<一般市民に危険をもたらすテロ組織を掃討するはずの国家警察が、市民を殺害していた──> インドネシア国家警察は、スラウェシ島中スラウェシ州ポソを中心とした地域で継続中のイスラム過激派「東部インドネシアのムジャヒディン(MIT)」に対する壊滅作戦の期間をさらに3カ月延長し、重要手配中のメンバー14人の拘束に全力を挙げる方針を明らかにした。 インドネシア政府は現在感染拡大が一向に収まらない新型コロナウイルスの防止策に全力を挙げているが、MITをはじめとするインドネシアの複数のテロ組織がコロナ禍による社会の混乱を利用してテロを起こす懸念があるとして、警戒監視を全国で強化している。 MITは「ジェマ・アンシャルット・ダウラ(JAD)」と並んで現在インドネシアで最も危険なテロ組織とされ、国家警察の対テロ特殊部隊「デンスス88」と陸軍の戦略予備軍などが共同でポソ周辺のMITメンバーの摘発を続けている。 治安当局は2020年1月1日からMIT殲滅を目指した「ティノンバラ作戦」を発動。3月31日の第1期終了時に再延長し6月29日まで継続してきたが、最重要容疑者として手配中のMITメンバー14人がいまだに拘束されていないことなどから、7月1日から9月30日までの3カ月間、3度目の延長で初期の目的達成を目指すことになった。 創設メンバーの指導者殺害後も活動継続するMIT MITは東南アジアのテロ組織「ジェマ・イスラミア(JI)」の創設者でもあるアブ・バカル・バシール師が2008年に創設した「唯一神擁護共同体(JAT)」から分派したサントソ容疑者(複数の殺人、誘拐容疑で氏名手配)によって2011年に新たに組織された。 その後2016年7月にサントソ容疑者が治安部隊との銃撃戦で射殺され、メンバーも20人以下になるなど組織の弱体化が伝えられた。 しかし新たな指導者としてアリ・カロラ容疑者(ポソ銀行襲撃事件などで指名手配)を中心に組織の再興を図っていると伝えられ、メンバーには同じイスラム教徒のウイグル人テロリストも合流しているとの情報もあり、30人前後が中核メンバーとして活動中とされている。 MITは3月27日ポソ近郊で救援物資輸送中の警察部隊を襲撃。4月8日には治安部隊のスパイ嫌疑があるという農民の斬首などに関与、同月15日にはポソ市内の銀行で警備中の警察官を襲撃、同月19日にはポソ近郊での農民殺害と、スラウェシ州でのテロ活動を活発化させている。 【話題の記事】 ・新型コロナのワクチンはいつになったらできる? ・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ ・新型コロナ、血液型によって重症化に差が出るとの研究報告 リスクの高い血液型は? ・韓国、日本製品不買運動はどこへ? ニンテンドー「どうぶつの森」大ヒットが示すご都合主義. ===== こうした状況の中、6月初旬に2人の一般人が銃撃を受けて死亡する事件が起き、治安部隊の関与が取りざたされる事態となっている。主要メディア「コンパス」は目撃者の話として「ティノンバラ作戦」に参加している治安部隊メンバーが一般市民である37歳と18歳の男性を銃撃し死亡させた、と報じたのだ。 国家警察は報道を受けて「そのような事案があったことは承知している」としながらも詳細については一切明らかにしようとしていない。現在ポソ警察と対テロ作戦の担当者が現場となった山間部に入り調査を続けているという。 殺害された2人の民間人はポソの北プシシール地区在住とされ、同地区周辺で最近治安当局による対MIT作戦が行われていたことなどから「テロリストと誤認されて殺された」、あるいは「誤った情報に基づく誤認殺害」の可能性も浮上している。 治安部隊が誤認し一般市民殺害の可能性 さらに地元紙などの報道によると6月25日には同州パリジ・ムートン地区で鋭利な刃物で殺害された2人の民間人も発見されている。事件の詳細は依然として不明だが、治安部隊によるMIT殲滅作戦の激化によって民間人の犠牲が増えており、作戦とのなんらかの関連が疑われる状況になっている。 過去にMITも治安部隊のスパイとみなした民間人を殺害したケースがあるものの、民間人殺害が全てMITの犯行と断定することもできず、銃撃された2人の民間人のケースのように目撃情報から治安部隊によるとみられる殺害の例もある。 そうした状況の中でこれまでの傾向として、①民間人殺害に関して犯行の目撃情報がない場合はMITの犯行とみなす②逆に目撃情報がある場合は被害者がMITのメンバーあるいは協力者との情報があった、としていずれも軍や警察に好都合な結果になることが多いとされる。 もちろん、なかには実際にMITによる民間人殺害の例も含まれていることもある。 こうした状況からテロ組織の活動地域であり、そこで治安当局による作戦が展開中の場合、一般住民にとっては厳しい生活環境が続くことになる。 【話題の記事】 ・新型コロナのワクチンはいつになったらできる? ・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ ・新型コロナ、血液型によって重症化に差が出るとの研究報告 リスクの高い血液型は? ・韓国、日本製品不買運動はどこへ? ニンテンドー「どうぶつの森」大ヒットが示すご都合主義. ===== 秘密軍事訓練基地の存在 中スラウェシ州ポソを中心とする地域を活動拠点とするMITだが、かねてから山間部に秘密軍事訓練基地を設け、フィリピン南部のイスラム過激派メンバーや東南アジア、中東、ウイグルなどからテロリストが集結して実弾射撃や爆弾製造・爆破などの訓練を行っていた。何度か治安部隊に発見されて攻撃を受けたものの、その後別の場所に新たな基地を設置するなど、現在もそうした秘密訓練施設が点在しているとされる。 しかし、今年に入ってからの治安部隊による殲滅作戦強化からMITは活動拠点が限定され、新たなメンバー獲得も困難に直面しているという。そのため海外組織やメンバーとの"連携"に活路を見出そうと画策しているとの分析もある。 こうしたことからジョコ・ウィドド政権は「テロへの警戒は決して怠らないように」との号令の下、山間部の訓練基地の発見、捜索や指導者アリ・カロラ容疑者を筆頭とする14人の主要指名容疑者の逮捕、さらに外国人メンバーの摘発、海路によるフィリピンとの往来の警戒監視などを強化している。 インドネシアにとってテロは依然として「今そこにある危機」にほかならず「コロナとの闘い」と同じく最優先課題となっている。 [執筆者] 大塚智彦(ジャーナリスト) PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など 【話題の記事】 ・新型コロナのワクチンはいつになったらできる? ・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ ・新型コロナ、血液型によって重症化に差が出るとの研究報告 リスクの高い血液型は? ・韓国、日本製品不買運動はどこへ? ニンテンドー「どうぶつの森」大ヒットが示すご都合主義.   ※画像をクリックするとアマゾンに飛びます2020年7月7日号(6月30日発売)は「Black Lives Matter」特集。今回の黒人差別反対運動はいつもと違う――。黒人社会の慟哭、抗議拡大の理由、警察vs黒人の暗黒史。「人権軽視大国」アメリカがついに変わるのか。特別寄稿ウェスリー・ラウリー(ピュリツァー賞受賞ジャーナリスト) ===== 誤認殺害について会見する州警察長官 住民に対する誤認殺害に関連し、治安部隊の隊員数十人が取り調べを受けているという。 KOMPASTV / YouTube 【話題の記事】 ・新型コロナのワクチンはいつになったらできる? ・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ ・新型コロナ、血液型によって重症化に差が出るとの研究報告 リスクの高い血液型は? ・韓国、日本製品不買運動はどこへ? ニンテンドー「どうぶつの森」大ヒットが示すご都合主義.