<営業再開しても空席が目立っていた映画館の客席を埋めたのはゾンビたちだった......> 6月24日韓国で公開された映画『#生きている(英題:#ALIVE)』(チョ・イリョン監督)が、ポストコロナでの韓国映画の起死回生作品となるかのように公開後5日間で観客動員100万人を突破した。公開初日以降、連日ボックスオフィス1位を記録し、今月6日には150万人を突破するなど好調な結果を出している。 さらに、今月15日には世界185カ国に販売が決定し、カンヌ国際映画祭から今年の招待作品に認定された『半島』(ヨン・サンホ監督)も公開予定だが、公開9日前にして既にチケット予約が3万枚を突破し、予約率31.2%(当日分も含めた全予約に占める割合)を記録した。 この2作作品に共通するキーワードは「ゾンビ」だ。まさかゾンビ映画が韓国映画館の復活にひと役買うことになるとは、10年前まで誰も考えもしなかっただろう。 ゾンビ映画を革新した『新感染 ファイナル・エクスプレス』 これまで「ゾンビ映画」といえば、世界的にB級イメージ、もしくはコメディーの印象が強かった。韓国でもコメディー要素のある作品に登場する程度だったが、2016年のカンヌ国際映画祭で『新感染 ファイナル・エクスプレス』がミッドナイト・スクリーニング部門に特別招待作品として選ばれたころから流れが大きく変わった。当時、このカンヌ映画祭に筆者も参加していたが、現地でも試写会チケットの人気は高く話題となっていた。 これまで、韓国は様々なブームを生み出してきた。韓流ドラマ、K-POP、Kコスメ、Kフード、Kムービーときて、これからはKゾンビの時代だ。 まず、ゾンビとひと言でいっても様々な定義がある。「何らかの力で死者が蘇ったモンスターパターン」や、「ウィルスなどでゾンビのような症状が出た人が人を襲うパターン」など様々だが、ここでは一度死んで蘇り、生きている人を襲う元人間たちを「ゾンビ」と呼ぶことにする。 ===== 当初は鳴かず飛ばずだったゾンビもの 韓国初めての商業用ゾンビ映画は1980年の『괴시』だ。しかしこの映画、内容は1974年製作スペインのゾンビ映画『Non si deve profanare il sonno dei morti(英題:Let Sleeping Corpses Lie))をコピーしたのではないかと論争にもなった。 その後、ゾンビはしばらくの間、韓国商業映画に現れることはなかったが、2006年『죽음의 숲(英題:Dark Forest)』というオムニバス映画の4つ目のエピソード『ある日突然』にゾンビが登場する。これは、サム・ライミ監督の名作『死霊のはらわた』のような典型的アメリカン・スプラッター系ゾンビ映画だった。 その翌年には、映画『GP506』が公開される。これは韓国軍の基地でゾンビが発生し、その謎に迫るという内容だが、予告編・ポスター共にゾンビよりもミステリー要素のみ協調し公開された。同年、映画『タクシー運転手 約束は海を越えて』のチャン・フン監督が作った短編映画『The Villains』が第11回富川ファンタスティック映画祭で短編特別賞を受賞する。これは、2006年のワールドカップ日韓共同開催の応援で集まった人たちからゾンビ感染が始まるというストーリーだ。 2010年には、韓国にゾンビウィルスが蔓延した世界を6話で描いたオムニバスコメディー映画『隣のゾンビ』、2012年には、『人類滅亡計画書(第一話:素晴らしい新世界)』と『ホラー・ストーリーズ(第四話:救急車)』の2本のオムニバス映画でゾンビを扱ったエピシードが公開されている。さらに、2014年には韓国映画史上初のザ・ハイティーン・ゾンビ映画と銘打った『ゾンビスクール』が公開されたが興行的には失敗。 パニック映画として売り出した『新感染 ファイナル・エクスプレス』 そして、2016年7月20日『新感染 ファイナル・エクスプレス』が満を持して公開される。ブロックバスター級のゾンビ映画としては韓国映画史上初の試みであった。それ故、宣伝も慎重にならざるを得ず、予告編やポスターには逃げ惑う人びとを中心に構成され、ゾンビ映画というよりも、パニック映画の要素を前面に押し出している。結果的にそれが功を奏してか、ゾンビ映画では驚異的といえる観客動員1000万人を突破した。 『新感染 ファイナル・エクスプレス』の公開から約1カ月後の8月17日、同じヨン・サンホ監督が前日談として作ったアニメーション『ソウル・ステーション/パンデミック』が公開された。 さらにその2年後、2018年には貧乏家族がゾンビを使って商売を始めたことから巻き起こる騒動を描いたコメディー映画『感染家族』と、時代劇×ゾンビという設定の『王宮の夜鬼』が公開される。時代劇系Kゾンビといえば、Netflixで世界的ヒットしたドラマ『キングダム(2019)』が思い浮かぶが、その1年前にすでに映画では登場していた。 そして今年『#生きている(英題:#ALIVE)』と、『新感染〜』から4年後の世界を描いた『半島』が公開される。 このように、これまでの韓国映画におけるゾンビの流れを見ていると、突然ゾンビ映画がヒットしたのではなく、実は2010年から2年おきにゾンビ作品が公開されてきたことがわかる。「ゾンビとSFは当たらない」というジンクスにもめげず、韓国映画界がコンスタントに製作を続けたことが後のビックヒットに繋がったのかもしれない。 ===== 幽霊よりゾンビが受けた理由は? そもそも、韓国では非現実的な設定の韓国産映画が好まれにくい。韓国人の映画関係者の友人によると、「韓国が舞台で韓国人の俳優だと、リアル過ぎてSFやありえない設定が嘘くさく感じてしまう」そうだ。そういう点で見れば、ゾンビよりも人間関係やドラマ部分を強調し、一般的なパニック映画にすることが成功の要因なのかもしれない。さらに、ゾンビは幽霊など得体のしれない物体でなく戦えるモンスターであることから、アクションシーンで見せ場を作りやすく、観客の心を見事につかんだのだろう。 ゾンビには大きく分けて2種類に分けられる。埋葬された後、魔術などの何かの力で生き返り、のろのろ動くスロー系ゾンビと、ウィルスなどで死の直後覚醒するハイパー系走れるゾンビだ。そもそも、日本でゾンビがあまり定着せず、ホラーといえば幽霊なのは、日本は火葬だからなのではないだろうか? 韓国は、今でこそ火葬が多いが、元々は儒教で土葬なので、ゾンビのような生き帰りは怖さとして潜在的に残っているのかもしれない。火葬に移行した背景には、土地の確保が難しいため、また埋葬方法が自然と同化させる埋め方で管理が大変である為と言われているが、2000年に「葬事等に関する法律」が見直され、火葬での納骨の普及を、国と地方自治体が積極的に行うことを義務付けた背景がある。 さて、日本発Jホラーの世界的ブームメントのきっかけと言えば、90年代後半の『リング』と2000年の『呪怨』だろう。『リング』はハリウッドリメイクも公開され、『呪怨』に関しては今月Netflixで新作のドラマ版が世界配信された。しかし、一部のJホラー作品は恐怖というよりは若干コメディーとも取れるような作品が多く、世界が求めるJホラーの姿とズレが生じ、いつの間にか期待値が薄れてしまった。Kゾンビはまだ定着の兆しを見せ始めたところだが、ただの一時的なブームにならぬように今後の作品にも期待したい。 ===== 夏を盛り上げるゾンビ映画と題してニュースでも取り上げられた『#生きている』と『半島』□ 연합뉴스TV / YouTube 『新感線 ファイナル・エクスプレス』の4年後、ゾンビに覆い尽くされた世界を描く『半島』の欧米向けトレーラー□ MOVIE&NEW / YouTube 韓国教育放送公社EBSの人気ゆるキャラ、ペンスのYouTubeチャンネルに『#生きている(英題:#ALIVE)』主演のユ・アインとパク・シネが登場。ユ・アインが映画同様に真剣な演技をしているところに注目。 자이언트 펭TV / YouTube