<国防は自前でやれとばかり──ドイツ駐留米軍の削減を決めたトランプ政権が分かっていない戦略の本質> トランプ政権はドイツ駐留米軍の兵力の上限を2万5000人までとし、9500人を撤収させる意向だと、6月初めにメディアが伝えた。 この決定は「自国の防衛を米軍に押し付け、国防費をけちっている」ドイツに対する不満の表明だろう。ドナルド・トランプ米大統領はこの問題で欧州の同盟国にずっと文句を言い続けてきた。 だが今回の報道で分かるのは、トランプ政権がヨーロッパにおける駐留米軍の役割を全く理解していないことだ。この決定の背後には3つの誤った認識がある。その1、米軍はドイツを守るためにドイツにいる。その2、ドイツとアメリカはロシアの脅威について共通の認識を持っている。その3、この問題は詰まるところドイツをはじめ欧州のNATO加盟国が国防費を目標の対GDP比2%に増やすかどうかに還元される──。 次期米政権がヨーロッパにおけるアメリカの影響力を維持したいなら、この3つの勘違いを正さなければならない。 在外米軍基地の大枠が定められたのは1943年。アメリカが太平洋と大西洋で新たに獲得した覇権を維持するため旧陸軍省の幹部が立案した。 長距離の戦略爆撃が可能になり、核兵器開発が進むなか、将来的に米軍の戦闘力を支える米本土の軍需工場が敵の標的になると予想された。外国に基地を置けば、米本土から遠く離れた敵国を攻撃でき、平和時の戦力投射(危機に迅速に対応できるよう自国の領土外に軍隊を派遣できる体制を築くこと)にもなる。 ハリー・トルーマン大統領はソ連の最高指導者ヨシフ・スターリンにクリル列島に米軍基地を置きたいと頼みさえした。もちろんスターリンは断ったが、トルーマンがクリル列島に置こうとした米軍基地は必ずしもソ連を標的にしたものではない。「アメリカの安全保障政策の目指す範囲が広がり、それが在外米軍基地の建設計画につながった」と、歴史家のメルビン・レフラーは論じている。 今でも基本的にその事情は変わらず、米軍は世界80カ国に基地を置いている。なかでもドイツの軍事施設は米軍にとって非常に重要だ。例えばラムシュタイン空軍基地は中東、北アフリカ、南アジアにおける米軍の作戦行動を支える兵站のハブになっている。 トランプ政権はこうした状況を無視しているばかりか、もう1つ重要な事実を見落としている。大多数のドイツ人はロシアを軍事的な脅威と見なしていないことだ。 ロシアを恐れぬドイツ 冷戦中の米政府と西ドイツ政府は、対ソ外交では路線の違いこそあれ、ソ連が重大な軍事的脅威であるという認識は共有していた。西ドイツは、NATOの存在によってソ連の侵攻を抑止できると考えていた。ここでは「抑止力」がキーワードだ。ヨーロッパで戦争が起きれば、西ドイツは壊滅的な被害を受ける。だから全面戦争を何としても避けたいと考え、段階的な緊張緩和を目指していた。 【参考記事】アメリカ人の過半数が米軍による暴動鎮圧を支持【世論調査】 ===== ソ連崩壊後、再統一したドイツはロシアとの関わり方を模索し続けてきた。この20年、ドイツの政策立案者は党派を問わず、ロシアを敵に回して欧州の安全保障政策を定義できるとは考えなかった。 ロシアがウクライナに軍事介入してクリミア半島を編入した際は、ドイツも強硬な対応を求められた。しかし、プーチンがバルト海をのみ込もうとしている、ポーランドに侵攻しようとしているといったとっぴな考えを、ドイツのエリート層は信じなかった。 ドイツ軍は多国籍軍の主力としてリトアニアに駐留し、リトアニアの防衛力増強を手助けしてきた。こうした動きは、共同防衛に対するドイツの強いコミットメントを物語っている。 さらに2014年のNATO首脳会合で、ドイツは既に国防費の増加を約束している。トランプが欧州の同盟国の「タダ乗り」をツイッターで攻撃する何年も前のことだ。 2019年のドイツの国防費は前年比10%増で、冷戦終結後最大の伸びだった。軍事力のさらなる開発も進んでいる。 ドイツの対ロシア政策は、敵視や軍事化より外交と関与を重視してきた。それは今後も変わらないだろう。 問題は、NATOがもはやロシアへの抑止力にならないことだ。それでもドイツがロシアと衝突することがあれば、それはドイツがNATOの同盟に忠実だからだろう。 しかし、トランプが軍縮協定や国際条約をあまりにやすやすと放棄するため、ドイツが紛争に引きずり込まれるのではないかという不安は募るばかりだ。アメリカとの同盟は、資産というより負債の色が濃くなっている。 米軍の適正な規模や戦略の創造的な見直しは、議論する価値がある。だが、リバランスとは全面的な撤退ではない。欧州の米軍基地は、何よりもアメリカの国家安全保障を支えているのだ。 ドイツおよび欧州全域の駐留米軍の現在の規模は、同盟の結束力、相互運用性、パートナーとしての保証を考えると最低限のレベルに近い。ドイツでのさらなる削減は自滅的であり、非自由主義に傾いている同盟国のポーランドに移転させることは、ばかげている上にコストがかかる。 数字を振りかざす前に アメリカが欧州の国防費の少なさを懸念すること自体は当然だ。欧州の基地の維持がアメリカの国益にかなっているとしても、有能なパートナーを求めたいだろう。 【参考記事】米軍がコロナ感染者の新規入隊を永久に禁止? ===== しかし、アメリカは脅威に関する認識の違いに向き合い、国防費をGDPの2%に引き上げるという空虚なレトリックではなく、同盟の連帯と軍事能力を中心に議論を組み立てる必要がある。 「軍事力増強の目安として、2%という指標にはほとんど意味がない。実質的な支出や生産量を測るものではない」と、ヤン・テハウ独国防相顧問は指摘する。 このような目標で同盟国を殴り付けても、相手は無意味な前進をアピールするだけだ。特に、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)とその後の景気後退を受けて、欧州の国防費が2%の目標を下回ることは当面、避けられそうにない。 次期米政権は、現実的な戦略を推進する軍事能力に焦点を当てるべきだ。そこから生産的な議論の場が生まれ、同盟国は2020年代に向けてNATOを定義できるようになる。冷戦時代の物差しは、現代には通用しない。 From Foreign Policy Magazine <本誌2020年6月23日号掲載> 【話題の記事】 ・異例の猛暑でドイツの過激な「ヌーディズム」が全開 ・地下5キロメートルで「巨大な生物圏」が発見される ※画像をクリックするとアマゾンに飛びます2020年6月23日号(6月16日発売)は「コロナ時代の個人情報」特集。各国で採用が進む「スマホで接触追跡・感染監視」システムの是非。第2波を防ぐため、プライバシーは諦めるべきなのか。コロナ危機はまだ終わっていない。