<憎悪や暴力をあおる投稿放置するフェイスブックに広告を出せば出した方のブランドにも傷がつく、と運動は大企業にも広がっている> フェイスブックに対する広告ボイコットの動きが止まらない。自動車メーカーのフォード、衣料品大手アディダス、ヒューレット・パッカード(HP)、米小売大手ベストバイも出稿を一時的に停止するなど、大企業にも広がり始めた。 この運動がもたらす長期的な損失についてソーシャルメディアの専門家はまだ測りかねているが、ある業界コンサルタントは、フェイスブックというブランドが「傷つく」可能性がある、と本誌に語った。 人種差別やヘイトスピーチ、フェイクニュースの温床となりながら、適切な処置をとらないマーク・ザッカーバーグのフェイスブックの広告主に対し、出稿の停止を求めるキャンペーン「ストップ・ヘイト・フォー・プロフィット(憎悪を利益にするな)」には、現在200社以上の企業が参加している。 フェイスブックやインスタグラムとの取引の見直しを発表する企業は日に日に増え、トランプの暴力的なツイートに警告表示を出したツイッターまで巻き添えをくらっている。ザッカーバーグは6月26日にみずからフェイスブックに投稿し、「ニュース価値」があっても規約違反の投稿には警告ラベルをつける方針を明らかにして、事態の鎮静化を図った。だがボイコットの流れは変わらない。 SNS全体の広告に影響 フォードの広報担当者は6月29日の声明で、今後30日間、国内のソーシャルメディアへの広告を一時停止して、SNS上での同社の広告の在り方を「再評価」することを明らかにした。「ソーシャルメディア上のヘイトスピーチや暴力、人種差別を助長するコンテンツは根絶する必要がある」。 アドバタイジング・エイジ誌は分析会社パスマティクスのデータとして、フォードのフェイスブックでの広告費は過去30日間で5万7000ドル、年初来では約290万ドルに達していると伝えた。 衣料品大手のアディダスは、7月はフェイスブックとインスタグラムへの広告を一時停止し、この期間を使って「安全な環境を作り、維持する責任を負うために、わが社および取引先が守るべき基準を策定する」と発表した。 家電量販店ベストバイの広報担当者はニュース専門放送局CNBCで、フェイスブックとインスタグラムから広告を7月いっぱい引き上げると語った。HP(ヒューレット・パッカード)は防止策が講じられるまで、アメリカ国内のフェイスブック広告を大幅に削減する予定だ。 6月29日にボイコットに加わった企業には他に、デニーズ、衣料品のプーマ、クラウドファンディングサービスのパトリオン、清掃用品のクロロックスが含まれていた。ユニリーバ、ベライゾン、スターバックス、コカ・コーラ、ディアジオなどの大企業はすでに参加している。 <参考記事>フェイスブックのザッカーバーグ、倫理観の欠如に社内外から批判噴出 <参考記事>反ワクチン派がフェイスブック上での議論で優勢となっている理由が明らかに ===== 広告出稿を停止し、契約を見直す企業が増えているとはいえ、あらゆる企業が「憎悪を利益にするな」運動を声高に支持しているわけではない。 マイクロソフトは5月に、不適切なコンテンツの隣に広告が表示されることに懸念を示し、5月に米国内のフェイスブックとインスタグラムへの広告出稿を一時停止していた。これは、今回のボイコット運動に先立つ動きだ。 「憎悪を利益にするな」運動は、5月25日にミネアポリスで警察官に殺害されたジョージ・フロイドの事件をきっかけに、反人種差別とBLM(ブラック・ライブズ・マター=黒人の命は大事)運動が世界的に広がるなかで、弾みがついた。 フェイスブックに対する非難が大きくなったのは、「略奪が始まると銃撃が始まる」というドナルド・トランプ大統領の明らかな脅しを含む投稿の削除も警告もフェイスブックが拒んだのがきっかけだ。「コンテンツの良し悪しを決めるのはプラットフォーム企業ではない」と、ザッカーバーグは責任逃れのようなことを言った。 そこで人権擁護団体はフェイスブックの一番の泣きどころ、つまり収益に打撃を与えるよう企業に訴えた。広告はフェイスブックの主な収入源で、ガーディアン紙によれば、年間700億ドルの収益の約98%を占めている。 広告停止だけではすまない だが、「憎悪を利益にするな」運動が最終的に世界最大のSNSであるフェイスブックに持続的な打撃をもたらすかどうかについて、専門家の意見は分かれている。 ソーシャルメディアの研究者でコンサルティング会社バッテンホールの創設者ドリュー・ベンビーは本誌に、ボイコットは「フェイスブックというブランドを、世間の目に映るイメージの点でも、財務の点でも傷つける」可能性があると語った。金銭的損害がすでに生じているからだ。 大手広告主が出稿を一時的に停止したことから、フェイスブックの市場価値は6月26日の時点で500億ドル以上急落した。株価は約8%下落し、ザッカーバーグの純資産は大きく減少した。 「この影響が世界規模になると、さらに大きな問題になる」と、ベンビーは本誌に語った。「フェイスブックは、今起こっていることを氷山の一角と捉え、素早く行動を起こすべきだ。このボイコット運動が世界中に広がると、ソーシャルメディアのユーザーはより安全な環境のプラットフォームに移動する。フェイスブックは広告収入を失うだけではすまず、ユーザーを失うことになる」 「ボイコットの主導者は、過激な行動や憎悪を引き起こす投稿に対してフェイスブックがより強い姿勢を取り、『プラットフォームの過激化と憎悪の拡散を食い止めるためのポリシーの常識的な変更』を実施するよう求めている。これは不合理な勧告ではない」と、ベンビーは言う。 ===== それでも広告ボイコットがフェイスブックにとって長期的な損失になると誰もが考えているわけではない。ソーシャルメディア界にくわしいマット・ナバラは、現在進行している運動は2017年のユーチューブに対する運動に似ていると指摘した。 当時、グーグル傘下のユーチューブは人種差別主義者や同性愛嫌悪のコンテンツの横に広告を配置し、広告主の企業から批判された。 ナバラはこう指摘する。「広告主は水中の血の匂いに敏感に反応して殺しにいくサメのようなものだ。だがフェイスブックの損失は、長期的には表面的な傷やイメージ低下で済む可能性が高い。フェイスブックはターゲット広告では世界最高のプラットフォームだ。フェイスブックが本当に痛みを感じるよりもずっと早く、広告主はフェイスブックを使いたくなるだろう」 (翻訳:栗原紀子) 【話題の記事】 ・イエス・キリストは白人から黒人に戻る? ・自殺かリンチか、差別に怒るアメリカで木に吊るされた黒人の遺体発見が相次ぐ ※画像をクリックするとアマゾンに飛びます2020年7月7日号(6月30日発売)は「Black Lives Matter」特集。今回の黒人差別反対運動はいつもと違う――。黒人社会の慟哭、抗議拡大の理由、警察vs黒人の暗黒史。「人権軽視大国」アメリカがついに変わるのか。特別寄稿ウェスリー・ラウリー(ピュリツァー賞受賞ジャーナリスト)