<警察とFBIは徹底的に黒人解放運動の組織を憎悪し壊滅させた。71歳の元ブラック・パンサー構成員が危惧する今のBLM運動の問題とは? 本誌「Black Lives Matter」特集より> 5月末からアメリカで勢いづいているBLM(ブラック・ライブズ・マター=黒人の命は大事)運動は、世界中の人々の心をわしづかみにしている。 ニュースサイトwburによると、5月25日以降、BLM運動に関連した抗議活動は全世界で3960件を超える。アメリカだけでなくベルギーやイギリスでも、植民地支配を象徴する歴史上の人物の像が、群衆によって倒されている。 さらに人権擁護団体アムネスティ・インターナショナルによると、5月25日~6月5日にアメリカの首都と40州で、抗議活動と警察の衝突が125件発生。平和的なデモやジャーナリストにも、傍観者にも、警察は実力行使を辞さない。 BLM運動は、2012年2月にフロリダ州で17歳の黒人高校生トレイボン・マーティンが自警団の男性に射殺された事件を機に始まり、瞬く間に世界的な運動に発展した。現在、世界中に40の支部がある。 今年5月25日にミネソタ州ミネアポリスで46歳の黒人男性ジョージ・フロイドが、警察官に膝で首を押さえ付けられ、その後に死亡。この事件を引き金に、現在も激しい抗議活動が続いている。しかし、BLM運動のルーツは、アメリカの歴史と精神のもっと深いところにある。 今から100年ほど前、黒人民族主義の指導者マーカス・ガーベイが世界黒人開発協会アフリカ会連合を設立した。ガーベイは1923年6月に郵便詐欺で有罪判決を受け、懲役5年を言い渡された。FBI初代長官のJ・エドガー・フーバーが後に黒人過激派グループと見なす勢力との数十年に及ぶ戦いで、第1ラウンドはFBIの勝利だった。 50年代と60年代にはマーチン・ルーサー・キングとマルコムXが、アメリカの人種問題の景観を永遠に変えた功績で、歴史に名を残すことになった。しかし、BLMをめぐる現代の問題を理解するためには、ブラック・パンサーと警察権力の関係のほうが重要だろう。 1966年にカリフォルニア州オークランドで結成されたブラック・パンサーはアフリカ系アメリカ人社会主義者の政治組織で、自衛のために武装する権利を主張した。 1956 年にフーバーは、FBIにコインテルプロと呼ばれる極秘の(違法行為もいとわない)監視プロジェクトを導入した。その目的は「黒人民族主義者、ヘイトグループ、それらの指導者や広報官、メンバー、支持者の活動を混乱させ、世論の誤解を誘導し、信用を失墜させ、あるいは無力化させる」ことで、「さまざまなグループが統合したり、新たな若い信奉者を勧誘したりする努力を挫折させる」ことだった。 FBIの標的には「白人のヘイトグループ」や「社会主義労働者党」、そしてキューバも含まれていたが、黒人民族主義の組織と運動が最優先であることは明らかだった。 【関連記事】Black Lives Matter、日本人が知らないデモ拡大の4つの要因 ===== FBIにコインテルプロと呼ばれる極秘の監視プロジェクトを導入したフーバー元長官 AP/AFLO 「革命」を公言した代償 フーバーは1969年に、ブラック・パンサーを「国家の安全保障の最大の脅威」と名指しした。ブラック・パンサーの表向きの目的は、メンバーや市民を自衛のために訓練して、そのような権利の正当性を教育すること。学校で朝食を無料で提供すること。医療と教育を提供し、自分たちの選挙権を要求することだった。 ただし、少なくとも当局や権力者から見ると、この組織には邪悪な顔もあった。1つには、彼らは革命を主張していた。公式には非暴力を掲げていたが、抗議活動に参加するメンバーが武装していたことは、彼らのイメージを損なった。 1968年9月、ブラック・パンサーの共同設立者ヒューイ・ニュートンが警察官の死に関与したとして、故殺で有罪判決を受けた。控訴審で判決が覆されるまで23カ月間、彼は刑務所で過ごした。もう1人の共同設立者ボビー・シールも、ブラック・パンサーに潜入していた警察の情報提供者を殺害したとして起訴された。裁判は評決不能に終わり、控訴審は、公平な陪審員を見つけることが不可能だという理由で棄却された。 サトゥル・ネッドことジェームズ・モットは、カリフォルニア州サクラメント在住の学生だった1967年に、街頭を行進するブラック・パンサーの設立者グループを見ていた。 その1年後、キング牧師が暗殺された数日後に、19歳のサトゥルはブラック・パンサーに入った。彼を駆り立てたのは、キングの死だけではなかった。暗殺事件からわずか2日後の1968年4月6日、オークランド警察との衝突の最中に、ブラック・パンサーの17歳の会計係ボビー・ハットンが銃殺されたからだ。 「突然、目覚めた。どうして彼が? そう思ったんだ」と、現在71歳のサトゥルは語る。「ジョージ・フロイドの状況と似ている。どうして彼らは(ハットンに)こんなことをしたのか? 彼が何かをして、だから殺されたというのか?」 ブラック・パンサーは早くからオークランド警察の蛮行に注目していた。「彼らが、人間である私たちを攻撃することが許せなかった」と、サトゥルは言う。 オークランド警察の仕事と白人至上主義団体KKK(クー・クラックス・クラン)は「直結しているも同然で」「コミュニティーの占領軍」のようになっていたことに、ブラック・パンサーは焦点を当てた。警察は白人至上主義者を引き入れて採用していたと、サトゥルは言う。「白人至上主義者にしてみれば夢のような仕事だった。誰かを残虐に処刑した警官が、翌日は街を歩いていた」 【関連記事】BLM運動=「全ての命が大事」ではない 日本に伝わらない複雑さ ===== 今年6月、首都ワシントンでBLM運動の参加者を取り締まる警察 LEAH MILLIS-REUTERS 連邦機関の徹底した監視 ジョージ・フロイドが殺された事件がきっかけでBLM運動が世界中に広がったように、17歳のハットンが殺されたことで、ブラック・パンサーは全米各地に支持を広げた。だがそのためにフーバーの怒りを買うことにもなった。 「奴の憎悪は興味深いものだった」と、サトゥルは言う。「奴は知的な黒人を心底憎んでいた」 ブラック・パンサーのメンバーは「あまりに知識豊富、あまりに高慢」でフーバーの手に負えなかったと、サトゥルはみる。「彼らが驚いたのは、われわれが外国に支部を置いたこと。黒人がこれほど組織的な団体を結成し、どの地域のどの民族集団にも共有されるような運動課題を設定するなど思ってもいなかった」 ブラック・パンサーは、設立後間もなく世界中に支部を持つようになった。「誰もが受け入れられるような理念をまとめたからだ」と、サトゥルは誇る。 取り締まる側にも彼らなりの理念があり、それは今でも通用している。フーバーの号令の下FBIは情報収集や秘密工作を精力的に進めた。「FBIの監視網は広大だ」と、公民権運動の歴史に詳しいバージニア大学のケビン・ゲインズ教授は言う。「フーバーは公民権運動や黒人解放運動は体制転覆を目指す運動だと思い込み、特に憎悪を燃やした」 FBIの公式のメモでは、穏健か過激かを問わず、黒人組織は全て「ヘイト」団体に分類されていたと、ゲインズは言う。黒人組織内部や組織同士の対立を促すため密告者や工作員が送り込まれた。とりわけブラック・パンサーの監視と内部工作にはあらゆる連邦機関が駆り出された。 「あらゆる連邦機関が隠然と、または公然と、法すれすれの秘密作戦も行い、ブラック・パンサーつぶしに一丸となった」と、サトゥルは言う。「今の国土安全保障体制の枠組みはまさにこれを引き継いでいる」 ニューヨークに本拠を置く人権擁護団体「憲法上の権利センター」のビンス・ワレンら人権擁護派に言わせると、BLM運動に対するトランプ政権の監視は、最盛期のブラック・パンサーに対する監視とそっくりだ。FBI、国土安全保障省、各地域の警察は「憲法修正第1条で明確にその自由を保障された政治的発言を監視するため、高度に軍事化されたテロ対策的なアプローチ」を取っていると、ワレンは警告する。 BLM運動が今後どうなるかは予断を許さない。ブラック・パンサーはFBIの絶え間ない嫌がらせや警察による一部幹部の超法規的な殺害、内輪もめに加え、ニュートンが1974年に売春婦を銃で撃ち、致命傷を負わせる事件を起こしたこともあり(不起訴になった)、徐々に影響力を失って1982年に活動を停止。ブラック・パンサーの名を継いで新たに結成された組織もあるが中身は別物で、人権団体「南部貧困法律センター」から「ヘイト集団」と見なされている。 【関連記事】コロナ禍なのにではなく、コロナ禍だからBlack Lives Matter運動は広がった ===== 1970年、ニューオーリンズの公営住宅を占拠した黒人活動家の排除に向かう警察 BETTMANN/GETTY IMAGES この記事を書くに当たり、ウェブサイトを通じて取材を申し込んだが、BLM運動の代表者には接触できなかった。メディアの取材などにすぐに応じられる代表者なり広報担当がいないことは問題だと、サトゥルは指摘する。「対外的な窓口はどこなのか。説明責任を明らかにしないと。どこで物事が決まっているのか、誰もが疑問を持ち始めている」 さらにサトゥルが危惧するのは、警察の暴力に抗議するデモで、一部の参加者が暴徒化する傾向が目につくことだ。警察がひそかに抗議集会に入り込み、暴力を唆している場合もあると思われるが、こうした暴力騒ぎがあると、BLM運動が効果的な広報活動を行っていないこともあって、一般の人々が運動に反感を持ちかねない。「彼らはこうやって運動をつぶす......デモ参加者を犯罪者に仕立てるのだ」 既に人種差別や植民地化の歴史と関連がある記念碑や彫像の破壊は、歴史家やジャーナリスト、政治家を嘆かせ、BLM運動に対する批判が高まりつつある。 政権の狙いは反乱法の発動か BLM運動の著名な支持者の1人で、資金集めも行っている活動家のショーン・キングは6月23日、伝統的な白人のイエス・キリスト像は「白人優位主義の抑圧の道具であり、撤去すべきだ」とツイートした。キングによれば、これに対し「殺してやる」という脅迫コメントが約500件寄せられた。 BLM運動が組織的なまとまりを欠くことは、指導権争いが起きたときに問題になると、サトゥルは言う。運動には寄付が寄せられているが、資金集めをするなら使途を明らかにしなければならない。 実はキングも警察の暴力の被害者と遺族を支援するため、これまでに3450万ドルの資金を集めてきたが、主流のメディアや反対派から不正会計疑惑を指摘され、非難の嵐にさらされた過去がある。昨年行われた監査で疑惑が解消し、「(不正疑惑は)完全な捏造だ。常にそうだった」と、ネット上で宣言したばかりだ。 ニュースサイトのバズフィードによれば、「BLM基金株式会社」なる団体が何百万ドルもの寄付金を集めているが、BLM運動とは全く関係がない。 サトゥルが最も懸念するのは、ドナルド・トランプ米大統領に容赦なくデモを取り締まるようハッパを掛けられた警官隊に、デモ参加者が恐れげもなく立ち向かっていく事態だ。「白人黒人を問わず、今の人たちは昔のデモ参加者のように警察を恐れない」と、彼は言う。「すぐさまけんか腰になる。不必要に人が死ぬ事態は避けなければ。このままでは人々が殺され、撃たれることになる。そうなれば(彼らの)思うつぼだ。(トランプは)1807年制定の反乱法の発動を宣言したいのだ」 反乱法が発動されれば、トランプは反乱鎮圧のためと称して「陸海軍を動員する権限」を行使できる。 <2020年7月7日号「Black Lives Matter」特集より> 【話題の記事】 ・中国・三峡ダムに「ブラックスワン」が迫る──決壊はあり得るのか ・科学者数百人「新型コロナは空気感染も」 WHOに対策求める ※画像をクリックするとアマゾンに飛びます2020年7月7日号(6月30日発売)は「Black Lives Matter」特集。今回の黒人差別反対運動はいつもと違う――。黒人社会の慟哭、抗議拡大の理由、警察vs黒人の暗黒史。「人権軽視大国」アメリカがついに変わるのか。特別寄稿ウェスリー・ラウリー(ピュリツァー賞受賞ジャーナリスト) ※画像をクリックするとアマゾンに飛びます2020年7月14日号(7月7日発売)は「香港の挽歌」特集。もう誰も共産党を止められないのか――。国家安全法制で香港は終わり? 中国の次の狙いと民主化を待つ運命は。PLUS 民主化デモ、ある過激派の告白。