<省庁の解体にまで言及した厳しい閣議の映像を公開した大統領にはしたたかな狙いが──> インドネシアのジョコ・ウィドド大統領が新型コロナウイルス感染対策の効果が不十分であり、全員の危機感が欠如していると居並ぶ全内閣閣僚を前に厳しい口調で語り、猛省を促した。 これは大統領官邸で18日に行われた閣議の模様を撮影した約10分の動画で、大統領府が28日に公開、インドネシアの主要メディアが一斉に報じたものだ。新型コロナの感染拡大防止策が思うように機能せず、現在も感染者・死者の増加に歯止めがかからない状況に苛立ちを露わにしたものといえる。 インドネシアの各メディアはジョコ・ウィドド大統領の厳しい口調のスピーチについて「怒れる大統領」「火のような激しい演説」「政府の断固とした方針再確認」などの表現で伝えている。 インドネシアでは3月2日に国内でインドネシア人の感染者が初確認されて以来、新型コロナウイルスの感染は全国34州全てに拡大。感染者・死者ともに東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟10カ国中最悪の数字を記録している。 ジョコ・ウィドド政権は地方政府などと協力して緊急対応宣言(首都ジャカルタは3月20日から)、さらにレベルアップした「大規模社会制限(PSBB)」(同4月24日から)と次々に感染拡大防止のために各種の社会活動を制限する策を次々と講じてきた。 しかし感染拡大は一向に収まる気配をみせず、感染者は6月に入っても1日平均で1000人ペースで増加。決して「コントロールできている」「第一波をしのいだ」とお世辞にも言える状態ではない状況が続いている。 「特別に異常な事態であるとの認識必要」 公開された閣議の動画では、感染防止のために距離をとって座る全閣僚を前に演壇に進んだジョコ・ウィドド大統領が開口一番「今は特別に異常な事態にあるという認識、空気が欠けている。ここにいる閣僚はインドネシアの2億6000万人の国民に対して責任を負っていることを認識して、全員が同じ危機意識を共有しなければならない」と全閣僚にコロナ対策で危機感をもつよう求めた。 コロナ禍で経済が停滞している状況について数字を挙げて触れたうえで「これ以上の失業者を増やしてはならない」と述べ、さらに「今まで通りの普通の仕事ぶりではいけない、今は特別な状況にあるのだ。仕事の内容とスピードが求められている」と述べた。 全閣僚を見渡すジョコ・ウィドド大統領の視線はいつになく厳しく、右手を何度も振り上げては畳みかける様な口調での語り口は、大統領として感染対策の現状に大きな不満を抱いていることを浮き彫りにした。 そして「現状が続くようであれば、異例の措置を取ることも考えている、省庁の解体や内閣の改造も含まれる。いつもと同じような仕事をしている閣僚には出て行ってもらうこともある」とまで述べて、閣僚の交代による内閣改造や政府機関の解体の可能性にまで言及した。 【関連記事】 ・東京都、新型コロナウイルス新規感染58人を確認 週平均で休業再要請の50人超える ・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ ・今年は海やプールで泳いでもいいのか?──検証 ・韓国、日本製品不買運動はどこへ? ニンテンドー「どうぶつの森」大ヒットが示すご都合主義. ===== 動画公開、大統領の意図は 公開された閣議でのジョコ・ウィドド大統領の演説は、政府の感染対策に不満を抱いて一刻も早い規制や制限の「全面解除」を求める国民に対して大きなインパクトを与える効果を狙った、との見方が有力だ。 あまり例のない閣議の動画公開、激しい口調ながらも手にした原稿を見ながらのジョコ・ウィドド大統領の演説には「パフォーマンス」としての側面もあり、一向に収まらないコロナ感染拡大の現状に「大統領は閣僚と思いを一つにしてここまで懸命に、真剣に取り組もうとしている」というメッセージを国民に伝えることが眼目だったとみられている。 また29日付けの主要紙「コンパス」は、政策研究機関の政治評論家ブルハヌディン・ムフタディ氏による「この演説はジョコ・ウィドド大統領が思い描いている内閣改造を断行するための下地ならしである」との見方を伝えた。 第2期政権への批判で内閣改造も? 同氏はさらに「動画公開はその内閣改造への国民の反応をみる観測気球のようなものともいえるだろう」として、今後タイミングをみて大統領が内閣改造に踏み切る可能性に言及した。 2019年10月に発足したジョコ・ウィドド大統領第2期目の内閣は、与党各政党への大臣ポスト割り当てや国家警察、国軍の元高級幹部を多く登用したり、若干35歳の若手ビジネスマンを抜擢したりするなど話題満載だったが、各閣僚の政権発足後の実績という点では国会やマスコミから辛口評価の閣僚が少なからず含まれているのも事実。 そこへ降って沸いたコロナ禍だが、保健相や財務相、経済、投資関係の閣僚らがコロナ対策などで多忙を極めるのとは対照的に、コロナ対策による活動自粛や制限強化に乗じて仕事に積極性や意欲を見せない閣僚やコロナ禍以前と変わらない仕事内容、ペースの閣僚にジョコ・ウィドド大統領は内閣改造のタイミングを計っているとの観測もでていた。 そういう意味でジョコ・ウィドド大統領は今後国民やマスコミ、各政党などの反応を見極めながら内閣改造を実行することで、コロナ対策のさらなる強化徹底と評価の低い閣僚を入れ替えて政権基盤を強化するという「一石二鳥」を視野に入れているものとの見方が有力になっている。 [執筆者] 大塚智彦(ジャーナリスト) PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など 【関連記事】 ・東京都、新型コロナウイルス新規感染58人を確認 週平均で休業再要請の50人超える ・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ ・今年は海やプールで泳いでもいいのか?──検証 ・韓国、日本製品不買運動はどこへ? ニンテンドー「どうぶつの森」大ヒットが示すご都合主義.   ※画像をクリックするとアマゾンに飛びます2020年7月7日号(6月30日発売)は「Black Lives Matter」特集。今回の黒人差別反対運動はいつもと違う――。黒人社会の慟哭、抗議拡大の理由、警察vs黒人の暗黒史。「人権軽視大国」アメリカがついに変わるのか。特別寄稿ウェスリー・ラウリー(ピュリツァー賞受賞ジャーナリスト) ===== 「火のような激しい演説」するジョコ・ウィドド大統領 普段は温和なジョコ・ウィドド大統領だが、この日の閣議では終始厳しい表情で閣僚らに檄を飛ばした。 KOMPASTV / YouTube