<たった一人でこの感染力。しかも本人は無症状──このことから言えるのは、市中感染はいつでも起こり得るということだ> 今年3月中国で、エレベーターを一度利用しただけの女性が、推定71人に新型コロナウイルスを感染させたことが、米疾病対策予防センター(CDC)のサイトに掲載された研究報告で明らかになった。 この女性は、二次感染させた誰とも直接は接触しておらず、接触機会といえば、アパートのエレベーターに一緒に乗っただけだった。こうした「スーパースプレッダー」の事例は、新型コロナウイルスの感染者が1人いるだけで「広範囲の市中感染」に発展する可能性があることと、自主隔離でウイルスを抑制することの難しさを示していると、研究チームは述べている。 25歳のこの女性は、3月19日にアメリカから黒龍江省の自宅に帰宅。同省では3月11日以降、新規感染者は1人も出ていなかった。帰国時、女性は無症状だったため、自宅で自主隔離するよう指示された。それ以来、彼女が人と「接触」したのは自宅アパートでエレベーターに乗った時だけ。それも直接触れたわけではなく、空間を共有しただけだ。女性は、3月31日と4月3日にPCR検査と抗体検査を受けたが、いずれも陰性だった。 あちこちで人が倒れ出す 感染経路は非常に複雑だ。女性の部屋の階下に住む男性の家では、3月26日に泊まった母親とそのパートナーが3日後、パーティーに出かけた。4月2日、パーティー参加者の1人が発作を起こし、同じくパーティーに出ていた息子たちに付き添われて病院に搬送された。4月7日、母親のパートナーが新型コロナウイルス感染症を発症した。 「(母親のパートナーである)男性は4月9日に陽性と確認された。このクラスターで最初に確認された感染者だ」と、新興感染症の学術誌「Emerging Infectious Diseases」には書かれている。その後、この男性と接触した複数の人も、検査で陽性の結果が出た。そのなかに、アメリカから帰国した女性と同じアパートに住む住民も含まれていた。 4月2日に発作を起こした男性が、息子たちに付き添われて入院しているあいだに、病棟内ではほかに28人が新型コロナウイルスに感染した。さらに、看護師5人、医師1人、病院職員1人も感染した。男性が発熱後に転院した2つ目の病院でも、20人が感染したことがわかっている(入院男性は4月9日に感染が確認された)。 感染経路をたどる中で、アメリカから帰国した女性の存在が幸運にも明らかになり、4月10日と11日に再検査を行った。その結果、IgG抗体が陽性と判明。以前に新型コロナウイルスに感染していたことを示唆する結果だ。研究者らは、この女性は無症状キャリアで、エレベーターのパネルなどを通じた接触感染で同じアパートの住民に感染を広げたと結論づけた。ほかの住民は検査の結果、全員が陰性だったという。 <参考記事>新型コロナの起源は7年前の中国雲南省の銅山か、武漢研究所が保管 <参考記事>科学者数百人「新型コロナは空気感染も」 WHOに対策求める ===== 中国疾病対策センター(CCDCP)は、このクラスターの感染者たちから採取したウイルスのゲノムサンプル21点を分析した。その結果、少しだけ違う3点を除き、大半のゲノムが一致した。これは、このクラスターが単一の感染源から発生したことを示唆している。「このクラスターで採取されたウイルスのゲノム配列は、それ以前に中国で流行していたウイルスのゲノム配列と明らかに異なっている。これは、このウイルスが国外由来であることを示し、このクラスターの発生源は(アメリカから帰国した)女性であるとみられる」 研究報告は、この事例をこう結論づける。「新型コロナウイルスの感染者がたった1人いるだけで、市中感染に発展する可能性があることが明らかになった。リソースの不足と、封じ込めの課題も浮き彫りにした。新型コロナウイルスのパンデミックを抑制・阻止するには、今後も引き続き予防策を講じ、感染者の検査と隔離を強化していくことが不可欠だ」 (翻訳:ガリレオ) 【話題の記事】 ・イタリアを感染拡大の「震源地」にした懲りない個人主義 ・「集団免疫」作戦のスウェーデンに異変、死亡率がアメリカや中国の2倍超に ・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ ・異例の猛暑でドイツの過激な「ヌーディズム」が全開 ※画像をクリックするとアマゾンに飛びます2020年7月21日号(7月14日発売)は「台湾の力量」特集。コロナ対策で世界を驚かせ、中国の圧力に孤軍奮闘。外交・ITで存在感を増す台湾の実力と展望は? PLUS デジタル担当大臣オードリー・タンの真価。