<世界は今も、1ミリメートルの1万分の1の敵を相手に必死に闘い、その勝利は見えていない。ただし、希望もある――。本誌特別編集ムック「COVID-19のすべて」より> 我々世界で感染症と闘ってきたものにとって、微少な病原体が動物から人間にスピルオーバーし、世界を席巻する新たなパンデミックが起こることはある意味で必然だった。ペスト、インフルエンザ、エボラ熱、エイズ(後天性免疫不全症候群)、SARS(重症急性呼吸器症候群)......歴史を見れば明らかである。 ただ、パンデミックがいつやって来るのか、その敵がどんな戦い方をするのか、どれほどの威力を持つのか、誰にも分からなかった。 それが現実にやって来た。我々が生きている間に。 「敵の戦略は予想外」だった。エボラ熱やSARSのように、劇的な症状を与える際立った戦い方ではない。無症状または「ただの風邪?」と油断している間に、忍び込み、増殖・拡散していく。我々の隙を衝く。 日本にはクルーズ船を通じて奇襲攻撃をし、韓国やイランでは宗教活動に紛れ、イタリアやスペインではアペロ(食前酒を飲む集まり)やハグを通じ、そして医療機関に潜り込んだ。気付いたときには、感染爆発や医療崩壊。次々に犠牲者が増えていった。 アメリカは大丈夫だろう。ドナルド・トランプ大統領のみならず、私の知人の専門家たちも初めはそう思っていた。世界最高の医療レベルと、世界最強の人材・予算を持つ米疾病対策センター(CDC)を持つ国だ。それがふたを開けてみると、感染者数・死亡者数とも世界トップ。中国の20倍近く、ベトナム戦争の米国兵士の戦死者数をも超えてしまった。 世界は今も、1ミリメートルの1万分の1の敵を相手に必死に闘い、その勝利は見えていない。この闘いを、先進国首脳は口をそろえて、第2次世界大戦以来の危機と発言し、第3次世界大戦と表現するものもいる。戦いは世界のほぼ全域に及んでいる。 新型コロナウイルスの破壊力はSARSやエボラ熱の比ではない。人類の健康・命を奪うだけでなく、2020年の東京五輪開催を吹っ飛ばし、教育を停止させ、人々から雇用を奪った。国際社会の全ての分野に打撃を与え、政治的対立も悪化させている。世界恐慌以来の景気後退が予想され、コロナによる直接死よりも、生活苦、社会不安などによる間接死のほうが増えるのではとの懸念もある。 ただし、希望もある。ワクチン・治療薬・診断法の研究開発が進んできた。敵の戦法・戦術もかなり見えてきた。戦い方の成功例も増えている。感染爆発を起こした国々もピークアウトしている。 ===== もちろん、第2波、第3波を避けるための慎重さ、戦略が必要だ。また、現在、流行拡大中の国々、特にアフリカを含む低所得国への支援が重要だ。自国で感染流行が収束しても、世界で終息しなければ、また自国に戻ってくる。 危機は乗り越えなければならないが、さらに新たな未来を見据えて、変革の好機とも捉えるべきだ。テレワーク、働き方改革、遠隔医療、オンライン授業......これまで進まなかったことが「やればできる」との自信につながっているところもある。自粛生活、経済活動の停止の中で見えてきた価値もある。創意工夫やイノベーションの活性化にもつながっている。 国際的に見れば、地球温暖化を含め、地球規模の課題を違った角度から分析し、将来の在り方を検討する好機でもある。経済指標だけではない、「豊かさ」に対する新たな価値観やアプローチをつくり出すチャンスでもある。 今、これまでのコロナとの戦いを振り返りながら、「ポストコロナ」「ウィズコロナ」を考える時である。 (筆者は元長崎大学熱帯医学研究所教授。これまで国立国際医療センターやユニセフ〔国連児童基金〕などを通じて感染症対策の実践・研究・人材育成に従事。新型コロナウイルス禍で世界はどう闘っているのかを追った新著が、7月末にCCCメディアハウスから緊急出版予定) <本誌特別編集ムック「COVID-19のすべて」より> 【関連記事】コロナに感染して免疫ができたら再度感染することはない? 【話題の記事】 ・中国・超大国への道、最大の障壁は「日本」──そこで浮上する第2の道とは ・南極大陸で発見されたサッカーボール大の「謎の化石」の正体が明らかに ※画像をクリックするとアマゾンに飛びますSPECIAL ISSUE「COVID-19のすべて」が好評発売中。ゼロから分かるCOVID-19解説/歴史に学ぶ感染症の脅威/ポスト・パンデミックの世界経済......。錯綜する情報に振り回されないため、知っておくべき新型コロナウイルスの基礎知識をまとめた1冊です。 ※画像をクリックするとアマゾンに飛びます2020年7月7日号(6月30日発売)は「Black Lives Matter」特集。今回の黒人差別反対運動はいつもと違う――。黒人社会の慟哭、抗議拡大の理由、警察vs黒人の暗黒史。「人権軽視大国」アメリカがついに変わるのか。特別寄稿ウェスリー・ラウリー(ピュリツァー賞受賞ジャーナリスト)