<「空気を読まないにも程がある」と嘆かれても、あえて東京都知事選に立候補した山本太郎に作家・映画監督の森達也が聞いた> 以前から出馬するのでは、との噂はあった。でも先に宇都宮健児が出馬表明した。その段階で山本太郎の出馬はないだろうと僕は考えた。だってもしも立候補したら、宇都宮と明らかに票を食い合う。結果としては共倒れだ。ところが宇都宮から2週間以上遅れて、山本は出馬を宣言した。 「これ以上(国民が)頑張るって何なんだよ。頑張るべきは政治だろ、って話です」 これは多くのメディアが引用した出馬宣言の記者会見における山本の発言の一部。言っていることはもっともだけど、僕も含めて多くの人が、これで小池百合子続投はほぼ確定だと思ったはずだ。空気を読まないにも程がある。困惑しながら嘆く人は、僕の周囲でも少なくない。 ここで少しだけ自分自身について書く。これまでの選挙で自民党に入れたことはない。特に今の自民党(というか安倍政権)については、ほとんどの政策に同意できない。だから野党支持だ。もしもあなたが自民党支持者ならば、僕の視点は偏っていると見られるだろう。それは否定しない。でも偏りはあって当たり前。公正中立になど書けない。僕は山本を支持する一人だ。ただし熱狂はしていない。それを前提に置いて読んでほしい。 6月24日、新宿で街宣を終えて事務所に帰ってきたばかりの山本は、少し緊張した表情でZoomに接続したPCの画面に現れた。僕の最初の質問は街宣の手応えについて。れいわ新選組ブームに沸いた去年7月の参院選のときとは絶対に違うはずだ。 正直に言えば今回は厳しいです。そんな言葉を予想していたが、「去年より熱いです」と山本は即答した。何だそれ。負け惜しみだろうか。いやそんなことを口にするタイプではない。絶句する僕に山本は、「三密を避けるために今はほぼゲリラ街宣です。要するに予告なし」と言った。ならば困惑する支持層だけではなく、山本太郎やれいわに対してのアンチも相当数いるはずだ。 「その覚悟はしていた。でも熱いです。政治への関心が上がっているのだと思います」 「それはつまり......」 「コロナをきっかけに、今の政治に対しての不信や疑問が大きくなった。ならばこの男が何を言うのか聞いてみよう。そう考える人が増えてきた。そんな気がします」 ===== この国の政治状況における最大の問題点は何か。もちろん無数にある。でも最大の要因は、国民一人一人の主権者意識が希薄なことだと僕は思っている。だから政治に関心を持たない。選挙に行かない。抗議しない。主張しない。ひとつ事例を挙げる。英語で納税者はtaxpayer。つまり税は支払う(pay)もの。だから相応の見返りを求める。でも日本語で税は納めるもの。つまり年貢だ。お上という意識もここに重なる。これが日本の政治風土の根底にある。 でも新型コロナウイルスの流行というかつてない事態を迎え、一人一人の意識が変わりつつある。そしてこの状況がさらに進むのなら、ずっと自立できなかった主権者意識が大きく変わるかもしれない。 「もちろん、こういう危機的な状況で政治に関心を持つことは決して珍しいことではない。私自身もそうです。福島第一原発で変わりました。......でも震災や原発事故はやはり一過性だし、地域で温度差もありました。結局は自分のこととして捉える人は多くなかった。でも今回は違います。決して人ごとではない」 「出馬宣言が遅れた理由は?」 「調整が遅れました。宇都宮さんは真っすぐな方ですから、一本化は無理だと思っていた。行くこともできるし戻ることもできる。都知事選について自分はずっとそのスタンスでした。気持ちを固めた理由は、コロナ後に出会った新しいホームレスの人たちです」 「新しいホームレス?」 「明らかに増えています。多くの人が本当に困窮しています。ならば自分に何ができるのか。今は議員じゃないから、炊き出し支援やボランティアくらいしかできない。衆院選まで何もしないのか。いや、それはあり得ない」 弱点は同時に強みにも 気持ちは分かる。でも戦略としてはどうか。票を食い合うことは回避できない。やはり完全には納得しづらい。 「そもそも当選できる確率はどのくらいあるの?」 この質問に対して、山本はしばらく考え込んだ。「......少なくとも自分は、小池さんに一番迫れる候補者だと思っています。でも確率かあ。これはみなさん次第で、ふたを開けなければ分からない。僕には伸びしろしかないから」 「衆院選前にれいわの知名度を上げるための出馬だとの見方については?」 「選挙って疲弊するんです。候補者だけではなくスタッフもみんな。もしも秋に衆院選があるなら、今この選挙で疲弊したくないです。まあ今も、何で出馬するのかと時おり怒られるけれど、でもそもそも政治をやろうと思った理由は変わっていないから」 「困っている人を見捨てたくない、ということ?」 「はい。そのためにできることをやりたい。当選の可能性は低くてもゼロではない」 ===== 「......ずっと思っていることだけど、太郎さんは政党政治向きではないと思う。もっと具体的に言えば、党首は無理じゃないかな」 一瞬だけ真顔になってから、山本は爆笑した。 「そうかもしれないです。チームプレーが苦手なのにリーダーは無理ですよね。永田町にはそもそも向いていない。それは自覚しています」 政治は数の力でもある。一人では無理だ。だから彼は新党を旗揚げした。でも組織に帰属するタイプではない。まとめることも不得手なはずだ。 これは山本の弱点であると同時に強みでもある。党議拘束はほぼない。所属する組織や幹部の意向よりも自分の思いを優先する。そんな政党の形を、山本は打ち出すことができるかもしれない。ならばそれは、忖度や世襲や数の論理ばかりが優先されてきたこの国の政治風土を、がらりと変える起爆剤になるはずだ。 すいません、そろそろ。 スタッフの声が聞こえた。これから明日の街宣のための打ち合わせだという。うなずいてマウスを手にした僕に、「私の一番の票田は」と山本が言った。「政治に興味がなかったり諦めたりしている人たちです」 つまり宇都宮とは食い合わないとの自信。あるいは理念。でも現実はどうか。とにかく7月5日に結果は出る。 <本誌2020年7月7日号掲載> 【関連記事】山本太郎現象とこぼれ落ちた人々 【関連記事】「山本太郎を操っている?」斎藤まさしに全て聞いた 【話題の記事】 ・中国人女性と日本人の初老男性はホテルの客室階に消えていった ・ニューヨーク当局が新型コロナ時代のセックス指針を公開「最も安全な相手は自分自身」 ・日本がタイ版新幹線から手を引き始めた理由 ・街に繰り出したカワウソの受難 高級魚アロワナを食べたら... ※画像をクリックするとアマゾンに飛びます2020年7月7日号(6月30日発売)は「Black Lives Matter」特集。今回の黒人差別反対運動はいつもと違う――。黒人社会の慟哭、抗議拡大の理由、警察vs黒人の暗黒史。「人権軽視大国」アメリカがついに変わるのか。特別寄稿ウェスリー・ラウリー(ピュリツァー賞受賞ジャーナリスト)