<ロシアの諜報機関の特殊工作部隊が、アフガニスタンの米兵を殺せば賞金を出すとタリバンに指令を出していたことがわかった。二重スパイを猛毒ノビチョクで殺そうとしたのもこの「29155部隊」と言われるが、どんな組織なのか> ロシア軍の諜報機関「GRU」(ロシア連邦軍参謀本部情報総局)に属する特殊工作部隊が、アフガニスタンに駐留するアメリカ兵の殺害を報奨金付きでイスラム原理主義勢力タリバンに依頼していたことが報じられている。西側諸国や周辺各国の不安定化を企むロシア政府の秘密工作を最前線で実行してきた部隊だ。 「29155部隊」と呼ばれるこの特殊工作部隊は2008年に活動を開始したと見られている。しかし、その存在が初めて公になったのは2019年で、ニューヨーク・タイムズ紙が、匿名の西側諜報機関の情報として報道したときだ。 謎に包まれたこの部隊が先週末、再び脚光を浴びたのは、ニューヨーク・タイムズ紙が、ロシア諜報機関がタリバン兵にアフガニスタン駐留のアメリカ兵を殺害すれば賞金を出すと依頼していたと報道したのだ。これを受けて、アメリカ国内では米大統領ドナルド・トランプに対して怒りの声が上がっている。そうした作戦が存在することを何カ月も前に知らされていたにもかかわらず、何の行動も起こさなかったとみられるためだ。 西側の民主主義を揺るがす企て ワシントン・ポスト紙の報道によると、米諜報機関は、アフガニスタンでの米兵死亡事件のうち、少なくとも1件が29155部隊の依頼に関係していると見る。米地上軍は、早くも1月にはこうした疑惑を報告しており、トランプ政権内では3月から状況判断をめぐって議論がされてきたと、ニューヨーク・タイムズ紙は伝えている。 29155部隊が米兵を直接標的にしていると非難されたのは今回が初めてだ。しかし同部隊は、他国での陰謀や暗殺計画など、複数の事件で注目を浴びてきた。それらの事件はすべて、ロシア大統領ウラジーミル・プーチンが、西側の民主主義を揺るがし、ロシアの影響力を強化しようとする企ての一環だ。 独立系の英調査報道グループ「べリングキャット」のジャーナリストたちによると、29155部隊は、実戦経験を積んだ工作員約20人で構成されているようだ。その目的はヨーロッパの不安定化である。ニューヨーク・タイムズ紙によれば、同部隊は極秘扱いされており、GRUのほかの部隊ですら、その存在を認識していない可能性がある。 ニューヨーク・タイムズ紙が2019年10月に報じたところによれば、29155部隊を指揮するのはアンドレイ・アヴェリャノフ少将という人物だ。第1次及び第2次チェチェン紛争に従軍したベテランとみられ、2015年にはロシア最高の栄誉勲章を受章している。 <参考記事>リトビネンコ事件再び?ロシア元スパイが毒物で重体──スティール文書と接点も <参考記事>元スパイ暗殺未遂に使われた神経剤「ノビチョク」はロシア製化学兵器 ===== 29155部隊は、2018年にイギリスで起きたロシア人の元二重スパイ暗殺未遂事件に関与したと考えられている。英国諜報部のためにスパイ活動を行っていた元GRU工作員セルゲイ・スクリパリは、2006年にロシア当局に起訴され、有罪判決を受けた後、2010年に米露が合意したスパイ交換で釈放され、英国に亡命していた。しかし、2018年3月に英南部の都市ソールズベリーで、娘とともに神経剤攻撃を受けた。命を取り留めた父娘は新しい身元を得て、ニュージーランドに移住したと見られている。 のちにべリングキャットが身元を明らかにした暗殺未遂犯は、スクリパリの自宅玄関に神経剤ノビチョクを吹き付けるために使ったボトルをごみ箱に捨てた。ところが、それを見つけた別の男性が香水ボトルだと勘違いした。男性は危篤状態に陥りながらも一命をとりとめたが、パートナーは死亡した。 29155部隊はまた、2016年にバルカン半島のモンテネグロで発生したクーデター未遂事件にも関与したとされている。このクーデターは、同国の親ロシア派国会議員が、モンテネグロのNATO加盟を何とか妨害しようとして企てたとされている。計画の背後にはロシアとセルビアがいたとされ、モンテネグロ国会を襲撃し、ミロ・ジュカノビッチ首相を暗殺する予定だったという。 邪魔する者は消す モンテネグロ当局によってクーデターは阻止され、ロシア国籍の男性エドワルド・シシュマコフとウラジミール・ポポフの2名が不在のまま起訴された。ロシア政府はクーデター未遂事件への関与を認めていない。モンテネグロ検察によれば、シシュマコフは以前、GRU工作員であることが判明してポーランドから国外追放された男だ。 英ソールズベリーで元スパイ毒殺未遂事件を実行したGRU工作員は、2015年にブルガリアの兵器販売者エミリアン・ゲブレフの毒殺を2度にわたって試みた一味と見られている。べリングキャットが29155部隊の関与を突き止めた事件はほかにも、2014年のロシアによるクリミア併合や、同じく2014年のモルドバ不安定化を目的とした秘密工作がある。GRU工作員が2016年と2017年にスイスへ定期的に入国していた証拠も発見されている。 29155部隊は現在、スペインで捜査の対象となっている。これは、2017年秋にカタルーニャ自治州で実施された独立住民投票の前と最中に、同部隊の工作員が州都バルセロナを訪れていたことが、べリングキャットの分析によって明らかになったのだ。 (翻訳:ガリレオ) 【話題の記事】 ・アダルトサイトを見ているあなたの性的嗜好は丸裸 グーグルやフェイスブックが追跡=調査 ・中国「三峡ダム」危機--最悪の場合、上海の都市機能が麻痺する ※画像をクリックするとアマゾンに飛びます2020年7月7日号(6月30日発売)は「Black Lives Matter」特集。今回の黒人差別反対運動はいつもと違う――。黒人社会の慟哭、抗議拡大の理由、警察vs黒人の暗黒史。「人権軽視大国」アメリカがついに変わるのか。特別寄稿ウェスリー・ラウリー(ピュリツァー賞受賞ジャーナリスト)