<ビジネスにおける「日本人マインド」と「アラブ人マインド」は違うが、両者をつなげる「パブリック・ディプロマシー」がこれからますます重要に> ここ数年、日本とアラブ諸国の経済または科学技術の交流が徐々に深まっていくにつれて、日本人とアラブ人の接触する機会が増えている。ただ、言語と文化の壁により、互いの社会の情報を完全に理解できず、受け入れられないことがある。互いの偏見や誤解、ステレオタイプといった障壁によって対立が蔓延する国際社会を前に、注目を集めているのが「文化外交」とも訳されるパブリック・ディプロマシー (public diplomacy) である。 この種の外交の中心となるのは必ずしも政府だけでなく、政府と民間が連携して取り組むことでより大きな効果を生み出すとされている。 パブリック・ディプロマシーの関連分野はさまざまだが、その中で私が特に注目するのは「ビジネスや仕事の感覚」というものだ。 大半の人々は、生きていくために働かないわけにはいかない。また人間は労働という行為を通して、自らの存在意義を確認する。つまり働くということは、個々人の独立と自尊心の充足にとって必要不可欠な行動だ。ただ、国のいろいろな事情によって仕事の感覚とそのリズムはバラエティーに富んでいるのが実情である。それでは、アラブ人はどのような仕事のあり方を理想的だと考えているのだろうか。 NHK放送文化研究所の「日本人の意識」調査にある条件項目を参考に、「理想の仕事」についてアラブ人50人に聞いてみたところ、次のような条件があがった。 1)働く時間が短い仕事 2)失業の心配がない、安定した仕事 3)高収入が得られる仕事 4)責任者として采配が振るえる仕事 5)世間から一目置かれ、もてはやされる仕事 6)世の中のためになる仕事 7)専門知識や特技がいかせる仕事 この中で、アラブ人が最も重視している条件は何かに関しては、その人の出身地によって差が見られるだろう。 ペルシア湾岸地域出身のアラブ人30人に、「一番理想の仕事の条件は何か」と聞いてみたところ、トップの答えは「責任者として采配が振るえる仕事」だった。アラブ人全般(50人)では、「世間から一目置かれ、もてはやされる仕事」「専門知識や特技がいかせる仕事」「働く時間が短い仕事」の3つの答えが並んだ。 アラブ人の仕事感覚には1つの特徴が見られる。それは「独立志向」だ。「さすが一匹狼のアラブ人だなあ」と思うかもしれない。確かにアラブ人は独立して一国一城の主になることに価値を見出すところが大きいが、今の時代ではこの常識も消えつつある。目まぐるしく変化する経済事情などによって、引き受けるリスクが増大している。そのため、リスクを伴った「独立志向」がだんだん減少し、「安定志向」が増えているのだ。 <関連記事:「自粛」という言葉の向こうに見えてくる日本人独特のマインド> ===== アラブ人サラリーマンの仕事ぶりのここが違う! アラブ人の仕事に対する感覚とその特徴は、どのようなものなのか。日本人と比較しながら考えてみると、次のような20の特徴があげられる。 1. 常に弁解がましく言い訳 日本人は自分のミスであっても、または相手の非によるものであってもすぐに顧客や上司に対して謝ることに徹する。先に謝ることはベストな方法だと考えられているそうだ。たとえ言い訳があっても、それを言わずにただただ謝ることができるのが日本のサラリーマンの誠心誠意の流儀である。ただ、日本語の「謝り」は感謝表現の一種ということも。一方、アラブ人は正反対で、謝るのが不得意である。プライドが高いためか、謝ることを避けるべく、弁解がましく言い訳とも取れる釈明を帯びた謝り方をよくする。 2. 長期の休みは必須 どんな状況でもロングバケーションを取るのは禁物!という感覚を持つ日本人とは正反対に、アラブ人には長期の休みを取るのが権利の一つだと考える人が多い。日本人のように「常に周りの人のことを考えることを大切に、休暇を取ろう」という志向もあるが、日本人ほどではない。 3. 始業時刻にルーズ、終業時刻は正確 世界を見渡してみると、時間に厳しい文化もあれば、時間に緩い文化もある。その違いはどこから来るのだろうか。例えば、あなたがアラブ地域や南米の出身者と会う約束をすると、彼らは時間に遅れてくることがままある。ただ、会議や仕事などを終える時間に関しては割と守る方だ。一方、日本人は時間にはかなり厳格だが、終業時刻も厳守かといえばそんなことはなく、5時が定刻なら7時に帰っていく......。プライベート時間重視型のライフスタイルという考え方は毛頭ない。 その他の特徴も併せて、以下のように日本人とアラブ人のサラリーマンの仕事への感覚と特徴を対照表にまとめてみた。 <関連記事:「自粛」という言葉の向こうに見えてくる日本人独特のマインド> ===== アラブ人は目的達成のためなら、あらゆる手段の行使を惜しまない。日本の場合はもちろん目的を重視してはいるが、それ以上に体面や手段にこだわる傾向があるように思う。 例えば、私の職場では、研究室にまで来てパソコン上の出勤のボタンを押さなければ欠勤となる。また、他の同僚が残業していると帰りづらい。仕事がなくても皆が帰り出すまで机に座っているのは、アラブではナンセンスだろう。いかに早くいかに効率的に結果が出せるかが大切である。だから毎日のように残業していても、その姿自体は評価の対象とはならないのである。逆にあんなに残っていてこれをやったのかと、業績から残業している姿がマイナスされて評価されることになる。残業したことより、なし得た業績を見られる。結果が評価の対象となるのだ。 日本では、今の「リモートワークやテレワーク」などで効率良く早い時間で仕事を終わらせ、アフターファイブを楽しむ姿は何となく「ずるい」とされてしまいがち。深夜残業をして大変そうな姿をアピールしていると、「頑張っている」と評価されるという印象も未だに社会に根強くある。 ひたすら利益や目的の追求に全力を投入する「目的志向」のアラブ人マインドと、ビジネス相手とまず和を構築し、一つの同質な集団として仕事を進めていこうと考える「手続き志向」の日本人マインド。こうした日本人とアラブ人のメンタル的な違いはビジネスの場面でも、人間関係においても現れる。日本人はアラブ人のやり方や感覚に対して「ずるい、フェアじゃない」と不満を感じる場面が少なくなく、不協和音が聞こえてくることもある。 だからこそ、異文化摩擦に学びながら日本の「マインド」とアラブの「マインド」を繋げてくれる留学生の人材育成や、多種多様なビジネスによる交流など、新世代によるパブリック・ディプロマシーの役割に大きく期待したい。 【執筆者】アルモーメン・アブドーラ エジプト・カイロ生まれ。東海大学・国際教育センター教授。日本研究家。2001年、学習院大学文学部日本語日本文学科卒業。同大学大学院人文科学研究科で、日本語とアラビア語の対照言語学を研究、日本語日本文学博士号を取得。02~03年に「NHK アラビア語ラジオ講座」にアシスタント講師として、03~08年に「NHKテレビでアラビア語」に講師としてレギュラー出演していた。現在はNHK・BS放送アルジャジーラニュースの放送通訳のほか、天皇・皇后両陛下やアラブ諸国首脳、パレスチナ自治政府アッバス議長などの通訳を務める。元サウジアラビア王国大使館文化部スーパーバイザー。近著に「地図が読めないアラブ人、道を聞けない日本人」 (小学館)、「日本語とアラビア語の慣用的表現の対照研究: 比喩的思考と意味理解を中心に」(国書刊行会」などがある。 【話題の記事】 ・東京都、9日の新型コロナウイルス新規感染224人を確認 過去最多を記録 ・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ ・科学者数百人「新型コロナは空気感染も」 WHOに対策求める ・韓国、日本製品不買運動はどこへ? ニンテンドー「どうぶつの森」大ヒットが示すご都合主義.   ※画像をクリックするとアマゾンに飛びます2020年7月14日号(7月7日発売)は「香港の挽歌」特集。もう誰も共産党を止められないのか――。国家安全法制で香港は終わり? 中国の次の狙いと民主化を待つ運命は。PLUS 民主化デモ、ある過激派の告白。