<感染拡大が止まない現状に「ショック療法」で国民の不満をそらそうとした大統領だったが......> インドネシアのジョコ・ウィドド大統領が全閣僚を前にして「危機感が欠如している、緊張感をもって迅速に職務に精励するように」と新型コロナウイルスの感染拡大に有効な手立てが打てない政府の現状に怒りと不満を漏らした演説。これが国民の間では不評であることが調査機関によるネット上の反応調査で明らかになった。 6月18日に大統領官邸で行われた閣議の動画(約10分)を大統領府が28日にマスコミに公開。動画ではジョコ・ウィドド大統領が厳しい表情と口調で右手を何度も振りかざして「今は特別に異常な事態にあるという意識、空気が欠如している」「ここにいる閣僚は2億6000万人の国民に対して責任を負っていることを認識するべきだ」「今まで通りの普通の仕事ぶりではいけない、仕事の内容とスピードが求められている」などと閣僚に緊張感とスピード感をもって職務に全力で当たり、未曾有の「コロナ禍」への有効な対策を講じるように呼びかけた。その様子をマスコミは叱咤激励と不満爆発ととらえ一斉に大きく報じた。(関連記事=「激しい剣幕で閣僚に猛省促す大統領の意図は? 新型コロナ対策後手のインドネシア」) ところが演説の中でジョコ・ウィドド大統領が言及した「内閣改造もありうる」という部分にマスコミも国民も経済界なども過剰反応して、内閣改造の時期や閣外に出される閣僚の名前などが最大の関心事となって報じられる事態になっている。 「いつ、誰が閣外追放の対象」という憶測があまりにも飛び交う事態に国家官房長官のプラクティノ氏は「先日の大統領演説は効果があったようで、その後各閣僚は一生懸命職務に取り組んでいる。こうした状況であればあえて内閣改造の理由がみあたらない」と応えたと6日に地元マスコミが伝え、内閣改造に話題と関心が集中している現状の沈静化に乗り出す事態となっている。 「7月中旬に3人交代説」有力か 「怒れる大統領の火のような激しい演説で閣僚に猛省を促した」とマスコミに報じられた演説については公開直後からその意図を巡っていろいろな憶測が飛んだが、マスコミの関心は「いつ、誰が閣外協力の対象」に集中し、これまでにアイルランガ・ハルタルト経済調整相、ルフット・パンジャイタン海事・投資調整相、テラワン・アグス・プトラント保健相などの名前が「交代候補閣僚」として名前が上がっている。 ただアイルランガ調整相は連立与党の一角を占める「ゴルカル党」の党首であり、同調整相の交代は与党内での新たな緊張と対立を招く危険があるとの見方も強い。さらにルフット調整相は国軍幹部出身で軍出身の他の閣僚による反発も予想されるなど「難しいのではないか」との見方もある。 これに対しテラワン保健相は一向に増加傾向が収まらないコロナ感染者数、感染死者数の「責任」を取らせるには「最適の閣僚」で新大臣の下でさらなるコロナ対策推進のシンボルとなる可能性はある。 ただしこの難しい時期に困難な問題に直接直面して「あえて火中の栗」を拾おうとする後任の保健相が果たしているのかどうか、という問題も浮上しているという。 内閣改造の時期については経済団体の幹部が「7月中旬」に言及しているほか、8月17日のインドネシア独立記念日までには断行される可能性が高いなどの観測もでている。 ネット反応調査では45%が否定的反応 インドネシアの「社会経済教育情報調査機関」は演説が公開された6月28日から7月3日にかけてインターネット上のSNSなどに寄せられた国民の反応、コメントを分析した結果を6日に明らかにした。 それによると大統領演説に関して、インターネットを含めたあらゆるメディアを通じて約6000回の報道、言及、投稿があったとしている。その中にはFace BookやYou Tube,インスタグラム、ツイッターなどが含まれ、合計約63000の反応(コメントやリツイート)があったという。 そしてその約45%が否定的見解を表明し、約35%が肯定的に評価し、約30%が中立的な立場、姿勢を示した、としている。 大統領演説に対する否定的見解には「演説内容の表現が不適切である」「内閣改造は閣僚への脅迫である」「閣僚を批判することは大統領の指導力の欠如の表れである」「大統領の欲求不満」「計画、政策、人材活用が不十分なことを露呈」「大統領としての責任放棄ではないか」などという手厳しい批判が寄せられたという。 閣僚は笑って応えず こうした国民の受け止め方は演説の動画を公開したジョコ・ウィドド大統領と大統領府の意図したこととは違うとみられ、「大統領は国民の反応の読みを誤った可能性もある」との見方も出ている。 6日にプラボウォ・スビアント国防相と会談した「内閣改造」で名前の挙がっているアイルランガ調整相は、会談後に記者団から「内閣改造」へのコメントを求められたが、2閣僚とも笑顔をみせながら一切答えず沈黙を守った。 最大与党でジョコ・ウィドド大統領の実質的後ろ盾になっている「闘争民主党(PDIP)」の幹部によると内閣改造はジョコ・ウィドド大統領が密かに画策はしているものの「大統領が辞めさせたいと考えている閣僚と辞めさせることができる閣僚」が必ずしも一致しないという現実に直面していると分析する。 2019年10月に発足した第2期ジョコ・ウィドド内閣には主要政党が推薦した閣僚や政党幹部、さらに国軍、国家警察の元高級幹部、ビジネスリーダーや財界関係者などが抜擢されている。その多様で多彩な顔ぶれには最年少閣僚が35歳(就任当時)という若い世代も含まれ話題を振りまいた。 しかし発足から約8カ月が経過し、コロナ禍という国家的非常事態の中で、閣僚としての手腕、実績、才覚で「玉石混交」が次第に明らかになったこともジョコ・ウィドド大統領の「苛立ち」の背景にあるという。 果たしてジョコ・ウィドド大統領は閣議で言及した内閣改造を断行するのか、するとすれば「いつ、誰を閣外に出す」のか。プラティクノ国家官房長官の必死の火消しにも関わらず、国民の関心は高まる一方である。 [執筆者] 大塚智彦(ジャーナリスト) PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など 【関連記事】 ・科学者数百人「新型コロナは空気感染も」 WHOに対策求める ・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ ・新型コロナ、血液型によって重症化に差が出るとの研究報告 リスクの高い血液型は? ・韓国、日本製品不買運動はどこへ? ニンテンドー「どうぶつの森」大ヒットが示すご都合主義.   ※画像をクリックするとアマゾンに飛びます2020年7月14日号(7月7日発売)は「香港の挽歌」特集。もう誰も共産党を止められないのか――。国家安全法制で香港は終わり? 中国の次の狙いと民主化を待つ運命は。PLUS 民主化デモ、ある過激派の告白。