<ニュース番組スタッフの殺害事件。だが報道に関するトラブルでもないという......> インドネシアの民放テレビ局「メトロTV」の若手編集スタッフが遺体で発見される事件が発生した。複数の刃物傷が残されていることや遺体がバナナの葉で覆い隠されていたこと、さらに所持品がほとんど奪われていなかったなどから地元警察は「物盗りではない殺人事件」との見方を強めて捜査を開始した。 かつては政府関係者、高級公務員や大物財界人、治安当局者などの腐敗や汚職、人権侵害などを追及する記者やマスコミ関係者が口封じと見せしめのために殺害される事件があったが、最近はそうした事件もほとんどなくなっていただけに、今回の事件の背景、犯人像、犯行動機などをめぐって様々な憶測が飛び交う事態となっている。 メトロTVのニュース番組で映像編集を務めていたヨディ・プラボウォ氏(26)は7月7日午後10時半ごろ、勤務先のメトロTVでの仕事を終えて退社、その後行方不明となった。 家族から「帰宅しない」との連絡を受けた警察が照会のあったヨディ氏所有のバイクを捜索していたところ、8日午前2時ごろに南ジャカルタ・パサングラハーンにあるウルジャミ・ラヤ通り近くのガソリンスタンドに駐車してあったヨディ氏所有のバイク「ホンダビート」を発見した。警察によるとバイクは発見時にはエンジンは冷えており、誰がそこにバイクを駐車したのか目撃者はいなかったという。 凧揚げ中の子供が遺体発見 その後もヨディ氏の捜索が続く中、10日午前11時45分ごろバイクが発見されたガソリンスタンドに近い高速道路の道路脇と一般道の間にある斜面のような空き地でコンクリートの塀際に男性の遺体があるのを凧揚げで遊んでいた子供3人が発見して、警察に届けた。 現場に到着した警察官によると、遺体にはバナナの葉がかぶせてあり、ヘルメットとジャケット、靴、バッグ姿でうつ伏せ状態だったという。所持品の中に運転免許証、身分証明書などがあり身元はすぐにヨディ氏と確認された。 遺体は近くのクラマトジャティ警察病院に運ばれ法医学チームによる司法解剖、検死が行われた。11日に記者会見したジャカルタ警察の報道官によると遺体には首と左胸に鋭利な刃物によるとみられる傷があり、さらに首には鈍器によるとみられる外傷も確認されたという。遺体の近くから犯行に使われたとみられる鋭利な刃物も警察によって回収され、指紋採取、血痕の血液型などの鑑識作業が続いているという。 現場で回収されたバッグの中や着衣のポケットなどから携帯電話、財布(所持金4万ルピア=約300円)、銀行のATMカード、納税者番号カードなどが発見、回収された。こうした所持品の状況から警察では「窃盗や強盗などの物盗りの犯行の可能性は低い」として「殺人事件」と断定して特別捜査チームを編成して犯人逮捕を目指している。 【話題の記事】 ・新型コロナの起源は7年前の中国雲南省の銅山か、武漢研究所が保管 ・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ ・抗体なくてもT細胞が新型コロナウイルス退治? 免疫システムで新研究 ・韓国、水族館のイルカショーで虐待議論 「素人のお客」乗せてストレス死も? ===== 関係者23人に事情聴取、警察犬も投入し捜査 これまでに犯行現場に警察犬を投入して被害者、加害者の手掛かりを追うとともに13日までにヨディ氏の家族や7年間交際して結婚を考えていたという恋人、メトロTVの同僚、友人など23人から事情を聞いたとしている。 ジャカルタ警察報道官は11日、事情聴取などの結果に関して「現時点ではまだ話せることはない。犯行の動機もまだ不明確である」としている。 物盗りでないとすると犯行動機が怨恨によるものなのか、偶発的ないさかいやケンカも可能性としては考えられるが現時点では断定に至っていないものとみられている。 警察によるとヨディ氏は刺される前に殴られるなどの暴行を受けていた可能性があるとしており、さらに同氏が着ていたジャケットのポケットから刃物が発見されたことも明らかにしている。このヨディ氏が所持していた刃物がなんらかの事情で自己防衛のために所持していたものなのかどうかも含めて警察は周辺の関係者から事情を聞いているようだ。 ヨディ氏の職場であるメトロTVのニュース部門のディレクター、アリフ・スディトモ氏は地元メディアの取材に対して、ヨディ氏は2015年12月にメトロTVに就職し、主に映像編集の仕事に携わり、7月7日は午後3時から午後10時半までの勤務シフトだったと語った。 事件の動機、犯人は謎のまま ニュース番組の映像編集というヨディ氏の仕事の性格から、取材対象者などからの恨みや怒りを買う可能性は低いとみられ、テレビマンとしての取材や業務に関係する殺人ではなく、個人的な事情が背景にあるとの見方もでている。 ただし、これまでのところ犯行に関する目撃者が全くいないこと、さらに刃物で首や胸を刺すという凶行から「殺害を目的としている」とみられ犯人には明らかな殺意があった可能性があり、強い怨恨が動機の犯行との見方が有力視されているという。 警察の検視結果によると犯行は遺体の状況から発見された10日の2、3日前としていることから、ヨディ氏は7日の午後10時半ごろにメトロTVを退社。帰宅途中にガソリンスタンでバイクを停車した後に事件に巻き込まれ、深夜に殺害された可能性が高くなっている。 これまでの警察の事情聴取では7年間交際していた恋人がおり、女性問題があったとの情報はなく、また職場関係者や交友関係者からも特に複雑な人間関係や恨みをかうような情報もなく、個人的な人間関係のもつれによる犯行との見方も現状では難しいという。 いずれにしろ若いテレビ局の編集スタッフという報道関係者が殺害されて遺棄遺体が発見されるという殺人事件に、メトロTVを含めた民放各局、タブロイド紙を含めた主要メディアは「ヨディ氏殺害の謎」として事件発生直後から葬儀の様子、家族のインタビューまでを大きく報じている。 [執筆者] 大塚智彦(ジャーナリスト) PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など 【話題の記事】 ・新型コロナの起源は7年前の中国雲南省の銅山か、武漢研究所が保管 ・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ ・抗体なくてもT細胞が新型コロナウイルス退治? 免疫システムで新研究 ・韓国、水族館のイルカショーで虐待議論 「素人のお客」乗せてストレス死も?   ※画像をクリックするとアマゾンに飛びます2020年7月21日号(7月14日発売)は「台湾の力量」特集。コロナ対策で世界を驚かせ、中国の圧力に孤軍奮闘。外交・ITで存在感を増す台湾の実力と展望は? PLUS デジタル担当大臣オードリー・タンの真価。 ===== ニュース番組のスタッフ殺人事件の謎 民放テレビ局「メトロTV」の若手編集スタッフ殺人事件は、他のテレビ局も連日大きく報道している KOMPASTV / YouTube 【話題の記事】 ・新型コロナの起源は7年前の中国雲南省の銅山か、武漢研究所が保管 ・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ ・抗体なくてもT細胞が新型コロナウイルス退治? 免疫システムで新研究 ・韓国、水族館のイルカショーで虐待議論 「素人のお客」乗せてストレス死も?